第3話 魔妖と戦う理由

 そういった背景の中、鏑木が魔妖ハンターになったのは両親が魔妖に殺されたからであった。


 魔妖を根絶やしにしてやりたい、異常な憎悪を抱き当時は平凡なサラリーマンだったが、仕事を辞め魔妖ハンターの道を進むことを決断した。

 特に夢中になるような趣味がなかった鏑木は、貯金が多く当面の生活資金はあった。


 魔妖ハンターに欠かせないのは協力者となる魔妖が必要だった。憎き魔妖を倒すのに魔妖の力が必要なのは皮肉なものである。



 鏑木は魔妖を探すのにまず昼夜の繁華街を歩き回った。昼ならともかく夜は人気がない場所を歩き回るのは流石に怖かった。人を襲う魔妖に出くわしてもまず1対1で勝つのは難しいのだ。


 鏑木はただブラブラと歩きいて見てまわる中、たまたま一人の少女に目をつけた。特に大きな理由はない。ただまだ学校が終わっていない時間だろうに繁華街でよく見かけたという理由だけだった。


 鏑木はその少女が人間化した魔妖ではないかと少し注目をすることにした。結果本屋で立ち読みをしたり、ゲームをやるわけでもないのにゲームセンターの中をブラブラして過ごすことがわかった。そしてとうとう小さな廃ビルに住んでいることも突き止めたのだ。ただこれだけでは家出少女の可能性もなくはない。


 そこで少女の制服が分かる写真を撮るとネットでどこの学校か調べた。わりと特徴的な制服なのですぐに分かるかと思ったが、中々見つけることができなかった。範囲を広げて探しても分からなかったのでネットで画像を公開して聞いたら驚いたことに遥か北の方の県の中学校の制服であることがわかった。この近辺の学校の生徒で探していたのでは見つからないはずである。


 今度はその少女の顔写真を学校に送ってそこの生徒なのかを確認しようとしたが、個人情報のためということで教えてくれないばかりかどこで手に入れた写真なのかを逆に聞いてきた。仕方がないのでそちらの生徒を見かけたので家出少女ではないかと確認したかったと話すと、今度は先生を派遣するから場所を教えて欲しいと言ってきた。


 この少女が家出少女ならそれでも良かったが鏑木の直感では魔妖である可能性が高いと思っていたのでここで話を打ち切った。言い訳として魔妖の可能性があるので然るべきところに届け出て魔妖でなかったらまた連絡すると伝えた。今の時代はこんな言い訳でさえ通ってしまうものである。


 鏑木としては本当はその少女の両親と正式に交渉がしたかった。お宅の娘さんが魔妖になっていたらこちらで引き取りたいと。現在のルールでは自分の家族が魔妖となったら死亡届を出さなくてはいけない。つまりもうこの少女の両親は娘を諦めなければいけないのである。交渉などしなくてもこの少女が人間側の魔妖であれば鏑木が所有することも可能なのである。


 ここで鏑木も賭けに出ることにした。魔妖の専門家ではない鏑木にできることはもうない。少女の留守中に住居となっている廃ビルの中を調べたが、不審なものも出てこなかった。最悪人の死体が出てくるかもと覚悟を決めていたのに肩透かしだった。



 鏑木は廃ビルで少女が帰るのを待った。夜になり明かりがない廃ビルの中が真っ暗になった頃に少女は帰ってきた。人に話を聞かれたくはないので廃ビルの中で待つことにしたが、少女がどの部屋で生活しているか分からなかったので適当な部屋で待っていた。少女の足音からするとどうやら一つ上の階の部屋に入ったらしい。


 鏑木は上の階へ向かった。こちらの存在を隠す気はなかったので特に足音を殺すこともしなかった。静かな廃ビルに足音が響く。恐らく少女は鏑木が近づいていることも知っているだろう。上の階に上がると一番近い部屋から探すことにした。ドアが開いていたので部屋に入ろうとすると、


「誰?」


 中から声がした。初めて聞く少女の声だ。尾行中に声を発したことはなかった。


「怪しいものじゃない。いや、怪しいか」


 鏑木は自嘲気味に言った。


 見た目だけなら中学生ぐらいの少女だ。セミロングのストレートの髪。愛らしい顔をしているがこの少女が魔妖であれば、中の魔妖はこの少女を殺したか、もしくは死んでいる状態なのを奪ったことになる。まだ将来があったのに……痛ましく思える……鏑木はそう思わずにいられなかった。

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