第25話 レジャープールへ向かう途中です

☆☆☆いざプールへ


真夏の朝八時。扇風機を回しながら自室で汗を流していた。


「はぁ……はぁ……」


上下に体を動かしている。


「はぁ……はぁ……」


スクワット485回……486回……


今日は柴橋とプールに行く日だ。スクワットをしていた。


腹も出ていない。腹筋も線が見えているから大丈夫だろう。


「500……! よし!」


煩悩を捨て去るには身体を動かした方が良いと監督から聞いた。


シャワーも浴びたし大丈夫だろう。水着も持ったし、私服も変なところはない。


髪に寝ぐせは付いていないな……向かうか。今の俺には何もない。やましい気持ちだって存在しない!


無敵だ。スクワット500回を終えた俺は無心になっている。


今日は柴橋と駅で待ち合わせをしている。電車に乗ってプールがあるレジャー施設へ移動するためだ。


約束の時間30分前に着いたつもりだったけど……


「あ、先輩おはようございます……」


もう既にいた。うそ……俺遅れてきたのか……


「悪い柴橋待たせたか?」


「いえ、私も今来たところですから、気にしないでください。先輩」


壁に寄りかかっていたのか、服に少し皴が出来ていた。結構待っていたんじゃないか……


しかし……柴橋の私服こんな感じなんだ。黒色ワンピースの上から薄紫のパーカーを羽織っている。ワンピースも夏物なので柴橋の鎖骨と肩が見えてるし……


滅茶苦茶可愛い。柴橋の私服マジ可愛い。なんだこれ。めっちゃ清楚な感じ出ているし、これ褒めるべきなのか……いや、褒めよう。俺にやましい気持ちはないのだ。


「し、私服。に、似合ってるぞ……あ、ごめん……」


「あ、ありがとうございます。先輩。が、頑張りましたので、褒めてくれると……凄く嬉しいです……先輩……」


だからその上目遣いやめてくれ……ほんとに頭撫でたくなってくる。


「そ、そろそろ電車の時間だから、行こうか……」


「は、はい。先輩行きましょうか……」


駄目だ最近柴橋と話すとどうしても気まずくなってしまう。


☆☆☆電車の中で


電車が結構混んでいるな。夏休みだし仕方がないか、よく見ると座席が一つ空いていた。ここは当然柴橋に譲ろう。


「柴橋座っていいぞ」


「せ、先輩こそどうぞどうぞ……」


流石にここは譲れない。そもそも女子立たせて俺だけ座るなんかできない。


「いやいや、俺だけ座って柴橋に立たせるの悪いよ」


「そ、そんな私に構うことなく。私なんて引きこもってゲームしているだけなので一生立ってても平気なんですよ。ほら、運動です。運動。は、はい」


「この後プールで遊ぶんだから体力使うし、休んどいたほうがいいよ」


「いえいえ、先輩の方こそ」


「いやいや、柴橋の方が」


そんな言い争いをしていると、次の駅に着いていた。すると、親子が入ってくる。


「ママ~座りたい~」


「しー電車の中だから静かにしなさいー」


女の子が駄々をこねている。


「座りたい~座りたい~」


俺と柴橋の前の席は空いている。どっちにも座る気がない。


柴橋も目が合うと、同じ気持ちだったようだ。


「あの。ここ空いてますよ」


「すみません。ありがとうございます。こら、貴方もちゃんとお礼を言いなさい」


母親に何度も頭を下げられる。


「わ~い。お兄ちゃんもお姉ちゃんも。ありがとう~!」


子供の無邪気な笑み。


「いえいえ、どちらも座る気がなかったので、だから、来てくれて助かりましたよ。あはは……これで良かったよな。柴橋」


「は、はい……子供が座った方が良いですし」


やはり他人との会話は苦手なようで俺の後ろに隠れている。それ滅茶苦茶可愛いんですけど……


「わ~い。電車凄い~凄い~早いよお兄ちゃん~!」


「電車乗るの好きなのかい?」


「うん。電車楽しい。そういえば、お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人なの?」


「「ぶふぉぉぉ!」」


子供の無邪気さが残酷に突き刺さった……確かに男女が行動していればそう見えるのは当然だ。


「や、俺達は……」


「い、いえ、先輩とは、恋人とかじゃなくてね。いや、私なんかが恋人なんてせ、先輩に失礼だし、その、と、とにかく違くてね、えっとあ、先輩」


まぁ、恋人じゃないんだよな。そもそも俺達の関係ってなんなんだろう。主従なのか? 一応買われてるけど……そんな実感がない。


「そーなの? 仲悪いの?」


純粋な瞳が怖い……


「う、うん。お兄さん達は恋人ではないかな。ふ、普通に仲良い先輩と後輩の関係だとは思うよ」


「そ、そうだね。普通の先輩後輩だよ……うん。普通の……普通?」


柴橋も疑問に思ってたんだな。


「ま、まぁお兄さん達のことは良いんだ。景色見てるといいよ」


「そ~だね。うわぁ~すご~い」


何とか乗り切ったぁ……柴橋もほっとしている。


「(あの二人凄い顔赤くなってる……特に女の子。凄く青春してる……)」


母親が俺達のことを見て、凄く優しい目で見てくれていたのが印象に残った。


やがて親子は目的の駅に着いたようで、降りる時にお礼を言われた。


「お兄ちゃんお姉ちゃんばいばい~」「ありがとうございました」


親子に手を振ると、多くの人が降りたので席が空いた。


☆☆☆一緒に座る


「座るか」


「は、はい……」


隣に柴橋が座った。こんなに距離が近いのは相合傘をしたとき以来だ。肩と腕が振れると凄く気まずいよ……柴橋の鎖骨が上から覗けるし……


「せ、先輩って……犬派ですか? 猫派ですか?」


突然世間話をしてくる。


「犬かな。わんわん鳴いてるの可愛いし」


「あ、私猫です……ち、違うんですね……あはは……」


「でも猫も好きだよ。まぁ飼ったことないから、ほんと見た目だけで選んでるけどね」


き、気まずい……


「ご、ごめんなさい……私話振るのが下手で……」


柴橋の気持ちを落としたら、この後のプールも気まずくなる……やめておけ、


「いや、猫も可愛いって思うし……それはほんとだから、そういう意味では悪い質問じゃなかったと、ほら鳴き声とか、かわいいし」


「にゃ、にゃあ……って鳴くの、かわいいですよね……あ」


……にゃあ?


柴橋が猫の真似をした……え……? 嘘だろ……?


「い、いやこれは違くて、ですね。あ、ウミネコの真似ですからぁ!」


顔を真っ赤にしている。なんなんだこれは……めちゃくちゃ飼いたくなるんだけど!!


「かわいい……飼いたいな……あ、やべ……」


可愛すぎて声を漏らしてしまった。


「ぴゃ、ぴゃい!? せ、せせせせ先輩!?」


「ごめん。柴橋。いや、あ~~~~」


「ぴゃ~~~~」


照れてる顔を見られたくないので顔を伏せた。


「……わ、私なんか可愛いって言ってくれて……あ、ありがとうございます……先輩……」


あぁ、ダメだ……柴橋が可愛すぎる。……この後のプール大丈夫かな。


その後は特に会話がないまま目的地へ着いた。

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