第4話 契約
「お前は魔妖なのか?」
鏑木はストレートに聞いた。無駄に時間を過ごしたくはない。一刻も早く魔妖を狩りたいのだ。
「……」
少女はこちらを見たまま何も答えない。どう返事をしようか戸惑っている様子だ。もうすでに答えが出たようなものだな、鏑木は思った。魔妖じゃないならすぐに否定するのが普通だから。
「俺のところへ来い。お前には魔妖狩りをやって欲しい。もちろん対価として報酬も出す。興味があるならついてこい」
鏑木はそれだけを言うとその部屋を出ていった。
(来るかな?)
奪った体の所有していた情報をコピーするとは言っても元が中学生ではやはりそれほど多くの情報は持っていなかっただろう。あの短い言葉からどの程度理解しているだろうか?
階段を降りていくと途中で自分以外の押し音が聞こえてきた。どうやら少女を釣り出すのに成功したようだ。
廃ビルから出たところで鏑木はタクシーを呼ぶと少女を待った。廃ビルから出てきた少女は鏑木に近づくと立ち止まっている鏑木を見て小首をかしげた。
「タクシーを呼んだ」
鏑木は少女にそれだけ言った。少女はそれだけで納得したようだった。
タクシーがやってくるまで15分ほどずっと二人は無言だった。
「さて、さっきも言ったが、俺がお前に望むのは魔妖を狩ることだ。報酬は何を望む? 用意できるものは用意する」
鏑木は少し優しい声で少女に話しかけた。
ここは鏑木の仕事場となる予定の事務所であり、寝泊まりする場所でもある。狭い部屋なので布団を敷いて寝る場所もない。ソファーの上で寝ている。シャワーやトイレといった最小限の物しかないのだ。
「……お金」
少女は無難な回答をしてきた。魔妖は知恵が働く。お金の重要性を知っているのだろう。
「分かった。魔妖を倒せば報酬にお金が出る。その報酬を俺とお前で半々ということでどうだ?」
鏑木としては結構譲歩したつもりだ。光熱費とかは鏑木が持つつもりでいるので少女のほうが手取りは多くなる。
「……それでいい」
少女の声になぜかさっきまでよりも感情がこもったような気がする。
「決まりだな。だがまず魔妖を狩るにはお前を登録しなきゃいけない」
「登録?」
「ああ、登録しなきゃな、お前は狩るどころか狩られる側だ」
当然だが魔妖が人間側なのか敵なのかは区別する必要がある。問題がないと判断されれば登録されることになる。
「今日は遅いから明日にしよう。お前の日常品も揃えなきゃいけなさそうだしな。悪いが俺はもう疲れたので今日は寝る。トイレはそっちでシャワーはあっちだ。使いたければ勝手に使っていいぞ」
鏑木はそれだけを言うとソファーに横になった。順調に魔妖と交渉を進めたように見えるが、実際は神経をすり減らして交渉をしていたのだ。そもそもこの少女が人間側の魔妖なのかわかってないのだ。
(そういえばあいつの寝る場所考えてなかったな。でも魔妖は睡眠必要ないんだっけ? ならまあいいか……)
鏑木は夢の中へと入っていった。
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