第14話 一年のドッジボール

☆☆☆男子トーク


昼休みが終わり絶賛失恋中で傷心中の鈴木と体育館へ向かう。


「なぁ、武野。俺ってモテないと思うか?」


「加藤のこと気にしているなら、運がなかっただけだと思うけど。でも、顔は普通だし悪くないんじゃないか……そのモテない精神変えれば彼女の一人くらいできると思うが」


「それは良いんだよ。にしてもさ、武野を同士として話すんだが……」


え、なんで急に同士認定されてんだ。確かに俺と鈴木はバスケで肝心なところで活躍できた共通点がある。


だけど、貢献度で言えば秋山や池谷の方が多い。


「……後輩って……いいよな!」


秋山に肩を掴まれる。


「はい?」


「武野も後輩が見たくて! 俺と共に行動したんだよな! マジ後輩最高なんだけど! 付き合うなら年下だよな! タメとか超餓鬼っぽいし!」


突然の圧力に戸惑うしかできなかった。あとそれ年上の時に言うことだぞ。


「いや、鈴木。加藤のことで傷心しているのは察するけどさ、別に年齢とか――」


「――まず『先輩』って呼んでくれるじゃん。それに年下だから慕ってくれるしな!  懐かれたら犬っぽくてかわいいっていうか、あ、でも猫もいいかもしれん。うわ、年下可愛い! 武野もそう思うだろ? 付き合うなら年下だよな!」


……後輩という言葉で柴橋が思い浮かんでしまった。現に柴橋を見るため鈴木と行動したのだけど


でも、そんな不純な目で柴橋を見ているわけではない。彼女の友達計画に手を貸しているんだ。


確かに柴橋は俺のことを慕ってくれている。それに俺自身一番会話をしている女子が誰かと言えば柴橋だ。


「だから、後輩女子に声かけられるチャンスを狙ってるんだな 武野!」


めちゃ恋愛受け身だな鈴木……


「お、おう。確かに年下いいよな。うん。とてもいいと思うぞ」


「だよな~語り合おうぜ~」


とりあえず納得しておこう。その後も鈴木の年下トークを延々と聞かされた。


〇〇〇柴橋の試合


私の球技大会が始まる。種目はドッジボールだ。


正直小学校の休み時間はずっと本を読んでいたし、球技はしたことがない。大会に参加したのも今日が初めてだ。


先輩ちゃんと見てくれてるかな……


「C組にはソフトボール部の投手がいるから……勝てっこないよ~」


私達のA組には運動部経験者がいない。文化部ばかりである。


「柴橋さんも一緒に頑張ろう!」


「えっ! あっ……あっ……」


突然話しかけてきたけど……名前覚えてなかった……どうしよう。どうしよう……えっと確かさな……さなさん?


「あれ、柴橋さんと話すの初めてだっけ。私は佐奈川だよ。よろしくね!」


そうだ佐奈川さん。誰にでも優しく接するクラスのムードメーカーみたいな存在。所謂陽キャである。見た目も私と比べれば蟻と蝶のように違うし、とても可愛い。


髪色も少し明るく染めており、シュシュで結んでおしゃれな髪形になっている。私みたいに少し癖のある長めの黒髪とは大違いだ。


今は私も身体を動かすから髪を一つに結んでいるけど何か違う。


「あ、う、うん……が、がんば……ろう……」


こうしてドッジボールが始まる。と言っても一方的なものだった。


C組にはソフトボール部の投手がおり、明らかに他の女子が投げるボールと質が違ったのだ。


私達は避けることが出来ずに悉く散っていった。


「やっぱ無理だよ。勝てっこないよ……C組凄く強いし……ソフトボール部は反則だって……」


そして空気も最悪だ。A組はボールの速度に怖気づいている。


「大丈夫だよ。まだ、勝てる可能性は大いに存在しているから……」


佐奈川さんは皆をフォローしようとしているが、明らかに無理だろう。


運がなかった。ということだろう。試合中。別のクラスの試合を見ていても、一般的な速度のボールしか飛んでいなかった。


C組の人が投げるボールは明らかに違う。


「柴橋さん! 狙われてるよ!」


佐奈川さんの声が聞こえる。ずっとFPSのゲームをやっていたからか狙われば直感が知らせてくれた。


だから、どこからボールが飛んでくるのか、見なくても分かる。


「っち、外したか。運が良かったな」


「凄い。今柴橋さん。見てなかったのに避けたよね?」


佐奈川さんは私を見ていた。


「えっ……い、いや、……」


そもそもC組が投げてくるボールの速度は遅く感じてしまう。


対人戦に力を入れてきたから、1フレームの世界で戦ってきた。ずっと引きこもって家でゲームばかりをしてきたのだ。


だから、避けること自体は簡単だった。だけどそれだけじゃ意味がない。結局自陣にボールを引き込み投げて相手を倒さない限りはこちらは勝てない。


引きこもっている間も私は体力だけは維持してきた。ゲームで二徹や三徹は当然であり、運動不足解消のためエアロバイクだって用意していた。


だから、身体は思ったよりも素直に動いている。相手のこぼしたボールを拾い、近くにいた女子へ投げた。


「はは、そんなへなちょこボール簡単に取れるでしょ……あれ」


よし、一人をアウトにした。しかしすぐに私へ向かい反撃のボールが飛んでくる。


「……!」


相手の目線から狙う場所は左足だ。投げた瞬間と同時に左足を上げる。


「……嘘」


何とか当たらずに済んだ。交互に後ろからボールが飛んでくる。また狙いは私……なら!


「……あの地味な女子……動きが素人の物じゃない……? 明らかに自陣の外野へボールが飛んでいくことを想定した動きだ……ちぃ、あの見た目はブラフなのか!」


だけど、戦況が変わることはなかった。結局私一人が残ることになり追い詰められる。


相手も私達の外野にボールをこぼすことがなくなる。何度もよけ続けるがボールを取ることが出来なければ勝てない。


「柴橋さん~頑張って~」


さ、最高に気まずい……そもそも、学校でこんな注目されたことないし……そもそもこの状況をひっくり返す方法が思いつかない……


もし銃があれば、一瞬で片付けられるのに……これがゲーム大会とかなら……って!


「貰った……これなら回避ができない! フェイントだよ……! これで終わりだよ。地味な女子さらばだ!」


相手も確実に私を潰すつもりでいた。だからこそ、私が大勢を崩した瞬間を狙う。飛んできたボールの軌道は読めるけど、どうあがいても回避ができない。


結局私は何も活躍できなかった。先輩にかっこ悪いところ見せたかな……


……だめだ。まだ諦めちゃ……先輩だって頑張ったんだから私も頑張らないと……


「……!」


ボールはこのままいけば私の胸部に激突する。だけど、私の態勢をもう少し下にすることが出来れば……


ドッジボールには顔面セーフのルールがあったはず。だったら……


「柴橋さん!?」


迷わずに私は顔面からボールを受ける。


衝撃が走った……! しかし……あれ、ちょっとふらふらするな……


「柴橋!」


あれ、先輩……? どうして先輩の声が?

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