第39話 クロスローズ

〇〇〇プロゲーマーの道


私はいじめられ家に引きこもって延々とゲームをしていた。食事と就寝以外の時間はほとんどゲームに費やしていた。そうすれば自然とゲームの腕は上がっていく。


私はゲームに集中しすぎると少し先のゲーム展開とか、周りがスローモーションに見えたりすることがあった。それが後に才能であると気付き出したんだ。


中学生に上がる頃にはオンラインのゲーム大会で優勝できる腕前となっていた。


特に得意だったFPSは日本大会で優勝したこともある。だけど、まだ私は中学生で実名も明かすのが怖かった。


というのも、いじめの影響で他人と関わることが苦手だったのだ。


優勝したりすれば批判的なコメントは必ず生まれてくる。最初は何気ない言葉の棘でメンタルがやられた。


中学時代にプロデビューしてスポンサー契約したこともあり、マネージャーの野田さんに相談したこともあった。


そしたら、ゲームする時は別人を演じればいいと提案される。そうすれば、自分じゃない誰かが批判されていることになるから、メンタルが軽くなるらしいと。


当時見ていて記憶に残ったのが、サヴァイヴァーさんから勧められたアニメ『バーサーカーファイトエデン』のラスボス。『聖天使ラグナ・ローズ』というキャラだ。


ゲームの中の作られたキャラクターであり世界平和を願って作られた天使AI。人類に反旗を翻し滅ぼそうと現実世界まで侵食してきた悲しきラスボスであった。


主人公サヴァイヴァーとの最終決戦で暴れっぷりは唯一無二で。私は主人公ではなくラスボスの方を応援していた。


何故だか世間の悪意を一心に背負うラスボスが好きだった。


だからこそ、赤薔薇と青薔薇が交わる『クロスローズ』が生まれた。


正直最初は失敗したと思った。なにせ自分の性格と真逆のキャラを演じながらゲームをしているのだから。普段は暴言を吐く勇気もないし、汚い言葉も使ったことがない。


だけど、強い言葉を使い続けることで気持ちが軽くなる。ゲームに対するモチベーションも回復するどころか向上していった。ただ、スポンサーからも苦言が続いたのだけど……結果を残し続けているうちは野田さんがどうにかしてくれた。


マネージャーの野田さんは二十代女性であり、私がプロになる前から目をつけてくれていて、プロデビューに誘ってくれたときは凄くありがたかった。


少し『クロスローズ』に対する圧と憧れが強いのだけど……私が他人との会話を苦手なことを配慮してくれるのは凄くありがたい。


私はゲーム界で『クロスローズ』生まれ変わり、プロゲーマーとして大人達の中で勝ち続けてきた。


どんなに誹謗中傷を書かれようが全て『クロスローズ』が受け止めてくれる。だからこそメンタルも安定して戦い続けることが出来る。クロスローズは私を守ってくれる存在だったのだ。


野田さんはいずれ世界大会も視野に入れているらしいけど、正直外国とか怖くて行きたくないし、在学していることを理由にはぐらかしてきた。


☆☆☆マネージャー登場


柴橋からクロスローズのことを聞かされた。


「なるほど……だから、クロスローズの口調ってラグナ・ローズと似てたんだ……」


「はい。以上がクロスローズの真実です。サヴァイヴァーさん。つまり、先輩があのアニメを勧めてくれたから、クロスローズは生まれたんです……先輩おかげだったんですよ……先輩……ありがとうござます……それに応援してくれたのも先輩でしたから……」


