第5話 没入

 ある日、物語が勝手に動き出した。


「───っ!」


 その文章を書いているのはオレだ。しかし、書きながら感情が揺さぶられて目が潤んできたのだ。


「これは間違いなく面白い⋯⋯」


 書いたのは〝三司祭〟という話、それは例えば幼馴染、あるいは昔の学友や同期入社との交わした遠い日の約束。それを置き換えて書いた話だ。


「そうだった。書きたいことはオレ自身の中にある。それを物語にするだけ⋯⋯、単純なことだが、ようやく気付けた」


 作家は経験したことしか書けないというが本当にそうなのだろうか?


「作家は自分の憧れを形にしてもいいんじゃないか。読みたい物語を心から求めて、書いて、共感してもらうために投稿する。それがweb小説ってヤツじゃないのか?」


 商業作家でないなら売り上げは関係ない。だからこそ、自由であればいい。型にハマらず、自分の楽しいを表現すればいい。表面だけの文字の羅列ではなく、心から書いたその文字には確かに没入感が存在した。

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