第36話 二人で見る景色

☆☆☆たこ焼き


時間もすでに暗くなり夏祭り本番だ。柴橋と出店を回っていた。


柴橋の両手は射的で取ったぬいぐるみで塞がっているため当然。


「柴橋……手が塞がっているよな? ふーふー……ほら、く、口開いて」


たこ焼きを冷ます。


「せせせせせせ、先輩!? も、もしかしてそ、それは!」


柴橋が慌てふためいている……凄く可愛い。


「ほ、ほら……口開いて。あ、あ~ん……冷ましたからさ」


柴橋の口にちょうどいい温度に調節したたこ焼きを……


「ぴゃ、ぴゃぁ……あ、あ~ん……あち……美味しい……」


恋人が良くやるあ~んをしたい。


「先輩のふーふーたこ焼き……吐息が最高の調味料です……ふへへ……ふへ……」


なんかすごい変態チックなこと言ってないか? 気のせいであってほしいが……


「わ、私もせ、先輩のたこ焼きふーふーしたいです……」


最高かよ。


「頼んだ……」


たこ焼きを柴橋の口に近づけると……


「ふ~……ふ~……ど、どうぞ……先輩……」


上目づかいでそれ反則だろ。吐息が最高の調味料であると理解した。


「……天使か?」


「はい!? い、いえ、私なんか天使じゃないですって……天使に失礼ですよ……」


相変わらずの柴橋である。


「いや、可愛すぎて……とにかくたこ焼きを……美味い! 柴橋の味がする……」


「ぴゃあぁぁ……それ言わないでくださいよぉ……凄く恥ずかしいです」


バカップルだな。うん。最高。


「柴橋が先に言ったんだぞ~」


「むぅ……先輩~~~それ言わないでください~~!」


その後柴橋に何回もあ~んした。他の物も一緒に食べたのでお腹が膨れる。


☆☆☆一緒の花火


一通り祭りを巡り終わると時間は十九時前だ。そろそろだろう。


「柴橋。ちょっと来てほしいところがあるんだ。少し歩くけど大丈夫か?」


「はい。先輩が行きたい場所なら私どこへでもついていきますよ!」


そのまま柴橋と神社の階段を登っていく。やっぱ人が多く集まっていた。


「さっきよりも人が集まってますね……何かあるんですか……ぴゃ!? グレネードですか!?」


夏デートの定番と言えばもうこれしかないだろう。花火が空に打ち上がる。


十九時から花火が打ち上がることを事前に知っていた。


「空見て柴橋……」


しかし、爆発音をグレネードと勘違いするって、どれだけの時間ゲームやってるんだろう。


「あ……花火ですか……うわぁ……凄いですね~~家からは見たことありますけど、こうして会場に行って見るのは初めてです……」


柴橋は花火を見上げている。その顔を見ているだけで俺は幸せだった。


そして……俺は……やるぞ……


「柴橋……悪い……」


柴橋のぬいぐるみを片手で抱える。これで柴橋の手は空いた。そのまま指と指と絡ませ握る。


所謂恋人繋ぎをした。


「ぴゃ! せ、せせせ……先輩!?」


柴橋が慌てふためく……ムードを出したが駄目だったか……?


「……こうしたいんだ。柴橋が嫌じゃなければなんだけど……」


柴橋は手を握り返してくれた。


「嫌なわけないです……むしろ、もっと握ってほしいです……大好きな人と恋人繋ぎもっとしたいです……先輩……ごめんなさい! えいっ!」


すると、柴橋は手を握ったまま俺の腕に抱き着いてきた。


「柴橋……」


「うぅぅ……ごめんなさい。我慢できませんでした……ごめんなさい……」


凄い密着している。柴橋の心拍数が伝わってくる……


「今は皆花火見てるから大丈夫……」


それに空を見上げてない人たちはどうせ、想い人しか見ていないだろう。


それは俺も同じだった。柴橋の頭を撫でる。


「せんぱい……せんぱい……先輩に頭撫でられるの大好きです……球技大会の時に撫でられて……凄く好き……」


「俺も柴橋の頭撫でるの大好きだから……」


花火見ずに互いを見つめ合った。流石に君の方がきれいだよとは言えなかった。


☆☆☆デートの終わり。


二十分ほど見つめ合うと、花火は打ち終わる。手と手は恋人繋ぎのまま放さない。


「花火終わったね……行こうか」


「はい……途中から先輩しか見てませんでしたけど……」


花火が終われば自然と帰宅していく人で溢れかえる。俺達も手を繋いだままその流れに乗って歩いていく。


「し、柴橋は今日のデート楽しめたか?」


正直失敗も目立った。金魚すくいに関しては本当恥ずかしかったし……だけど射的では二人で協力してぬいぐるを手に入れることが出来た。


「はい……先輩とこんなに触れ合えて。凄く楽しかったです……」


「俺も凄い楽しかった。正直人生初のデートだったから上手くできるか心配だったんだ」


「……え? 先輩って誰かと付き合ったことなかったんですか? こんなかっこいいのに……」


しれっと褒めてくる柴橋。そもそも俺モテなかったし……


「そんなに俺モテないよ。仲いい女子だって柴橋ぐらいだし」


「え、でも球技大会の時。先輩かっこいいって言ってた人いましたよ」


……そうなのか。


「う~ん。でも今は隣に柴橋がいてくれれば、それ以上何もいらないし……モテたいとか思わないから」


「先輩……そんなに私のこと……」


当然だ。柴橋の恋人なんだから……


「恋人だって……柴橋が最初で最後だから……」


「……え、先輩それって……」


今なら言えるだろう……祭りの帰り雰囲気に当てられているから……


「少なくとも、柴橋が必要としてくれる限り、俺は一生傍にいるから……重いかな……」


「……せんぱい。愛が重くてもいいんです。重ければ重いほど嬉しいですから私……もっともっと先輩の愛が欲しいです。せんぱぁい……」


ぎゅっと、俺の腕に抱き着いてきた。すかさず頭を撫でる。


「うん……」


こうして人生初のデートは成功と言っていいのだろうか……


とりあえず恋人繋ぎができた。だけど先走ってはいけない。ゆっくりでいいんだ。


いつかキスをしたい。だけど、今じゃない。


「先輩……せんぱい……大好き……」


そして、柴橋がどんどん甘えてくる。俺……理性大丈夫かな……


とりあえず今日は最高の初デートで終えることができた。

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