第9話 昼休みにて
☆☆☆一緒に食事
午前の授業が終わったのですぐにスマホを取り出す。LEMONで柴橋にメッセージを送った。
『柴橋昼食一緒に食べないか? 今後の目標を話したい』
『絶対に食べます。今すぐ行きます。先輩。どこに行けばいいですか?』
「バイトマスターが僕と一緒に昼食を食べる確率……100%……(クイ)」
今は梅雨なので雨降っているから中庭は使えない。人多そうだけど食堂にしよう。
『食堂に集合で良いか?』
『光の速さで向かいます!』
『廊下は走らないように、転んで怪我したら元も子もないよ』
『はい!(めっちゃ派手なスタンプ)』
そういえば柴橋誘ったのって初めてだったよな。
「そんなわけで俺食堂行ってくるから、お前と飯は食わないぞ」
「な、に!? 君が食堂に行く確率は0%だったはず!? データにないぞ! おい、バイトマスター! 待ってくれ! 僕を置いていかないでくれ~!」
そのまま俺は柴橋と約束した食堂へ向かう。久々に訪れた食堂は生徒の活気に満ち溢れていた。あたりを見渡すと柴橋が端の席でポツンと座っていた。こちらに気付くと……
「あ、こんにちは先輩……そのお昼ご飯に誘ってくれてありがとうございます……」
「席取ってくれたのかありがとうな、柴橋」
「その……一緒にご飯食べれて凄く……嬉しいです。先輩」
「じゃ、一緒に食べようか、向かいに座るね」
柴橋の正面に座ると、コンビニ弁当を広げる。柴橋も同じくどこかで買った弁当だが凄い高そうだ……箸もなんか高級そうだし……
「「いただきます」」
こうして俺達は食事を始める……柴橋の弁当めっちゃ美味そう……ごくりと唾をのんでしまう。なんか分厚い肉みたいなのあるし、何の肉なんだ一体……
「あの……先輩? 私の弁当変ですか……?」
「めちゃ美味そうだなって」
正直に言うと柴橋は……
「ぜ、全部差し上げます! 私みたいなクソ陰キャ弁当を食べてること自体が間違っているんですよ……先輩がこんなおいしそうな目にさせてるなら全部……全部差し上げますから!」
すると、柴橋は弁当を全部俺に渡そうとする。
「いや、全部受け取ったら柴橋の食べる分がなくなるだろう……そうだ。おかず交換しよう(金額がまったく釣り合ってないが)そっちの方が友達っぽいし」
「え、いいんですか……先輩のおかず貰えるんですか……? それなんてご褒美ですか? 先輩お肉見ていたからその、これをどうぞ……」
よく分かんないブロック状の美味そうな肉を受け取る。
「え、これメインディッシュっぽいけどいいの? 柴橋は何が欲しい?」
「先輩の……から揚げ貰っていいですか?」
「一個でも二個でも持って行ってくれよ」
「で、では失礼します……先輩のおかず貰えるなんて……嬉しい……」
すると柴橋は食いかけのから揚げを取ってすぐに口に含んだ。
「柴橋俺のそれ食いかけ……なんだけど……良かったのか?」
「その、凄く美味しいです……あ、ごめんなさい。先輩の食べ掛けを取るなんて……」
「い、いや、柴橋が嫌じゃなければ構わないんだけど……もう一個食べるか?」
柴橋にもう一個から揚げを渡す。
「は、はい……いただきます……美味しい……お弁当交換って素敵ですね……私初めてやりました」
「一方的に食われる場合は普通に拒否しような」
「はい!」
☆☆☆友達計画
弁当を食べ終わり柴橋との話に入る。
「友達計画についてだ。柴橋に友達を作るにはどうしたらいいのか昼休みが終わるまで話そう」
「そ、そうですね……」
「柴橋のクラスメイトを知らないけど、仲良くなれそうな子とかはいないのか? 似たタイプの子とかさ」
似たようなタイプの子なら、当人同士距離感の取り方が似たり寄ったりだろう。
「わ、私のクラスは一年A組ですけど……隣の席に授業中ずっと絵を描いている子ならいますね……確か名前は三澤さん」
あ、いたんだな。そうそう。そういうタイプを待っていたんだ。
「多分そういうタイプとなら上手くやっていけそうだと思うが、声かけてみればどうかな」
「そうなんですけど……」
何か後ろめたいことがあるのだろう……
「どうかしたか?」
「その……ちらっと見えたんですけど……三澤さんの描いている絵が……その……なんていうか……なんというか……」
滅茶苦茶言葉を考えているな。長い前髪からでも目がきょろきょろしているのが分かる。
「そ、その……獣とか虫とかひげもじゃのマッチョが取っ組み合いをしている絵で……ひげもじゃマッチョの虫が印象的でした……」
「え」
顔も知らない三澤さん……君は一体……
「折角先輩が提案してくれたのに……ごめんなさい……私も獣とか虫とかの取っ組み合いを楽しめないと、友達ができないって……そもそも私に友達を選ぶ権利なんてないですし……」
「三澤さんだけはやめておこう……俺の勘がそう告げている」
直感が危険だと、いや、誰が何を好きになるかは人それぞれだけど、柴橋にその道を歩んでほしくない。
「ごめんなさい……先輩……私が意気地なしだから……」
結局成果は得られないまま、昼休みの予鈴がなった。
「謝らなくていいよ。その人は危険だと思うし……クラスメイトのことはとりあえず保留にしよう。柴橋が友達を作るにあたって守らなきゃいけないことが一つある」
「それはなんでしょうか……?」
「柴橋がお金を持っているということは言わない方がいい。その……利用される……可能性あるから……」
現に金を貰っている俺が言えることではないのだが、クラスで柴橋が金持ちであることが知られれば、名ばかりの『友達』という交友関係で財布代わりにされる可能性がある。
ほんと俺が言えることじゃないんだけど……いや、借金背負ってなかったら断っていたぞ。
「先輩……もしかして私のこと……心配してくれたんですか……?」
「当然だろ。柴橋に友達ができること応援してるんだ。安心してくれ」
「あ、ありがとうございます先輩……」
俺達はそのまま学年が変わる階段まで一緒に向かう。
「それじゃ、柴橋……またな」
「はい、先輩……またです……」
こうして俺達は各自の教室へ戻っていく。ちなみに柴橋の弁当に入っていた肉はとても美味しかった。
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