センパイ!買わせてください!

空現実

第1話 プロローグ

☆☆☆部室にて


「センパイを……買わせてください!」


「え?」


雨降る梅雨の季節。後輩と放課後の部室で二人きり。彼女が発した突然の一言に戸惑いを隠せなかった。


俺を買うって……こいつは何を考えているのだろうか……


どうしてこうなったのかと疑問に思うだろう。時は少し遡りここはPC部。この学校では部活に入る必要があった。


ここPC部は比較的活動が自由であり、学校外での活動がしたい生徒達に利用されているため幽霊部員がかなり多い。PC部に入るということは事実上帰宅部と変わらない。


俺自身も小遣い稼ぎでバイト生活に明け暮れていたのだが……昨晩。父親が事業に失敗して、多額の借金を背負うことになってしまったのだ。


そして、仲の良かったPC部の後輩である。柴橋真子しばはしまこにそのことを話すと……


「え……先輩もう部活に来なくなるんですか……」


物凄く青ざめた顔をしていた。


柴橋は長く染めてない黒髪で、人と顔を合わせるのが苦手なのか前髪が長く目が見辛い。それと眼鏡をかけている。身体も小柄であり150cmあるかどうか、制服もスカートが一般的な女子みたいに折ることなく膝まであり長めで紺色のベストをしている。


言わばクラスに一人はいる授業中絵を描いているタイプの女だろう。柴橋からの話を聞く限りクラスでも孤立をしている感じだし。


そんな一般的陰キャコミュ障(本人自称)と仲良くなったのは、バイトが休みの日で部活に顔を出した時だった。


部活で孤立しスマホをいじっていた柴橋に声を掛けたことがきっかけだ。柴橋は最初こそあたふたしていたが、ゲームの話をすると趣味が合い、会話が弾んだ。


それからバイトが休みの日は部活に入り浸るようになり、柴橋と会話したりゲームしていた。


「うん。正直バイト生活に明け暮れる日々へと戻りそうなんだ。借金めちゃあるし……新しいバイト探さないとなぁ……」


今後のことを考えると億劫になる。


「……そしたら、私……また部活で孤立します……」


「孤立も何も、この部活ほぼ成立してないだろう。部員数十人いるのに俺と柴橋しかいないんだ。たまに他のやつもいるときあるけど」


「そうですけど……ほ、ほら……」


何か言葉を探しているが……


「引き留めようとしてくれるのはありがたいけど、もしかしたら学校辞める必要もあるかもしれないし」


「せ、先輩……」


「今まで会話に付き合ってくれてありがとな柴橋」


「こ、こちらこそ、先輩が声をかけてくれなかったら。本当に孤立していました。こんな陰キャボッチ女に話しかけてくれる人なんて先輩ぐらいでしたので」


とりあえず、もう部活には出られないと柴橋に告げたので、帰ろうとする。


「あ、あの。先輩! ちょっと待ってください」


そこでもう一度柴橋に呼び止められる。


「どうしたんだ?」


「バ、バイト……探しているんですよね?」


「そうだけど、なにかいいバイト知っているの」


言っちゃ悪いけど、柴橋がバイトをしているとは思えない。そんな彼女がバイト先を知っているとは考えられないが……


「は、はい。多分普通のバイトよりも高収入です……」


少し嫌な予感がした。


「おい、待て。まさか……法律に触れる奴とかか? だとしたら今すぐやめろ柴橋。早まるな!」


最近SNSとかでも募集していると聞くが……どうなのだろうか。まず柴橋がやっていたらすぐにやめさせよう。


「ち、違います。そういう怪しいものを運んだりとか、他人に迷惑の掛かるバイトじゃないです!」


「でも高収入ってそういう仕事じゃないのか?」


「個人的なバイトですから……怪しかったりしないです」


個人的なバイトの方が怪しいだろうに……


「えっと……その……」


「柴橋……? そんなに言いづらいバイトなのか?」


なぜか、柴橋はもじもじしだした。そして覚悟が決まり俺の顔を見る。


「センパイを……買わせてください!」


「え?」


そして今に至るのであった。


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