第31話 数年前の真実

☆☆☆中学時代の後悔


あぁ……順序間違えた……その結果柴橋を悲しませてしまったし、事実上の失敗だが柴橋に告白した。そして、柴橋も同じ思いであると知る。


しかし、告白する前にどうしても伝えたかったことがあった。俺がどうして孤立していた柴橋に声を掛けたのかだ。


そこには俺自身の後悔が存在していた。これを告げるまで柴橋と付き合うことは俺自身が許せなかった。


柴橋が泣き止むまで待つと一緒のソファーに座る。


「柴橋、もう大丈夫か?」


「は、はい……先輩。大好きです……こんなに泣いたの久々でした……離れたくないです……ぎゅ……」


枷が外れたのか、柴橋は俺にべったりとくっついてくる。


「う、うん。じゃ、話すよ……」


「はい……大好きです……先輩……」


「俺が中学生の時にネットゲームをやってた話なんだけど。チャットで仲良くなった子がいてさ。その子が不登校らしくて相談を受けたんだ。その時の俺はさ、凄くどうしようもないほど『中学生』だったからさ……とにかくかっこいいことを言いたがってたんだ」


所謂中二病だった。深夜に放送していたアニメ。『バーサーカーファイトエデン』というネットゲームを舞台にした作品にどっぷりとハマっていたのだ。


PNペンネームも主人公の名前である『漆黒騎士サヴァイヴァー』にしていた。今思い返すと死にたくなるようなことしている。


丁度その時(多分)年の近かった子と仲良くなって話をしていた。『バーサーカーファイトエデン絶対見た方がいいよ!』とか、『やっぱ主人公が無双するのかっけーよな!』とか、その子は痛かった俺との会話に優しく接してくれた。


『凄いです!』『かっこいいです!』『憧れます!』


その子は俺に尊敬の念を抱いてくれていた。それがすごく心地よかったのだ。PNは確か『リーフシード』と名乗っていた。


「その子の相談に対しても、相手を理解してないのに『学校に行かなくてもいい』なんて無責任なことを言ったんだ。しかもその後。その子は一瞬で俺の実力を追い抜かしてランキング上位に行ってさ、それに嫉妬してゲームもやらなくなったし……結局その子ともそれ以降は連絡してないんだ……最低だよな」


「え」


「……だからさ、部活で柴橋に声を掛けたのは、あの時無責任なこと言って相談に乗ることから逃げた罪滅ぼしだったんだ……その子が学校に行けたかも結局分からないままだけどさ……」


「『漆黒騎士サヴァイヴァー』さん……?」


え?


なんで俺のPNを……でも、当時はあの名前腐るほどいたし……だからと言って的中させるのは無理だろう……


「わ、私……『リーフシード』です……」



「……え。柴橋が……リーフシード……え……」


流石にそんな偶然があるとは思えない……でもそんなことって……


「その、あの時は……相談に乗ってくれてありがとうございました。サヴァイヴァ^さんの言葉に私救われましたから……」


「いや、だからあれはかっこつけてただけで心身になって相談に……」


リーフシードも柴橋もゲームの腕が飛び切り上手い。


「先輩がもし必要のない罪悪感を抱いているなら、部活で声をかけてくれた時に私は救われましたから……気にしなくていいんですよ……先輩」


「し、柴橋……」


俺の気苦労だったのだろうか……


「今。凄く幸せですから……先輩と一緒に居られて……もうこれ運命だと思うんです……」


「……でも、柴橋はそれで中学行けなかったわけで……」


「その間一生ゲームやってましたから。意味のある時間でした……とにかく高校で先輩と出会えればもう後はいらないんです……ぎゅ……」


柴橋が再び抱き着いてくる。どうやら柴橋は本当に気にしていないらしい。


リーフシードが柴橋だというのなら、今こうして笑顔でいてくれている。


「そ、そうか……俺の気苦労だったのか……はぁ……ありがとう。柴橋……」


安堵のため息を吐いた。


「はい。先輩は苦しまなくていいんです。それよりもようやく先輩と恋人になれたので……もっとイチャイチャしたいです……先輩……多分私、滅茶苦茶甘えちゃうと思うんですけど……いいですか?」


「甘えられるとその、嬉しいから……いくらでもいい」


柴橋は更に強く抱きしめてくる。そのまま頭を撫で続けた。


「ぴゃぁ……それと、先輩中二病だったんですね……凄く可愛い……」


「そ、それあまり言われると困る。黒歴史だから……」


……可愛いのか?


