第38話 推しの正体は恋人でした。

☆☆☆推しとの対面


柴橋にクロスローズの控室へ連れていかれる。え、控室ってことは本当に本人じゃん。


いやだってそんな可能性を考えてないでしょう。だって性格が真逆じゃないか!


あれ、でも確かに言われてみれば声は似ている。気付くわけないだろう。


「え、本当にクロスローズなの……? 柴橋が……?」


柴橋も慌てふためいているが俺自身一番慌てている。だって、彼女が推しって……いや、今俺推しと対面しているのか……?


いや、ずっと対面していたというわけで……


「ごめんなさい。ごめんなさい……! あんな暴言吐きまくっているクズ配信者なんか嫌ですよね……どうせ私なんて世界で嫌われている配信者ランキングで殿堂入りするぐらいの人間なんです……どうしてこうなっちゃったんだろう。最低ですよね。先輩に黙っていたなんて……あぁぁぁぁぁ……どうしよどうしよう……こんな私なんか別れたいですよね、うぅ……それか先輩私を殺してください……あぁ……いっそ消えてなくなってしまいたい……」


柴橋が死ぬほどネガティブになっている。しれっと別れ話持ち掛けてるし……それだけは絶対に否定しよう。


「絶対に別れたくないです。そんなにネガティブにならなくていいんですよ。あ、あなたの配信ずっと見ていましたから……いや、え? ほんとにクロスローズさんですか? え……? ……はい……え、いやずっとファンですから……えぇぇぇ!」


「えぇぇぇえぇぇ! どうして私のファンなんですか!? え、いや、でも先輩パーカーお揃いですけど……え、どうしてあんなののファンやってるんですか! 先輩可おかしいですよ! もっといい配信者いるじゃないですか! ポンコツンとか、ガンガンマンとか! それと先輩が敬語になってますし!?」


「あんなのって言わないでくださいよ! あなたの腕に惚れ込みましたから! それに最初の配信からずっと見ていましたし、お気に入りの回は大人気配信者に殴り込みに行って、暴言で大炎上した回大好きです。百回は見てますよ! スパチャもめっちゃ飛ばしてますから!」


「えぇぇぇぇえ! ひゃ、百回もあの黒歴史を……え、え……それに最初の配信から見てる熱心なファンって……え、先輩ってまさかあの『スリーロース』さんですか……?」


え、覚えられていた……スリーロースは動画サイトでのPNである。バレれば普段の気持ち悪い言動が全部柴橋に筒抜けだ。それに『あの』って言ってるし……絶対引かれる……


「イエチガイマスゼッタイニソンナコトハナイデスヨ……」


駄目だ。推しの前で嘘がゴミにしか聞こえない。


「……嘘……え、その反応……え……じゃあ、先輩がスリーロースさんなら……え……!? 嘘嘘嘘……私。先輩にとんでもない暴言吐いてたってことじゃないですか……ごめんなさぁい! いや、それよりも……先輩に私プロポーズされていたんじゃないですかぁぁぁぁ!!!」


「あぁぁぁぁぁぁぁ……バレたぁぁぁぁぁ!」


「ぴゃああぁぁぁぁぁ! ごめんなさい。ごめんなさい! ごめんなさい! 先輩のプロポーズ断ってしまって! ごめんなさい……! こんな私ならいくらでも貰っていいですから! いくらでもOKしますから! 結婚しましょう!」


しれっとプロポーズが成功しているけどネットでのことだ。そこはしっかりしたいんだけど……思考がまとまらない……


「い、いや。俺の黒歴史晒されるより恥ずかしいので、ネットでのことはノーカンにしてください。ちゃんと、『推し』じゃなくて『恋人』としていずれプロポーズしますからぁ!」


「先輩にプロポーズの約束してもらいましたあぁあぁ!」


「それとごめんなさい。毎回あんな気持ち悪いコメントをして…ファンなんです……」


「いえいえ、気持ち悪くないです。でも、趣味悪いと思いますよ……私凄い暴言吐いてるのにめげずに書くなんて……そ、それとスリーロースさん。ずっと応援してくれてありがとうございます。あと先輩。最近応援の言葉しか書いてないですよね……それってもしかして……」


そう、柴橋のことを好きになってから、結婚してくださいとは書かなくなっていた。


「うん……柴橋のこと好きになってからは書いてないです……」


「せんぱぁい……! 大好きです~~~! それと敬語やめてください。いつも通りの先輩が良いですからぁ!」


推しに言われたら仕方がない……


「うん。分かった……推しの前だからテンパってたけど、柴橋は柴橋だもんな……俺の彼女なんだ……」


「……『クロスローズ』のこと推してくれてありがとうございます……先輩」


最高の笑顔を貰った。なんだこの天使……だからこそ気になった。


「……柴橋。一回でいいから俺のこと罵ってほしい」


「え」


やべ、最強に気持ち悪い事言ってしまった。柴橋に引かれるのは嫌だ……


「ごめんなんでもない! 一回。生であの罵声を浴びたいとかそんなこと一瞬でも思ってしまった俺が悪いんだ!」


「いえいえ、先輩が謝ることないですよ……流石に先輩にあんな暴言吐けませんって、スイッチも入ってないですし……」


柴橋はいい子だからな、だからこそ、クロスローズであることが信頼できないんだよな。だからこそ……


「ところで気になったのだけど、柴橋って二重人格だったりするのか? もし言いたくなかったら良いんだけど……そのさ、どうしてもイメージがかけ離れすぎて同一人物だと思えないんだ」


「えっと、やっぱりそうですね……話せば長くなるんですけど……言わばスケープゴートみたいなものなんです。私にとってのクロスローズは……弱い心を持つ私の代弁者なんです……」


すると柴橋が口を開く。


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