第30話 告白の勇気

〇〇〇リビングで


レジャープールで先輩との距離が縮まったと思う。帰りの電車では先輩の方から頭を撫でてくれた。嬉しい。


正直に言えばもう私は我慢が出来なくなっていた。もっと先輩と一緒に居たい。頭を撫でてほしい。抱きしめてほしい。先輩と付き合いたい。先輩と付き合いたい……


――恋人になりたい!


そんな欲望が私の中を巡っていた。


佐奈川さん曰く。デート後に自宅へ誘う行為は遠回しな好意があるサインだと聞かされた。だけど、既に自宅へ誘っている場合は効果が薄いらしい……何度も先輩を自宅に招いてるし……


先輩がその事実を知るかは分からないけど、一緒に来てくれたということは、少しは期待してもいいのかな……


私の自意識過剰でなければ、先輩も少なからず私に好意を抱いてくれていると願いたい。


好意がなければ私にも塩対応しているはずだ……あの時プリバケの反応を見てもそうだ。


でも、先輩はどうして、部活で私に話を掛けてくれたんだろう……こんな私に……


そんなことを考えていると会話もないまま自宅前へ着いた。


「……も、もう先輩もエントランス通る時驚かなくなりましたよね」


「流石に慣れたよ。何回も来ているしさ……でも最初は流石にびっくりしたよ」


「あれから一ヵ月くらいしか経ってないんですね……」


そう、先輩と私の関係が始まってから。一ヵ月ちょいしか経っていない。


「そうだな。もう一ヵ月か……柴橋はさ――」

「――先輩は……あ、ごめんなさい。どうぞ……」


「いや、柴橋も何か話したいことあったんだろ?」


「いえいえ、先輩の方からどうぞ……『お願い』します!」


……これ凄くズルい。だって、お願いしたら、先輩は何でも言うことを聞いてくれるんだもん。


もし、私が先輩の恋人にしてくださいって『お願い』したら。先輩は受け入れてくれるのだろうか、それ以上のことだって……先輩は叶えてくれるのだろうか……


先輩が何を言おうとしているのか分からない。だけど、先輩の話を聞いて、それでもこの気持ちが変わらなければ、私は先輩に告白しよう。


「わ、分かった……あ、部屋付いたか」


「中で話しましょうか……」


「うん……」


エレベーターが私の階へ着き先輩を招く。二人きりのリビング。いつもゲームをやっている場所。


だけど今までとは違う緊張感があった。なんだろうこの気まずすぎる空気は……


「……その、さ……」


先輩が口を開く。何か思いつめたような先輩の表情……一体何を……


「もう、柴橋からお金を貰うことはしたくないんだ」


「え……」


それって……私と一緒に居たくないってことなのかな……身体が震えて心拍数が早くなる……動悸が止まらなくなった。


「柴橋が俺の境遇に同情していることは理解しているんだけど、そのさ……やっぱ、俺達の関係って間違っていると思うんだよ。一緒に居るだけでお金がもらえるなんてこと」


「……」


私は口を開けなかった。だって、先輩が私との関係を終わりにしたいと言っているのだ。


電車で先輩が頭を撫でてくれたのも、この関係に区切りをつける最後の優しさだったんだ。そうだよね、私なんか……


「だから、柴橋にお金で買われる関係を終わりにしたいんだ……それで――」


でも……


「――い、嫌です!!!!」


なりふり構っていられなかった。私は我慢できず先輩に抱き着いた。先輩の胸元に顔を思い切り当てる。


「し、柴橋……」


嫌だ。先輩との関係を終わらせたくない。


「いくらでもお金は出します! 今迄のお金が少なかったんですよね……私の持っている資産全部差し上げます! この部屋だって全部売ってもいいです! それでも足りませんか? 私、先輩とずっと一緒に居たいんです! こうして、先輩に抱き着きたいですし……先輩にもっと甘えたいです。先輩がいなかったら、私……もう生きていけません。確かに私は何も魅力なんてないかもしれません。だから……先輩と一緒に居られる対価としてお金の関係で契約しているのに……やっぱり嫌でしたか、私と一緒に居るのが……先輩がいなかったら私本当に学校もやめてたくらいなんです……嘘とかそういうのじゃなくて、私が持つ者全部先輩にあげますから……! 先輩がいないと、ほんとに私……駄目なんです。先輩。先輩……先輩……お願いします……一緒に居てください。関係を終わりにしたいなんて……言わないでください。先輩が傍にいてくれれば私幸せなんです……一緒に帰ったり、隣でゲームしたり、ご飯を食べたり、頭を撫でてもらったり……かっこよくて、素敵で、本当に憧れていて……先輩……『大好き』です……先輩……先輩……大好き……大好きです……!」


思っていた感情を全部先輩に伝えてしまった。涙も止まらないし……これでだめなら私は……


「……あ、あの。柴橋……落ち着いてくれ。話にはまだ続きがあって――」


「――嫌です! 先輩と離れたくないです……本当に先輩が声をかけてくれなかったら私ダメだったんです……先輩……先輩。捨てないでください! 捨てないで……」


「だから……! 俺は柴橋から離れることはないから! 俺も柴橋のことが『大好き』だからさ……!」


え……『大好き』……?


その言葉と共に先輩が私を強く抱きしめた。


「え……先輩が、私のことを好き……あはは、御冗談をこんなめんどくさい女とですか……?」


その言葉に涙が止んだ。


「あの、だから、お金で買われてる関係を終わりにして、柴橋と恋人になりたかったんだけど……順序を考えてその、俺、告白しようとしてさ……」


先輩の顔が真っ赤になっていた。


「……あ」


「俺の切り出し方も悪かった……でも、ほんと冗談じゃなくて、俺は柴橋のこと大好きだから……球技大会で一生懸命頑張ってる姿とか、現状を変えようと必死になっている姿を見て、好きになったから……こうやって抱きしめたいと思うし、頭だって滅茶苦茶撫でたい……恋人になりたいんだよ……その、別れ話みたいに思わせてごめん」


「い、いえ先輩が謝ることなんて……でも……先輩……好き。大好きです……先輩! 私ずっと先輩のこと好きでした……先輩。先輩……うわぁぁぁん!」


抑えきれなくなって今度こそ先輩の胸元で号泣してしまった。


「し、柴橋……そ、そんな泣かないで……俺も大好きだから……滅茶苦茶好きだから……」


そのまま先輩は頭を優しく撫でてくれる。


「先輩も……私のこと好きでいてくれたんだぁぁ! 両想いだったんだ……嬉しくて嬉しくて……先輩……! やった……やったぁぁぁ!」


「柴橋……も、俺のこと好きでいてくれて……ありがとうな」


「先輩にお礼言われたぁぁぁ! うわぁあぁぁあ! 先輩大好きです……大好き大好き……大好きです!」


抑えられない感情を先輩にぶつけ続けた。それを先輩は私が泣き止むまでずっと頭撫でてくれる。


「そ、その、一つだけ話をさせてもらえないか……? 俺が部活で声を掛けた理由についてなんだけど……」

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