「私的には全然良いです。先輩の卒アルとかみたいですし……その先輩のこともっと知りたいです……大好きですから……」


「う、うん。俺も柴橋のこともっと知りたい。こ、今度俺の家来たらアルバムとか見るか……」


「はい!」


この後も時間が来るまでずっといちゃついた。その後終止にやけ顔で家まで帰った。


だって俺。柴橋と付き合うことが出来たんだから!


「よっしゃぁ!」


何度もガッツポーズをしていた。


〇〇〇先輩と付き合って


先輩が帰ってから佐奈川さんからのLEMONメッセージを確認する。


『先輩さんとキスした?』


……してない。ずっと抱き着いてたからってのもあるけど。


『そんなところまで進むわけないよ』


『まあ、柴橋さんの奥手っぷりをみたら、水着で先輩に抱き着くぐらいかな?』


『付き合えました』


『冗談?(犬のスタンプ)』


『マジマジロ(アルマジロのスタンプ)』


……少しの沈黙が続いた。そして通話が来た。


「おめでとーーーー!」


「ありがとう。これも佐奈川さんが協力してくれたおかげだよ」


「いえいえ、今度会った時その話詳しく聞かせてほしい! 夏休みどこか空いてる日ある? もちろん先輩さんとのデート優先でいいから!」


「うん。付き合ってからのデートとかも教えてもらいたいし」


「うんうん。じゃ、空いてる日に会おうね!」


「あ……先輩とデートの約束してない……」


そう、いちゃつきすぎて、忘れていた。


「いやいや、恋人同士ならむしろ先輩さんが誘ってくれるんじゃないかな」


「先輩から誘ってくれたら凄く嬉しい……」


「そういえば、先輩さんって恋人いたことあるのかな。それで付き合い方って変わってくと思うけど……」


「う~ん……聞いてない。先輩は滅茶苦茶かっこいいから彼女いっぱいいそうだけど」


先輩に元カノ……考えただけで、少しだけ心が痛くなる。


「どうなんだろうね~私先輩さんと会ったことないからそこまでは把握できないな」


その後も佐奈川さんとの会話が続いた。しかし佐奈川さん本当に恋愛経験豊富なんだな~凄く憧れる~~


深夜になると、先輩からメッセージが来ていた。


『夜遅くにごめんね。明後日から地元の神社で夏祭りやるけど一緒に行かないか?』


先輩からデートに……うそ、これ夢じゃないよね。あまりに人生上手くいきすぎていてここが私の妄想じゃないかと疑ってしまう。


『デートの約束なんだけど、もし都合が悪かったりしたら言ってくれ、他のデートも考えるから。その柴橋とデートしたいんだ』


先輩私とデートしたいんだ……


デート……先輩と恋人になってから初めてのデート……


『行きます。先輩が誘ってくれて凄く嬉しい。私も先輩とデートしたいです』


『大好きだ』


『私も先輩が大好きです』


(ハートにスタンプ)を先輩に送った。


『こんな夜遅くにやめて、今すぐ会いたくなる』


『そんなこと言わないでください。私も会いたいですから』


流石に今から会えないのは分かっている。でも、先輩と私が同じ気持ちなのが嬉しすぎてベッドで悶えている。


『柴橋はもう寝るのか?』


『はい。プールで遊び過ぎたので凄く眠いです』


『じゃ、通話良いか?』


『はい』


すぐに先輩から通話が来る。


「……おやすみ。柴橋」


先輩のかっこいい声!?


「ぴゃあ……先輩……大好きです……おやすみなさい」


「うん……」


しかし、先輩は通話を切らない。もちろん私もだ。少しの間無言が続く。


「……切らないんですか」


「あ、ごめん。切る……今度こそ、おやすみ……」


「おやすみなさいです……先輩」


通話が切れる。今日はとても良い夢が見れそう……いや、最高の現実が見れたんだ。現実以上の幸せな夢なんて存在しない。

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