第13話 球技大会の昼休み
〇〇〇ジレンマ
試合の最後で先輩にボールが回ってきた時、気が付けば咄嗟に叫んでいた。今までで一番大きな声を出した気がする。
そして先輩は最後数秒で点数を入れた。それによって先輩のクラスが球技大会を優勝した……
こうして先輩の球技大会は終わりを迎えたのだ。
先輩たちのクラスの試合はどれもものすごく盛り上がっていた。変な人たちが多かったのもあってか、まるでスポーツ漫画を読んでる展開だ。
「きゃ~池谷先輩のクラスが優勝した~~~~~池谷先輩おめでとうございます~~~~」
皆も同じように喜んでいる。
「私、メガネ先輩凄く頑張ってた気がする。途中何喋ってるのかさっぱり分からなかったけど」
違う。メガネの人よりもいい人がいたじゃん。
「遅れてきた先輩かっこよかったな……あの人来てから、試合の流れ変わったって!」
違う……遅れてきたから体力があっただけだし……
「私は最後に決めたバイトの先輩!」
「……っ!」
「あー分かりみが深い! バイト先輩凄いよね~あのプレッシャーの中スリーポイントシュート決められるなんて! 多分スリーポイントシュートするバイトしてたんだよね!」
なんだろう。この感覚……先輩が周りの人に凄いと言われるのは嬉しいはず。
現に先輩は凄くかっこよかった。いや、最初から凄くかっこよかったのだけど、運動をしている先輩を見れて、嬉しかった。
まず、ジャージ姿が素敵だったし、ドリブルして皆にパスを回している姿も素敵だ。
それでいて、あまり自分が目立たないようにして、仲間達に花を持たせているあたりも先輩の優しさが伺える。
そもそも、先輩以外の仲間達が先走っているせいで、先輩がずっと守りに回っていた。先輩が守備に回ってなければ、相手チームからかなりの点数を取られていたことだろう。
でも、私はそんな先輩の動きを一瞬たりとも見逃さなかった。先輩は先輩なりに凄く頑張っていたのだ。
だから、そんな先輩の努力を見ていなくて、シュートを決めた瞬間だけで先輩の良さを分かった風に言ってほしくなかった……
いや、違う。そうじゃない。本当は他の女子が先輩に好意を持って欲しくなかったんだ。先輩はかっこいいから、優しいから、絶対にモテるはず。イケメンだし!
試合を見ていた女子の何人が先輩に好意を持ったのだろう……それは凄く嫌だ。
先輩が評価されるのは嬉しい。だけど、先輩が評価されるのは嫌だ……ジレンマに悩まされていた。
「先輩……」
一人そう呟いた。するとLEMONの通知が鳴った。
『(サムズアップのスタンプ)』先輩から送られてきたスタンプに。
『(別のサムズアップのスタンプ)』で返した。
真っ先に私へ送ってくれたのかな……そのまま昼休みの時間になる。
……先輩が私の試合を見に来る。でも、私は球技大会初めてだし、先輩の様に活躍は出来ないと思う。
だけど、先輩が頑張ってるところを見せられて、少しだけ勇気が出た。。
だからドッジボールを頑張ろう。先輩……見ていてください……
☆☆☆昼休み
「お疲れ! 武野!」
昼休みは教室でクラスの男子と弁当を食べていた。普段あんま話さないクラスメイトとも会話を楽しむ。
「最後のスリーポイントほんとよく決めたよな。あれなかったら俺ら負けてたぜ」
「たまたま川上がノーマークの俺に回してくれたからな。入ったのは運が良かっただけだよ」
「あそこで君に回した場合の勝率が高かったのだ。現にバイトマスターは成功した……信じていたぞ。期待通りの成果を上げてくれて……僕達は優勝することが……できたのだぁぁぁぁ」
川上は優勝したかったらしく泣いて喜んでいる。だから全国大会優勝したテンションなんだよな一人だけ……
「はぁ~~~~~あぁ~~~~終わりだよ……俺の青春ってさ……」
お祝いムードの中。酷く落ち込んでいる男子が一人だけいた。
「そう、鈴木は宣言通り加藤に告白したのだが、だが見事に玉砕! それどころか、加藤には彼氏がいたのだ。だから今こうして鈴木は絶望に打ちひしがれるのだ……(クイ)」
「あああぁぁぁあぁ! 俺の頑張りは何だったんだよ! 彼氏いんのにあんな優しい顔しないでほしいんだけど! クソ! クソ! しかも俺みたいな非モテに優しくすんなよ、絶対勘違いするからぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁぁ!」
「まぁまぁ、鈴木。元気出せって、俺の卵焼き食うか? 鈴木いなきゃさ俺ら決勝に進めなかったんだし、頑張ったことは決して無駄じゃなかったよ」
イケメンの池谷がフォローに入った。
「うるせぇ! イケメン池谷モテててたじゃん! くそぉぉ! 武野お前もだ! お前一番かっこいいとこ持ってきやがって……くそぉぉぉ! あんとき俺が入れてれば加藤さんも彼氏と別れて俺と結ばれるはずだったんだぁ! でも、優勝できたことは素直に嬉しいよぉぉぉ! 武野ありがとうぅぅぅぅ! 俺のブロッコリーやるよ」
そんな嬉しくないけど貰っとこう。
「武野も声かけられたんだろ? でも勘違いすんな。その女には絶対彼氏いるからな。モテないから勘違いしてしまうのも仕方ないと思うけど!」
鈴木はなんで俺を憐れむ目で見ているんだろう。
「声かけられてないぞ俺。最後だけだもん目立ってたの」
「可哀想な奴だな……まぁ、きっと一人ぐらいお前をかっこいいって思ってくれた奴いるだろう。彼女もちでありながらクソモテる池谷には勝てないけどな!」
「いや、俺も彼女いないから同情してるんだけど……あれ? 言ってなかったっけ?」
そこで池谷から衝撃的な事実を聞かされた。
「「「「「「え」」」」」」
「なんでみんな驚いているのさ、そもそも、俺。誰とも付き合う気とかないからさ……」
遠い空を眺めるように池谷は言った。
「池谷は幼少期遊んでくれていた近所のお姉さんに一目惚れをした。そして告白もしたが『子供』だからという理由ではぐらかされたんだ。時が流れお姉さんは別の人と結婚していた……それ以降池谷は恋愛が苦手としている。データによるとね」
「「「「「池谷……お前ってやつはーーー!」」」」」
「俺のから揚げやるから!」「俺の酢飯も!」「僕の特性デミソースも捧げよう!」
この後。池谷の絆が深まった。
「そういえば午後からB組の女子バレーあるけどさ、皆で一緒に応援行こうよ」
池谷からの提案があった。と言っても俺は一年のドッジを見に行くのだが……どう断ろうか……
「いや、同学年の試合は加藤さん出てくるからパスする。俺は一年の試合見に行こうかな」
「あ、じゃ、俺もそうする」
鈴木に便乗して、俺もドッジを見ることにした。
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