第3話 相合傘

☆☆☆二人の帰り道


後輩の柴橋から相合傘を提案された。相合傘……って、マジかよ。


「それぐらいなら全然いいんだけど……相合傘するか?」


「あ、ありがとうございます……よし……先輩と相合傘……」


雨は強く降っている。だけど、相合傘をすることが柴橋の望みだというのなら。俺は契約上答えてやるのが道理だ。


傘を開く。外は本降りだから濡れるなぁ……


「俺の傘に入るか?」


「……! は、はい! ありがとうございます……うわぁ……先輩と相合傘…‥夢見たいです……」


恐る恐ると柴橋が傘の中に入ってくる。とても距離が近い。身長差から俺の上腕と柴橋の二の腕が触れた。


「先輩がこんなに近い……うわぁ……す、すごい。腕も当たっています……」


こうして一緒に帰路を歩いた。最初の方はあまり会話がなかった。まず、柴橋は小柄であり、俺とは顔一個分くらい違う。


彼女を濡らすわけにはいかないのでバランス取るのが難しかった。


漸くなれてきたので口を開く。


「柴橋。その……どうして俺だったんだ?」


「……それって、どうして先輩を買ったかってことですか?」


「うん。相合傘の相手とか、その、買うとかさ……理由があるのかなって」


「……つまらない理由ですよ……先輩は私が孤立している時に話しかけてくれました。私見ての通りの性格ですから、誰かに話しかけることなんてできなくて……」


大抵予想していた通りの答えだった。


「その、先輩ともっと会話したいです。そうすれば……私の人嫌いも少しはマシになると思うんです……」


「最初はもたついていたけど、今はこうして普通に会話できるからな」


「はい。だから、これは私のコミュ障を直すために必要なんです……もし先輩が声をかけてくれなければ学校もやめてたと思います。だから、先輩にはとても恩があるんです」


学校をやめるって結構重症ではないか?


でもそうか、自分のためか、正直ひやひやした。女子から相合傘してほしいなんて、言われたら、正直自分に好意があるのだと疑ってしまうだろう。


だけど、コミュ障の克服したいと柴橋は言っている。つまり、ちゃんと俺に利用価値があるのだ。


「そこまで自分を蔑まなくても……でも、そういうことか……」


「はい……だからこれから、先輩でいろいろと実験したいです……会話できる人って先輩しかいないですから」


「柴橋の気持ちは理解したけど、それなら普通にお願いしても聞いてたと思うぞ。買われるまでも……」


「でも先輩。バイトで会えない時間があります……それなら、先輩を買収したほうが早いなって……」


でもそのおかげで、俺はバイトを増やさずに済んだわけなのだが……


「そういうことか……柴橋はコミュ障を克服したいんだな」


「はい……っぴゃ! 先輩!?」


柴橋は会話に夢中で歩いたのか、猛スピードで歩道の内側を走る自転車に轢かれかけた。肩を掴みこちらに引き寄せた。


「怪我はないか?」


「あ、だ、大丈夫です……」


「全く……あのスピードで自転車走るなら車道行けよな……とにかく怪我無くてよかったよ」


偶然にも抱き締める形となってしまった。


「あ、あぁ……ぴゃ……ひゃ……あ、あの、せ、先輩……そ、その……もう大丈夫です……」


取り乱す柴橋を見て、まだ抱き締めていることに気付いた。


「悪い。緊急事態だったから……驚いたよな」


すぐに肩を放し相合傘の距離感に戻る。


「い、いいえ……(自転車ありがとうございます)嫌だったわけではないです。その急でびっくりしちゃって……私なんかのために先輩が肩を寄せてくれるなんて」


「お、おう」


「ほんと先輩は優しいです……助けてくれてありがとうございます」


当然のことをしただけだと思うが……


「……あの、先輩。このまま私の家でゲームしませんか?」


……何? 家でゲームって……確かに俺と柴橋の関係はゲームから始まったものだ。会話も大体ゲームを通して行われている。


彼女がスマホでやってたのは、オーソドックスなオンライン対戦型FPS

『ゴッドデッドオンライン』通称『GDO』だ。


「そ、その、家だと一緒に別のゲームも対戦できますし……その……」


多分柴橋は相当のゲーム好きだ。彼女のゲームの腕は相当上手い(俺は下手である)


「両親とかは俺を連れてきて何か言われないのか? 一応男だし」


「その心配はないです。私一人暮らしですから……」


「え……それ初耳だわ……マジで、柴橋一人暮らししてんの?」


ごめん。正直。両親に頼りっぱなしの生活していると思っていた。こたつに入って『お母さん~ご飯まだ~』とか言ってるイメージがしがみついていたが……考えを改める必要がある。


一人暮らしをできる生活力が存在していたのか……


「……凄い失礼なこと考えていませんか?」


「い、いや……素直に感心しただけだよ。ほんとだよ?」


「大丈夫です。私みたいなクソ根暗陰キャが一人暮らししているなんて誰も思わないですもんね……宅配系も全部置き便にしてもらってますし……」


「すまん……」


だけどもう一つの問題が浮上する。一人暮らしということは、柴橋の家で二人きりになるということだ。


正直に言えば俺自身女子の家なんか行ったことないし……だけど……すげぇ気まずくなるのだけは避けないといけない。


「その……いいですか? 先輩と一緒にゲームしたいです……」


と言っても。断ることなんてできないんだけどな。買われているし……


「柴橋が良ければ……お邪魔するけど……」


「邪魔なんてとんでもないです……ここからすぐですので……」


こうして柴橋の家へ一緒に向かったが……え……


「着きました」


正直目を疑いたくなった。ここは……


「タワマンじゃん」


庶民の憧れとして名高い聳え立つタワマンでした。

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