第5話 宣伝

 翌日、早速少女を魔妖登録所に連れて行った。


 登録時に検査も受けることになる。胃や腸の中を調べて人間を食べた痕跡が出て来たらその場で処分される。これだけで人間側かどうかなんてわからないものだが、現状はその程度の検査しかされない。


 少女は検査に合格し情報が埋め込まれている腕輪を付けられた。名前は鏑木花子として、そして魔妖ハンターとして登録をした。


 この腕輪があればとりあえず人間側から狩られることはないし、最低限の買い物などもできる。まだ魔妖関係の法律は整備されていないので人権とかそんなものはなかった。



 魔妖登録所の帰り道で花子の日常品を買い揃えた。もちろん今回は鏑木が支払ったが、稼ぎだしたら自分で揃えてもらうことになる。


 自宅に戻ると宣伝の準備に取り掛かった。最初は大掛かりな宣伝は行わなかった。ネットで鏑木魔妖探偵事務所のホームページを作成し、その手のサイトに登録するにとどめた。あまり大げさに宣伝をしても初仕事で魔妖を狩るつもりが負けて花子を失う可能性があるからだ。


 自分がこの町に事務所を構えた理由は町の名前が鏑木町と自分の名前と同じだったので目に止まり、小さなビルで部屋も狭いが安く借りることができたのと、同業者が2件しかなかったのが理由だ。


 魔妖を狩るにはまずタレコミから始まる。誰それが最近性格が変わっただの、人間離れした動きをしていただのそういった情報が持ち込まれて調べて欲しいと依頼が来たり、ネットで書き込みがされたりする。


 普通の探偵事務所と違って依頼が来ても依頼者からお金は取らない。依頼が来たらその人物を尾行するなどして人間ではない何かを見つけたら警察に連絡をするのだ。なぜそんな手順をするのかと言うと、ようは誤情報が多いからだ。誤情報に振り回されるほど警察も暇ではないのだ。


 鏑木のような資格を持った者から連絡を受けてやっと警察の調査が入る。そして魔妖と認められれば報告した者に魔妖の討伐の権利が与えられる。討伐に成功すれば報酬がもらえ、失敗すれば待機している重武装の警察官が仕留めるという決まりだ。


 報酬は魔妖によって額が変わる。指名手配されているようなやばい魔妖は1匹討伐するだけで数億~の報酬がもらえる。鏑木がいるところの小さな町で見つかる魔妖などはせいぜい1匹50万程度しか貰えない。しかしその50万程度の魔妖でさえ、一般人が勝てるような魔妖はほとんどいないのだ。ターゲットが魔妖かどうかの調査だって命がけである。


 無名の魔妖だからと戦ってみたら思わぬ強さの魔妖だったりすることもある。そうしてせっかく見つけた人間側の魔妖を失うのだって痛い。50万円ではリスクに見合わない。だからみんな上を目指すのだ。鏑木だって小さな事務所のまま終わりたくはない。


 しかし上を目指すにも当面の間は地道に花子と二人三脚をすることになる。まずは花子の強さを知りたかった。花子に聞いても、


「ん? 中くらい」


と、要領を得ない回答が帰ってきた。実践で確かめる必要があった。



 そんなある日、初仕事が舞い込んできた。


 依頼者は鏑木の事務所に訪れてきた。


 とある小さな会社の社長だった。


「私の部下がね、最近様子がおかしいんで調べて欲しい」

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