第16話 進展する関係
☆☆☆割れたメガネ
気まずくなった空気の中、先に声を出したのは柴橋だった。
「せ、先輩。わ、私もう大丈夫ですので……! 完全回復しましたから!」
柴橋が立ち上がる。
「本当に痛いとことかないのか……?」
「は、はい。大丈夫です。鼻血も止まりましたしこうして歩けますから……痛ぁっ!」
「柴橋大丈夫か?」
柴橋は変な方向に歩き出し、ベッドに脛をぶつけていた。まるで目が見えてないような……そうか、眼鏡をかけていないから……
「柴橋って視力が悪いのか……?」
「は、はい……ごめんなさい……私……ゲームのやりすぎで眼鏡無いとほとんど見えなくて……その、眼鏡いいですか……まだ使えると思うので」
レンズにヒビが入っているけど欠けてはない。大丈夫だろうか……
「まだ使えます……でもレンズ割れちゃったし見辛いですね、新しいのを買わないと……」
柴橋は一度俺をちらりと見た。
「放課後付き添うよ。ヒビ入ってるから一人じゃ危ないだろうし」
「……え、いいんですか……先輩……その、私一緒に行ってほしいって『お願い』しようと思っていて……」
一緒に来てほしいってお願いしようとしてくれたのか……でも、そう……
なんとなくだけど、柴橋が『お願い』をしようとしてくれたのが分かった。
「うん。じゃあ、また放課後会おうね」
「あ、ありがとうございます……先輩」
その後教師が保健室に来てくれたので、後のことは任せて俺は教室に戻った。
「裏切り者……」
一緒に一年のドッジを見ていた鈴木が睨んでくる。
「はい?」
「お前なんだよあの行動。後輩の女子保健室に連れていきやがって、そんな行動力あったんかよ。お前の彼女かよあの子!」
なんだ。柴橋のことか。
「部活の後輩だよ。あの時誰も保健室に連れて行こうとしないから、俺が代わりに……」
「そもそもお前帰宅部だろ。バイトばっかしてんだからさ、どうして、後輩と仲良くなってんだよ羨ましい! どうせ甘えてくるんだろ、いいなぁ! 羨ましいなぁ! モテるってさあ!」
鈴木に肩を掴まれる。
「彼女じゃないから、ただ相談に乗られてるだけだ」
滅茶苦茶甘えてきたけど……
「お前ばっかモテやがって……お前はモテない同士だと思ってたのに!」
「勝手に思って絶望してるだけじゃん。鈴木。他人を妬んでる時間をもっと別のことに回そうよ。そうすれば可能性あるかもしれんし」
「可能性の話しかしてないじゃないかお前はよ!」
流石にめんどくさいしどうするか……
「あ、川上。鈴木がモテるデータのことで話したがってたぞ。鈴木の今後モテる確率を計算してくれ」
「何? データなら僕に任せとくんだな(クイ)」
川上を利用して鈴木を放した。ちなみにB組女子は球技大会初戦敗退した。というより小林が砂をバラまいて反則負けになったらしい。
〇〇〇先輩のこと
養護教諭は特に怪我はないけど、心配であれば病院に行くようにと言われ、教室まで送られる。
正直に言えば未だに信じられない。先輩が私を背負って保健室に運んでくれたり、頭を撫でてくれたり、『可愛い』って言ってくれたり。
怪我自体は大したことなかったけど、先輩の王子様プレイで私は死ぬかと思った。
先輩の手凄い大きかった。一生頭撫でられたかった。先輩。かっこいい……先輩。先輩……
だけど、先輩の期待には応えられなかった。
私のミスで結局無駄になったのだ。先輩は無駄じゃなかったと言っていたけど……勝てないと何の意味もない。
きっと、先輩は球技大会で友達を作るきっかけを与えてくれようとしていた。
私に友達なんて……
「あ、柴橋さん大丈夫だった!」
クラスに入ると佐奈川さんが声をかけて来た。突然のことで挙動が怪しくなる。
「あっ……う、うん。だ、大丈夫……怪我はない……」
「無事ならよかった……ごめんね、柴橋さんが頑張ってくれたのに、私達負けちゃって……」
「え、あっ、いやそ、それは全然だ、大丈夫……ごめんなさい。私も……」
「どうして、柴橋さんが謝るの? ボール躱す姿とかほんと凄かったよ。だって、柴橋さんだけは最後の瞬間まで諦めてなかったんだから……」
「あ、あ……」
すると佐奈川さんの表情が変わった。そもそも佐奈川さんとあまり喋ったことがなかったから、何を言ったら分からない。どうしよどうしよう……
「と・こ・ろ・で」
佐奈川さんがにやけている。そして凄い目が輝いていた。
「保健室に連れて行ってもらった先輩さんって……彼氏さんなの?」
「え」
「だって、柴橋さんが倒れてすぐ保健室に連れて行ったから。あの無駄のない動きまるで白馬の王子様のようだったよ。クラスもそのことで話題が持ち切りだったんだから!」
先輩と私のことで……? 確か何時か先輩が言っていたな。女子って恋愛トークになるとグループ関係なく話しかけてくる場合があるって。
でも、先輩と私が恋人に見られている……?
