第4話 火の鳥亭

 ハザマの街は岩で家を作っている町だ。

 どこから見つけてきたのか岩を隙間なく壁として敷き詰めることで建てられている。

 合間合間には砂が流し込まれて、接着用の土壁を作り上げて、完全な密閉空間を作り出していた。


「火の鳥亭にようこそ。お客さん初めてみる顔だね」

「あっ、はい。まだ新人冒険者で世界渡りの巡礼途中なんです」

「そうかいそうかい。門はいくつ超えたんだい?」

「四つ超えました」

「へぇ〜!!! それは凄いね。あんた優秀な冒険者さんじゃないか」

「そっ、そうなんですかね?」

「ああ、普通は二つ三つ超えた辺りで冒険の過酷さに断念して辞めちまうもんだ。環境が変わる世界を渡るっていうのはそれだけ大変なことなんだよ」


 恰幅の良い女将さんは、多くの冒険者を見てきたんだろう。

 慈しみを含んだ顔でよく頑張ったと褒めてくれた。


 宿を取ることを伝えて、火の鳥亭の女将バーバラさんに色々と話を聞きいた。

 お金に余裕があったので個室をお願いすると、嬉しそうに笑ってくれた。


「ガハハハ、本当に優秀な冒険者さんみたいだね。どうだい? ウチの娘を嫁に貰わないかい?」

「えっ、いえ、まだ世界渡りの途中なので」

「ん〜、優秀だからね。唾をつけときたくなるね」


 不遇職のゴーレム使いだと言ってもなかなか引いてくれなかった。


「不遇職でも、あんたなら最後まで行っちまいそうだけどね。まぁこういう誘惑で辞めちまう冒険者さんも多い。無理は言わないよ。うちは風呂はなくてね。サウナと食事もつけられるけどどうする?」

「全てお願いします」

「ますます気に入ったね」


 個室は銀貨5枚。

 サウナで銀貨1枚。

 食事も銀貨1枚。

 これが一泊夕食付の値段だったので、朝食もつけてもらって更に銀貨一枚。


 1日の宿代が合計銀貨八枚(8000円ほど)


 十日分を金貨1枚で支払った。

 お釣りで銀貨二十枚を受け取る。


「あんたどこまでも太っ腹だね。ここまで気前の良い新人冒険者さんは初めてだからサービスしちゃうよ」


 窓がある個室に案内してくれて、ベッドに机という簡易な部屋だった。

 ただ、端の部屋なので隣が居らず、落ち着ける雰囲気だった。

 

 床には絨毯が弾かれていて、石でできた机に、木の椅子は不思議なバランスに思える。椅子が木なのは軽いからという単純な理由だった。


「それと、こっちはウチの娘のアーチェだ。よろしくね」

「アーチェです。お客様」


 16歳のアーチェはバーバラさんに似て気立の良さそうな女の子だった。

 そばかすがあり、笑顔の可愛い子で、美人というわけではないが愛嬌があるタイプに思える。


「出かける時やサウナに入りたい時、部屋の掃除はアーチェの仕事だから頼みたい時は、全てこの子に言っておくれ」

「アーチェさん。よろしくお願いします。新人冒険者のヒースです。今は世界渡り途中で、10日ほどお世話になります」

「新人さんで、個室なんですか?! 凄い優秀なんですね?」

「はは、そうでもないですよ。これから頑張るのでよろしくお願いします」

「はい! しっかりお世話をさせていただきます」


 前屈みになると、大きな双丘に谷間が生まれて、つい視線が向いてしまう。

 16歳とは思えない体つきをしている。


「手を出したら責任取ってもらうからね」


 耳元でバーバラさんに囁かれて、グッと奥歯を噛み締める。

 俺は絶対に七つの門を越えると自分で決心したんだ。

 それまでは色恋にうつつを抜かしている場合じゃない。


「ふふふ、お母さん。優秀な人を見ると私の結婚相手にどうかってオススメするんです。気にしないでいいですからね。どうぞゆっくりしていってください」


 アーチェさんは凄く良い子だった。

 確かに妻にするなら愛嬌があって、良い子が一番いい。


 だけど、今の俺には目的があって、それを達成するまでは……。


 クゥ〜男は辛いぜ。


 サウナに入って汗を流し、汗を拭くお湯とタオルをもらって体を拭いた。

 残っていたお金で変えの服も購入したので、服を着替えて夕食に向かう。


 俺以外にも街の人が夕食を食べに来ているようで、火の鳥亭の食堂は随分と賑わっていた。


「女将さん。こっちにエール二つ!」

「アーチェちゃん。注文いいかい?」


 どうやら女将さんとアーチェちゃんが給仕を、宿の店主が料理を担当しているようだ。他にも給仕の女性をもう一人雇っていて片付け専門で食器を運んでいく。


 随分と賑わいを見せている。


「おや、お客さんサウナはどうだった?」

「凄い気持ちよかったです。女将さん」

「ガハハハ、いいねぇ! 次は食事だよ。エールでよかったかい?」

「はい」

「2杯までは宿代に入ってるからね。三杯目はお金を払っておくれ」

「承知しました」


 俺はカウンターの席に案内してもらって、厨房から出てくる料理をそのまま受け取る。エール、パン、スープとメインのファイアーバードの唐揚げが運ばれてくる。


「凄く香りがいいですね!」

「そうだろ。ウチのは特別せいでね。ちょっとした隠し味を入れているんだよ」


 ファイアーバードの唐揚げは、一口サイズに切り分けられていて、それが五個も乗っている。香りが強烈で食欲をそそられる。

 口に入れるとパンチの効いた風味と、とてつもない旨みが広がっていく。


「ウマッ!」


 さらにエールは、この暑いグツグの街に反してキンキンに冷えていた。

 味の濃いファイアーバードの唐揚げをエールの冷たくてサッパリとした味わいが洗い流してくれる。


「ヤバっ! 美味すぎでしょ」


 パンチの効いたファイアーバードの唐揚げに、キンキンに冷えたエールは相性が良すぎる。

 そこにあっさりとした野菜のスープで口直しをして、少し硬めのパンがスライスされて出されている上にファイアーバードの唐揚げを乗せてガブリ。


「合う〜!!!」


 パンにパンチの効いた唐揚げの味わいが染み込んで、最高に旨みを残している。

 そこにキンキンに冷えたエールを流しこめば最高。


「アーチェちゃん。エールおかわり」

「ハーイ!」


 その勢いのまま、エールを三杯も飲んでしまった。

 今までは気を使ってエールなんて飲む機会がなかったけど最高じゃん。

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