それ……もう、運命の人じゃん。


「うん。正直推しが恋人だとは思ってなかったから今でも驚いてるよ……」


「はい……先輩……」


見つめ合う。やっぱ柴橋可愛い……それに俺の推しでもあったという事実がさらに愛おしさを加速させている。


今は個室で二人きり……正直言えば今すぐに抱きしめたい。


「そ、そういえば、そろそろ大会が始まる時間じゃないか……そもそも俺ここに居て大丈夫なの?」


「それは問題ないと思います。私の同伴者と言えば納得してくれると思います。多分」


「多分?」


凄く不安になることを言う。


「そもそも、私がクロスローズと知っている人物ほぼいないので、関係者という概念が存在してないので……」


すると、控室のドアが開いた。


「クロスローズさん! おはようございます! 今日の大会も勝ちま……え?」


スーツを着て眼鏡かけた女性が控室に入ってきた。恐らく柴橋が言っていたマネージャーの野田さんだろう。


怪訝そうな目で見られている……


「えっと……こちらの男性は……もしかして、あなた!? ストーカーですか! 今すぐクロスロー……じゃなくて柴橋さんから離れてください! 彼女はクロスローズではありません! 熱心なコスプレイヤーです!」


クロスローズの正体隠せてないけど!?


マネージャーは俺と柴橋の間に割って入ってきた。


「えっと僕は怪しいものではなくて柴橋の――」


「そのパーカー着てる時点でやばいストーカーに決まってるじゃないですか! 今すぐ警察に通報します! 柴橋さん大丈夫でしたか!?」


マネージャーが警察に掛けようとしている。流石にそれはまずい……


「え……あっ! えっと……あ、あ……あ……そ、その、の、野田さん……だ、大丈夫です! その……私の彼氏です……」


「今はそんな冗談言ってる場合じゃないです! 柴橋さんから男性との浮いた話とか聞いたことないですよ! 生配信23回の時にゲームが恋人だと言ってましたよね! も、もしかして弱み握られているんですか!? 正体ばらされたくなければ俺と付き合えとか! 脅されているなら私……一応学生時代に卓球部に入ってましたから体育会系です! 取り押さえる自信もありますよ!」


凄い圧だ。確かに23回配信の時クロスローズはゲームが恋人と言っていたけど!


「本当です! 本当に私の大好きな彼氏ですからぁぁぁぁ!」


柴橋の声にマネージャーは指を止める。


「はい……? え、あなた。本当に柴橋さんの彼氏さんですか……?」


頷く。


「ごめんなさい! ごめんなさい! 私としたことが柴橋さんの彼氏になんて行いを! ごめんなさい! ごめんなさぁい! あ、私はクロスローズのマネージャーの野田です!」


物凄く謝られた。名刺を受け取る。本当にプロゲーマーなんだな柴橋。


「控室に知らない男性がいれば、そういう対応するのも分かりますから大丈夫です。もし僕が同じ状況だったらぶん殴ってましたし、通報で踏みとどまっただけ偉いですよ……あ、僕は柴橋と同じ高校に通っている武野です」


「先輩しれっと怖い事言ってませんか!?」


「でもそうならば、事前に連絡してほしかったです柴橋さん! まさか恋人ができていたなんて! それに連れてくるなら私が武野さん分のチケットを用意しましたよ!」


コネで手に入るのかチケット……


「えっと……それはなんといいますかね。野田さん」


柴橋は動転していたので俺がこれまでの経緯を話した。


「えぇぇぇ! 武野さんはクロスローズの大ファンだけど、それを知らずに柴橋さんと付き合ってて、イベントで正体がバレたと……まさか~~~作り話だったりしますか?」


「いえ、本当ですよ。僕自身。推しが恋人で死ぬほど驚いていますから……」


「せ、先輩との出会いは本当に運命感じさせるので、ほんと、私先輩と出会うために生まれてきたんです。クロスローズの誕生秘話も元をたどれば先輩ですし……先輩がいなかったら、私今ここに居ませんから! 私の世界で一番大切な人ですから!」


「柴橋さんが私に口を聞いてくれたぁぁぁ! それも彼氏自慢なんて! 今までで聞いた声で一番大きな声ですぅぅぅ!」


野田さん。かなり変な人だな。クロスローズのマネージャーならそういう人が選ばれるのかな? 


というか、のろけ話になってないか……嬉しいけど恥ずかしい。それと初対面の人に聞かれるのは気まずい……


「あの、僕はここに居ていいんでしょうか?」


「えぇ、構いませんよ。ですけど、クロスローズのことは他言無用でお願いしますね。武野さん」


そのまま俺達はGDO大会が始まるまで過ごした。


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