第2話 高収入バイト
☆☆☆よろしくお願いします先輩
「えっと……冗談言えるようになったのか。ははは!」
「あ、あの、冗談じゃないです本気です……先輩の時間を私に買わせてください……」
予想しない提案に俺自身も戸惑いを隠せない。
「いや、でも柴橋。それが高収入って……」
「い、一時間五千円で、ど、どうですか?」
「はぁ!? 五千円!?」
予想外の金額に声を荒げてしまった。
「い、いやでも、五千円って……一般的な時給のほぼ五倍だぞ?」
すると、柴橋はスマホをいじり出し画面を見せる。
「こ、これ、私の通帳です……」
「……え」
明らかに高校生の持っている額じゃない数字だ。SNSのスパムでよく見る金額……何桁かぱっと見で分からなかった。柴橋の実家は金持ちなののか……?
「俺が必死になって稼いでたバイト代がカスみたいだ」
「色々としていまして……思ったよりお金が増えちゃったんです……もし先輩が望むなら時給一万円でも……」
五千円跳ね上がったぞ!? だけど……
「えっと、それってつまり……」
「は、はい。その……所謂援助交友です。先輩の時間を私にください……そのための代償です。今までがおかしかったんです……せ、先輩が私なんかに構ってくること自体が……」
魅力的な提案だった。正直どういう経緯で柴橋があの額の金を持っているかは想像できない。
バイトを掛け持ちしなくて済むどころか、柴橋に買われた方が効率的に稼げる。
だが……買われるということは、一体何をされるのだろう。正直言って怖さもある……
だけど、時給には代えられない……今の俺にはお金が必要なんだ。借金もできるだけ返したいし……
「嫌なこととかはしなくていいんです。その……いつもみたいに私の話し相手になってくれるだけで……時たま『お願い』を聞いてくれるだけで……だからその……買っていいですか?」
ごくりと唾を飲む。
「じ、時給。五千円でいいんだよな?」
ただ、男としてものすごく情けない気がする。後輩の女子に金で買われるなんてこと……考えなくてもダサすぎる……
「い、一万円でもいいんですよ」
「い、いや、ご、五千円でいい……なんか戻れなくなりそう……頼む」
「そ、そうですか……そ、それでは契約成立ですね……やった……やった……先輩を買えた! やった……よ!」
すると、柴橋は笑顔でガッツポーズした。まるでずっと欲しがっていたおもちゃを買い与えられた子供のようだ。
「あ、あの……よろしくお願いします。先輩……」
こうして俺と柴橋の奇妙な関係が始まった。
☆☆☆一緒に下校
その後柴橋と一緒に下校する。下駄箱まで一緒に移動。
「しかし、他のバイトどうしようかな。シフト減らした方がよさそうだし……」
「……やめればいいじゃないですか、他のバイトは全て」
「どうして。全部やめるんだい」
「だって、他のバイトに行ったら先輩と一緒にいる時間が減ります……」
「それはそうだけどさ……いろんなバイト掛け持ちしているわけで。全部やめるのは気まずいしな。あ、一緒に居たいなら柴橋も同じバイトを……」
すると、柴橋は強く俺を睨む。
「……先輩。私がコンビニでバイトしている姿想像してみてください……」
柴橋がバイトしてる姿を想像する。まず前髪が長いので店長とかに切れとか言われるだろう。『いらっしゃいませ』も言わなそうだ。言えても滅茶苦茶声が小さい。それに怖い客なんていたもんには……泣き出すな。
「私なんかが、コンビニでバイトできるわけないですよ。まず面接に受かるわけないじゃないですか。男の人が店長なら二人きりで話すんですよ。死にますって……私。先輩しか話せないですから……」
あ、まず柴橋が面接に受かることを考えていなかった。流石に空気が重たいな。ここは何か一つ冗談でも……
「でも、制服姿想像したら思ったより似合ってたぞ」
「……うっ! あぁぁぁっ! ぐぎゃああああ!」
すると、急に変な声を上げ柴橋は悶えだした。
「どうしたんだ。柴橋?」
「(先輩が……そんなこと言ってくれるんだ……嬉しい。嬉しい……制服にあってるって……)はぁ……はぁ……すいません。もう大丈夫です」
「そうか、とにかく一緒にバイトするのが無理ということは分かった。なるべく、バイトのシフトを減らすということでいいか」
そういうことで俺達の話し合いは落ち着いた。
「はい。先輩……それで『お願い』があるんですけど……」
「どうした?」
一応雇われの身だ。どんなお願いが来るのだろうか……?
長い長い静寂。梅雨であるため雨の音はさらに大きく聞こえた。下駄箱で柴咲は小さく口を開いた。
「……あ、相合傘。し、しませんか……先輩……」
「相合傘……?」
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