第10話 球技大会のチーム分け

☆☆☆球技大会の会議


昼休み明けの授業が始まるが、どうやら一週間後に行われる球技大会の話をしている。考え事をするのにぴったりな時間だ。


柴橋が言っていた三澤さんはどういう子なのだろうな。一生関わり合いにならないだろうが……


「……バイトマスターよ……」


友達計画について考えるか。確かに柴橋は一見暗い女子だが喋っていると意外と面白いし、彼女が心を許しさえすれば、友達は出来るはずだ。


「バイトマスターよ……」


だからこそ、何かきっかけさえあればいいんだが……


「聞いているのか! バイトマスター!」


「うぉぉ! びっくりした!」


目の前に川上がいた。


「君はどっちなのだね、バスケットボールかバレーボールか!」


「悪い。考え事をしていた。バレーボールで頼む」


バレーボールならこちらに来たボール上げとけばどうにかなる。


「いいや、君はバスケットボールをやるべきだ。なにせ僕と同じチームだからね……データによると君のバイト経験がバスケットボールで活かされる確率は100%だ……」


「じゃ、バスケットボールで」


どっちでもよかったというのが本音だ。スポーツは嫌いじゃないし、と言っても本気でやったことはない。


「バイトマスター。球技大会にやる気がないのはいただけないな。去年の悔しさを忘れたとは言わせないぞ……そう、これは去年の六月のことだった。梅雨の時期に行われた体育館を使った球技大会のバスケットボール……1年C組は『僕のデータ』と『君のバイト』によって決勝まで進んだだろう……だが一歩届かず僕達は敗北した……」


「確かに決勝行けたけど、それは去年同じクラスだったバスケ部の連中が頑張ってくれたからだろ。俺達の力なんて微々たるものだろうし……それに今のクラスにバスケ部いないだろ。良くて二回戦進出だ」


「そうだ。だから僕達が先陣切ってクラスを引っ張っていくんだ!」


「いや、リーダーはサッカー部の池谷でいいと思うけど。みんなついてくるだろうし」


サッカー――


「サッカー部の池谷とは、このクラスでも一位のモテ男子であり、二年生でありながら一流大学からのスカウトも来ている。ポジションはセンターフォワードであり、サッカー部のエースだ。しかし嫌味なところは一切ない。完璧イケメンキャラである……」


「いやいや、そんな俺モテないからね……武野がバスケやるっていうなら心強いよ」


そこに池谷が入ってくる。


「川上か池谷どっちがリーダーに相応しいか普通にわかるだろ。人望考えろ」


「僕がリーダーをやりたい。去年の悔しさを池谷は経験してないだろう。僕は今年こそは絶対に優秀したいんだ。そして、勝利というデータを手に入れる……!」


川上はこう見えて意外と体育会系だ。恐らく読んでいたスポ根漫画のデータキャラに影響されているのだろう。


「俺じゃなくて、川上がリーダーで構わないけど」


「いや待て池谷。メガネはリーダーじゃない参謀ポジションだ。その方がデータを活かせるぞ、川上……」


「っは……! 流石バイトマスター……僕のことを良く理解している。その冷静な分析力が欲しかったのだよ!」


「いや、冷静な分析力こそお前の役目だろ。データマスター言ってんなら」


「た、確かに!」


何度も言うが川上は馬鹿である。


「ということで、池谷リーダーを頼めるか? 作戦は僕が考える……今年こそは絶対に優勝するぞ! (クイ)」


結局池谷がリーダーをすることになって球技大会はバスケットボールに決まった。


バレーボールのチームとは別れて、10人ほどメンバーが集まる。


「目標は当然優勝なんだけどみんなはどうだい」


リーダーである池谷が仕切るが……他の男子たちはやる気がなかった。それもそのはず。そもそも、このクラスにバスケ経験者はいないし、他のクラスには当然出てくるだろうから、勝ち目が低いのだ。


それに、池谷がバスケに参加するということは、女子の目線も全部彼に持ってかれるということだ。


球技大会でかっこいいプレイをしてモテたい奴が何人もいたはずだ。しかし、その希望すら池谷によって滅ぼされることになっているのだろう。


「あぁ……彼女欲しい……もし負けても、滅茶苦茶慰めてくれるんだろうな~」


一人の男子がそんなことを言うと……


「っふ、甘いな。確かにこのチームには池谷がいる。女子の視線は89%彼に向かうだろう……それに僕達は期待されていない(クイ)」


「そうだよな~池谷イケメンだしどうせキャーキャー言われるんだよなぁ~」


「そしてこのクラスは現状勝率が低いのも事実……なぜか、このクラスにはバスケ経験者がいないからだ。恐らく他の女子もチェック外だろう……だが、そんな僕達が優秀することができれば、女子はどうなるか?」


「「「「……まさか!?」」」」


バスケチーム男子たちが川上の演説を真剣に聞き出した。


「そうだ。池谷はあまりにハードルが高い。他のやつになら可能性は残っているじゃないか、ワンチャンを狙うんだ。かっこいいプレイをすれば女子からキャーキャー言われるぞ。つまり……モテるということだ!」


「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」


だけど、士気が上がったのは確かだ。やる気のなかった男子をここまで出させるなんて、モテるって魔法の言葉なんだな。


こうしてバスケ部はモテたいという理由で一致団結した。


いや、たかが球技大会でそんな関係……っは! そうか……


可能性は低いかもしれない。しかし柴橋が球技大会で何か結果を残せば、会話のきっかけが生まれるかもしれない。


恐らく柴橋は球技大会を欠席するはず。それは何としても阻止しよう。


だが、俺が直接頑張れと言えば『先輩に言われたから』という理由で頑張るはず。それはいただけない。後輩は先輩の背中を見て育つという。なら、俺がある程度のとこまで行けば、柴橋も頑張ってくれるだろうか……


柴橋が頑張るのに俺だけ頑張らないのはだめだ。なら……


「どうやら……武野もやる気になったみたいだね。俺もバスケはあまりやらないけど、一緒に頑張ろう」


「おう!」

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