地に手をついて、また立ち上がる
雨蕗空何(あまぶき・くうか)
地に手をついて、また立ち上がる
オンユアマークのかけ声で、俺は地面に手をつく。
両足をスターティングブロックに置いて、後ろ足の膝を地面に下ろす。
クラウチングスタート。
陸上競技の短距離走で用いられる、スタートの一形態。
地面に手をついた状態から開始する前傾姿勢の走り出しは、大きな加速力を生む。
それはまるで、地面に倒れ伏した姿勢から、あらがって前に進もうとするように。
何度、駆け抜けただろうか。
溶けゆくような走りの爽快感と高揚感と、タイムへの希求、結果への焦燥。そして届かなかったことへの敗北感。
セット、の合図。
ついていた膝を地面から離し、腰を高く上げる。
頭の方が低い。倒れ込むような姿勢。
何度も、負けてきた。
求める結果が得られなくて、涙を流した。
くやしくて苦しくて、倒れ込んだまま起き上がれないんじゃないかと思うこともあった。
それでも俺は、またこうして、スタートを切ろうとしている。
倒れ込むその前傾を、支えようともがいて、足を前に出して、必死で前に進む。
その推進力はきっと、クラウチングスタートに似ていた。
つらくて前に倒れそうになるたび、出た足が、推進力になった。
号砲。
俺はまた、走り出す。
地に手をついて、また立ち上がる 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker
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