第35話 屋台で遊ぼう!
☆☆☆金魚すくい
正直な話。俺はバイトで金魚すくいを経験している。当然テクニックも熟知しているわけだ。
つまり柴橋に金魚すくいを教えることが出来る……ふふふ。
タライに金魚が泳いでいた。
「うわぁ~金魚さんいっぱいいます……泳いでいるの可愛いですね……」
柴橋の方が可愛いだろという気持ちを内に秘める。というか柴橋の『金魚さん』って言い方可愛い。
店のおっちゃんに金を渡し、柴橋に金魚を掬うポイを渡す。
「えっと、これですか……あ、和紙なんですね」
「うん。一旦やってみようか。裏と表あるから気を付けてね」
「はい……大きいの狙いますね!」
柴橋は初心者だし力に任せてポイが破れてしまうだろう。見た感じ和紙の薄さは五号と平均的だ。それにでかい金魚を取ろうとすれば抵抗する力が強いため破ける。
失敗した柴橋を励まして、後は俺が手取り足取り教えてやれば……
『先輩かっこいいです……大好き大好き~~~』
と、俺に抱き着いてくること間違いなし……完璧な作戦だ。妄想の中の柴橋も可愛い……
「……えいっ……あ、できました。次の金魚さんも……あ! できました~~~うわぁ~金魚さんぷくぷしてて……可愛い……えい……えいっ!」
うっま……柴橋はみるみる金魚を碗に入れていった。
店のおっちゃんも驚いているぞ。
「うわあ……こんなにたくさん取れるものなんですね……あ、破けちゃいました……」
と言いつつ柴橋の碗には十匹ほどいる。
「……本当に初心者?」
「はい。楽しかったです~~~金魚さんも暴れなかったですし!」
満面の笑みだ。あ、これ本当に初心者なやつだ……滅茶苦茶才能あるんだな柴橋……
「あ、でも金魚さんは解放してあげます。私なんかに飼われる金魚さんが可哀想ですから……」
そして、この低姿勢も変わらず柴橋だ。お椀に入っていた金魚を全員逃がす。
「先輩……? どうかしたんですか?」
「い、いや、柴橋が凄いと思っただけだよ。普通初心者なら、一匹も取れずに破けるからさ」
「これって、どれだけ和紙に負担を掛けずに、素早く金魚さんを取っていくだけですよね、そのためには水入れるタイミングも上げるタイミングも最小限にすればいいんですよ……」
俺が教えるまでもなかった……
「先輩もやりますか?」
そして俺の番がやってくる。せめて十匹は越えたいけど……ポイを握る。
「やってみるか……小6の頃から飼ってる金魚がまだ健在だ。それぐらい金魚と触れ合ってきたんだ……」
「その金魚さん今度見せてください……可愛いだろうな」
「おう……クソでかいぞ、家に来た時見せてやるさ!」
そして……
俺の知る全てのテクニックを駆使しても、三匹しか取れなかった……
「あ……破けた……」
「俺は……」
その場に跪く。初心者に負ける俺って……
「せ、先輩は、金魚さんに負担を掛けない取り方していたから、破れるのが早かっただけです。そ、それに小さい金魚さんを選ぶ優しさが、その先輩っぽくて凄く良かったですからぁ!」
遠回しに取りやすい金魚を選んだだけだからな。
「無理に褒めなくていいから……ごめん下手で……こんな情けない彼氏を笑ってくれ……」
「せ、先輩~~~~戻ってきてくださ~い!」
店の邪魔になるので俺達はその場を離れた。
☆☆☆射的
「せ、先輩。射的やりませんか?」
柴橋にフォローされてしまってる。彼氏なのに情けない。今度こそは……いや、待て、柴橋FPSめちゃ上手いし、俺かっこいいところ見せられないのでは? だけど俺が柴橋の願いを無碍にすることなどできるわけもなく……
「やろうか」
決断した。
「うわ~あ、あの……熊さんぬいぐるみ良いですね……大きくてかわいいです」
すると、少し大きめな熊のぬいぐるみが射的台においてある。取ってあげたいけど……あれは無理だろう。まあ禁じ手さえ使えばどうにかなるのだが……
「わぁ~射的の銃初めて持ちました~スコープないんですね。それに一発一発リロードが必要って、余程威力ないと割に合わないですって、打ち合いの場合絶対に負けますし……えっと銃……どうやって構えれば……」
子供みたいな反応見て凄く癒される。
「えっと、女子の位置は男子より近いから、構え方はやってるTPSみたいにすればいいと思うよ。脇締めて」
流石柴橋。ゲームに例えた途端完璧な姿勢へ、しっかりと銃を固定している。
