第15話 二人の時間
☆☆☆保健室へ
ドッジボールをしている柴橋の姿は凄まじかった。
柴橋はゲームが上手いだけじゃない。いや、ゲームが上手いからこそあそこまでの動きが出来ていたのだ。
そして……柴橋の顔面にボールが当たって倒れた。かなりの速度でボールが……
「柴橋!」
突然の出来事で誰も柴橋に駆け寄らなかったのもあるが、反射的に彼女の元へ駆け出していた。
「柴橋大丈夫か? 意識は……」
「先……輩? えっと……」
柴橋の鼻から出血しておりメガネにもひびが入っていた。意識はあるようだが、とても試合をできる状態じゃない。
「先生。柴橋を保健室に連れていきます」
柴橋を背負い立ち上がる。とても軽い。
「あ、ああ。頼んだぞ……武野……(なんで武野なんだ?)」
状況を飲み込めた先生に許可を取り、そのまま体育館を後にして保健室へ辿り着く。先生はいないので、勝手にベッドへ座らせた。自分でできる限りの応急処置を……メガネも割れているので外すか。
「あ、え、えっと……先輩……あ、あ……ごめんなさい……その」
一通り処置を終えると柴橋も回復したのか、すぐに頭を下げる。
「怪我人なんだから安静にしてていいって、それにこういう時は謝ってほしくないよ。何も悪い事してないんだからさ」
隣のベッドが空いていたので腰を掛ける。
「は、はい。ありがとうございます。先輩……でも、試合は」
「柴橋の代わりに別の子が入ったけど多分……」
誰が入ったところで恐らくあの戦況は変わらなかっただろう。柴橋はその事実を知ると酷く落ち込んでいた。
「そうですか、負けちゃいましたか……ごめんなさい……私。先輩の頑張ってる姿見て、頑張ろうかと思ったんですけど……駄目でした」
違う。そうじゃないんだ。
「こっちこそ、ごめん。柴橋」
「……先輩?」
「俺さ、自分が頑張ってる姿を柴橋が見てくれたら、同じように頑張ってくれるって思ったんだ。でも、その結果柴橋に無理をさせた。そして怪我まで……悪い……」
頭を下げる。
「そんな先輩が謝ることじゃないです……! その、先輩の頑張る姿とても素敵でしたし……だから、頭を上げてください」
「俺の場合。最後が上手くいっただけだよ。運が良かったんだ」
「そんなわけないです。先輩は試合中ずっと周りのフォローしてましたよね。先輩いなかったらチーム機能していなかったですし……先輩以外は全員攻めに回ってましたから。それでいて先輩は最後のスリーポイントも決めて……だから一番のMVPは先輩だと思います……」
ちゃんと、柴橋俺のこと見ていてくれたんだな……
少なくとも池谷は守備してくれてたと思うけど、決勝で壊れたからな……皆モテたい一心で点数を取ることばっか意識して、守備を疎かにしていた。
俺が謝り続けてもこの場は暗くなっていく。柴橋は優しいから俺のことを非難しないことぐらい、少し考えれば分かるだろうに……馬鹿だな俺も。なら俺にできることは一つだ。
「そう言ってくれると俺の努力も報われる。ありがとな柴橋。……でも柴橋だって十分活躍してただろ。あのノールック回避凄かったぞ、明らかに運動得意な人のする動きしてたって」
柴橋のことを褒めよう。俺のできる限り。
「ゲームの経験が活かせたのだと思います……でも、先輩みたいには出来ませんでしたし……ドッジボールをしたことがなかったので……」
「未経験であの動きが出来るなら凄いって、元々運動できる方だったのか!」
「体力には自信ありますから、その……ゲームで三徹ぐらいしてましたから」
……普通にすげえな。俺でも一徹が限界だ。それと柴橋の健康面が心配になった。
「そ、それで、その、先輩……私。頑張っていましたか……?」
「あぁ、柴橋は凄い頑張ってた」
「そ、それじゃ、先輩。『お願い』があるんです……」
「あぁ、俺にできることがあれば」