「せ、先輩とは恋人とかそういう恋愛的関係じゃないです。滅茶苦茶かっこいいのは事実ですし、実質王子様と言っても過言じゃないです。あと、本当にあくまで先輩と後輩の関係ですから。先輩と付き合えるとかそういうことは、か、考えてないです。そもそも、私じゃ先輩に釣り合わないですし、先輩のことは、確かに……かっこよくて、優しくて、いつも私を助けてくれますし、先輩がいなかったら、私学校来ることもなかったと思いますし、先輩は絶対モテますし、その笑顔も素敵で、可愛いところもあってですね。先輩ってお肉が歯に挟まった時。ずっと取れなくて、舌で必死に取ろうとしてるんですけど、その時も顔が滅茶苦茶可愛くて……先輩かっこいいだけじゃなくて可愛いところもあるってずるいと思って……あ。それにいつも私のしてほしいことしてくれるんです。私がお願いしようとしたこと先に言ってくれたりとか……あ……」
先輩のことを喋れる相手なんていなかったから、滅茶苦茶喋ってしまった。流石に佐奈川さんも引いている……
「……」
「ご、ごめんなさい。私……つい……」
「……大好きじゃん……」
「え?」
「めっちゃ好きじゃん! 柴橋さんがこんな喋ってるとこ初めて見たよ……もっと、先輩さんとのこと聞かせて?」
佐奈川さんは目を大きく広げ私の手を掴んだ。その笑顔がとても眩しい。これが陽キャなのかと……私みたいな陰キャにも優しく接してくれるんだ。
「あ、えっと……嫌じゃなかったの。つい私早口になって喋っちゃったし……」
「全然ないよ! だって一瞬で想い人のことあれだけ語れるなんてもうそれ恋だって! 私滅茶苦茶恋愛トーク大好きだから! あぁぁ……なんか凄くいいね……もっと聞かせて……」
「い、いいけど……」
この後私は佐奈川さんと会話をした。
「結局。柴橋さんはその先輩さんと付き合いたいの?」
直球で聞かれた。
「き、奇跡が起きればだけど……」
「でも私の勘なんだけど、話を聞く限りその先輩さんも柴橋さんに興味あると思うんだよね、凄く優しいんでしょ?」
でもそれは、お金で先輩を縛っているからだ。お願いをして、先輩をいいようにしているから。正直私はずるいと思う。
「先輩の弱みを私知っているから……ちょっとずるして優しくしてもらってるんです……」
「え……」
「だから、その……先輩が私に好意あるとは、ちょっと考えづらくて……」
そう、お金の力だ。だから、先輩に好意が……何よりフラれたら多分立ち直れなくなる。
「だったらさ、その先輩さんから告白してくれればいいんだよ。ね、柴橋さん」
「はい……?」
「私。先輩さんとの関係を応援するから……いつでも相談に乗ってよ! 私張り切っちゃうから! 私に任せて!」
佐奈川さん凄く輝いて見える。何故だか先輩を通じてクラスに話せる人が出来てしまった!
「よ、よろしく。佐奈川さん……」
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