「こうですかね……私一応エイムには自信あるんですよ。えい! あれ? えい! あれ? えい! あ……全部ヘッショしてるのに全然落ちませんよぉ……」
三発ぬいぐるみを狙う。流石に頭を狙っただけであのぬいぐるみは落ちないだろう。しかし全部的中させている。相変わらずエイム凄いな……
とりあえず落ち込んでいる柴橋の頭を撫でた。
「ぴゃ……先輩」
「流石にあの大きさのぬいぐるみは落とせない。射的にはコツが必要なんだ。まずコルクの詰め方から、射的の銃は空気で飛ぶから……コルクを逆にしたりすると破壊力が上がるんだ」
「うわぁ~先輩。射的詳しいんですね~凄いです!」
もっと俺のことを褒めてくれ……
「バイトしたことあるから、まぁ……っふ! 当たれぇ!」
「せ、先輩……」
駄目だ……全部外した。いくら威力が上がろうが当たらなければ意味がないのに……
「情けない先輩を笑ってくれ……クソエイムでごめん……柴橋にぬいぐるみ取ってやりたかったよ……」
「き、気にしないでください……射的をしようとしたのは私ですので……! ほんと……ごめんなさい。ごめんなさい……私としたことが、先輩と一緒に居られるだけで楽しいはずなのに……」
それは同じ気持ちだ。どうしてこんな失敗で落ち込んでるんだろう。
「柴橋……」「先輩……」
「はあ……しょうがねぇな……兄ちゃんたち……ほらよ。特別だ」
すると、会話を聞いていた店員のおっちゃんが、銃を四丁渡してくる。
☆☆☆リベンジ
「あ、え、えっと、こ、これは……どうしてこんなに銃が?」
柴橋が疑問に思う。俺はその意味を知っている。
「柴橋。あのぬいぐるみは銃一丁じゃいくら撃っても落ちることがないんだ。コルクを逆にしようがね……ならどうするか……二丁銃だよ。それも二人でつまり四発の弾丸をぬいぐるみに命中させるんだ」
当然片手で撃つから重心がブレるし命中率は落ちる。
「っふ、兄ちゃんは知っているようだな……流石射的バイト経験者だ。これはあまりに身体と店の負担が大きすぎるため『禁じ手』とされる」
「ありがとうございます」
「おっと、礼を言うのはまだ早いぜ、倒せるかは決まったものじゃない。二人がまばらに撃ってもぬいぐるみは倒れないさ、これは二人の絆チェックみたいなものだからな、覚悟はあるかい?」
二人でうなずく。正直エイムに自信はないけど、柴橋にぬいぐるみをプレゼントしたい。
「先輩は気にせずにぬいぐるみを狙ってください。先輩に合わせますから……!」
柴橋と最初に出会った時のことを思い出した。GDO協力プレイは柴橋にキャリーしてもらう。柴橋は信用できる。だから……俺が当てるだけでいいんだ……
「……!」
俺が放った弾丸と共に柴橋も発射。ほぼ同時だと言っていいタイミングでぬいぐるみに命中する。
そして……
ばたんと射的台から熊のぬいぐるみが落ちた。
「「やった~~~~~!」」
「嬢ちゃんやるな……兄ちゃんの射撃と完璧に合わせてたぞ。長年射的をやっていけど……あんな射撃見たことがない。プロだってあんな真似できないぜ」
「い、いえ……かなり射撃のゲームをやりこんでいただけですので……そ、その、ありがとうございました……」
「か~~~! 最近のゲームって凄いんだな。ほらよ、もってけぬいぐるみだ」
柴橋が熊のぬいぐるみを受け取る。
「「ありがとうございました!」」
店員に礼を言う。
「先輩も協力してくれてありがとうございました。このぬいぐるみ。一生の宝物にしますね」
柴橋はぬいぐるみを抱きかかえるように持っていた。
「俺さ、彼氏らしいことできたかな……」
おっちゃんに助けられたけど……
「らしいも何も、先輩はずっと私の彼氏です……傍にいてくれるだけで、私嬉しいですよ……せんぱい……そんなに無理しなくても大丈夫です。先輩のかっこいいところ知ってますから……」
なんだこの愛おしい生物。今すぐに抱きしめたくなった。
「でも。俺さ柴橋が喜んでるところ、もっと見たいんだ。こうやってぬいぐるみ抱えてる姿とか……金魚を楽しそうにしてる姿とか……」
「せんぱい……大好きです」
「俺も……」
だめだ。俺の彼女……可愛すぎるんだが……
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