それだけ言うと、柴橋は口を開いていう。
「もっと……褒めてほしいです。先輩。褒めてください……」
☆☆☆ご褒美
褒めろと言われても。俺自身そんなに褒めるのは得意じゃない。柴橋の良いところを上げていけば、確かに褒めることになるが……
何か無理矢理引き出した感じが出てきて、気まずくなりそうだ。
だから、言葉だけじゃだめなんだ。それなら……
「そ、そうだな……柴橋……悪い」
「え……せん……ぱい?」
そのまま俺は柴橋の頭を撫でる。
「し、柴橋。今日は凄い頑張ったな……俺にできること少ないけどさ、柴橋に友達ができること応援してる。今日の柴橋の頑張りは絶対に無駄じゃないと思うから、これをきっかけにきっと……って……あれ?」
「ぴ……ぴぴ……ぴぴぴ。ぴゃあ~~~……」
息が抜けたように倒れる。あれ……
「柴橋。大丈夫か……どこか痛むのか?」
「だ、大丈夫です。ついびっくりしちゃって、その、もっと頭撫でてほしいです……先輩。もっと撫でてください……先輩……先輩……」
ここで鈴木との会話を思い出した……正直。こうやって甘えてこられるのは困る。そのなんていうか……滅茶苦茶可愛い。柴橋の顔すごい赤いし。落ち着け。彼女は後輩だ。彼女は後輩……
「私……誰かと関わるのが苦手ですけど……その分仲良くなった相手にはとことん甘えちゃうんだと思います。先輩。先輩。もっと頭撫でてください……先輩」
無心だ……無心。柴橋は後輩。でも滅茶苦茶可愛い……無心だ。無心。柴橋は鼻血を出しているんだ。うん。鼻にティッシュは言っててもかわいいな……って、鼻血だ!
「お、おう。こんなことで良ければいくらでも、その前に、ティッシュを変えさせてくれ……多分鼻血はもう止まってると思うけど……」
「え……鼻血……ハ、ハナヂ!?」
柴橋は鼻に詰められているティッシュを指で触る。
「ぴゃああああああああああああ!」
掛布団に入り込んで顔を隠してしまう。
「柴橋?」
「私……あんなクソブスな姿で先輩と会話してたんですか。鼻の中にティッシュ突っ込んで先輩と!? ……しかもメガネも割れてますし……え、鼻にティッシュなくてもブスですか……あ、あまり変わらないってことですよね……ははは……馬鹿にしてますよね……普通人と会話する時にティッシュなんか……」
「……気にすること。ないと思うけど……柴橋は柴橋なんだから……悪いな柴橋」
掛布団を無理矢理取った。そして俺は柴橋の顔を見る。
「せ、先輩……?」
「それと、俺は少し怒っているぞ。柴橋……褒めるところもいっぱいあるけど……これだけは言わせてもらう!」
「ごめんなさっ……」
もう一度頭を撫でる。
「え……先輩?」
「……あんま、自分のことをブスとか言うんじゃないよ。俺の感性が否定されてるみたいで凄く嫌だ」
……何言ってんだろう俺。でも、柴橋の顔は普通に悪くないと思うし……地味に見えているだけなのだ。今はメガネを外しているから素顔が良く見える。顔は赤くなっているし……
保健室で二人きりの空気に当てられているんだ。だから……
「先輩……それって……」
「悪い……でもこれだけは伝えたかった。柴橋はブスじゃない。か、かわいいと、思うよ↑」
あぁやばい、声が裏返ってしまった。
「……あ、これ夢ですね。それか走馬灯だ。ありがとうございます。夢の中でもそう言ってくれると嬉しいです先輩。ありがとうございます。ありがとうございます……」
柴橋は頬をつねると目をこすり出す。現実だよ。
「夢じゃないから。ちゃんと、俺が言ったことだよ」
「……ぴゃ~~~~~~~」
「……あぁ~~~~~~~」
なんだこの空気感凄い恥ずかしくなってきた。何言ってんだよ俺……ほんとどうしちまったんだ。
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