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「…このように、我が国は大陸の沿岸部にあり、隣接各国のみならず、海の向こうの様々な国とも交流があります。このクラスにも、他の国からやってきたお友達がたくさん居ますね。学園生活の中で、いろんなお友達と仲良くなって、多様な価値観を育む事も、大事なお勉強です。みんな、大いに学園生活を楽しんでくださいね。」そういうと、貼られた世界地図の前で、担任のブルーム先生はにっこりと微笑んだ。

ブルーム先生は若い女性で栗色のやや癖がある髪を顎より少し下のラインでカットしており、一見、地味な印象だが、ちょっとしたところに上品な仕草が見え隠れするところをみると、貴族の生まれなのかもしれない。

「これから、ここでお勉強をするのだわ。」木材を基調とした教室は何だか落ち着くほっこりとした雰囲気だ。教室に入った時は緊張で足取りもおぼつかなかったレイだが、この教室の柔らかで温かい雰囲気と、優しそうな担任教諭の様子に、すっかり解されたようだった。

「お家に帰ったら、ご家族にさっきのお手紙を必ず渡してください。今日はこれでおしまいです。終わりのご挨拶をしますよ。明日からは始まりのご挨拶も、終わりも、日直さんがやりますが、今日は最初のご挨拶の時と同じように先生がお手本を兼ねてやりますから、よく覚えてくださいね。はいそれでは立ってください。起立!」小さな生徒達はバラバラとそれぞれのタイミングで椅子から立ち上がった。これから毎日、同じ動作を繰り返していくことで次第にその動作は揃って行く。その過程を見るのも楽しいが、今の、生まれたてのヒナのようなあどけない仕草も、この時期だけのもので、貴重だと、ブルームは思う。

「礼!」

「ありがとうございましたっ!」

少しずつずれていて、大きな声で力いっぱい叫ぶように挨拶する子、間違えないようにと気をつけているのか緊張で声が震えている子、何も考えて無さそうなただ明るい声で元気よく挨拶する子、様々な声が、教室から春の校庭へと響いた。

「ありがとうございまちッ!てぁ!」盛大に噛んだ声がひときわ目立った。レイだ。

「う~ッ!恥ずかしいです。」顔を真っ赤にしながらカバンに、先ほど配られたプリントやお手紙などをしまっていると、くすくすと、ちょっと年の割に大人びた笑い声が後ろから聞こえた。レインだった。

「うふふ。大丈夫よ。」とレインはすでに帰り支度が整ったのか、鞄を背中に背負っている。

「あ…ありがとう。レイン。」レイはもじもじとしながら、レインに切り出した。

「レイン…、その…、明日から…。よろしくです。」と恥ずかしそうに手を差し出すと、レインもその手を握った。

「ええ。よろしくね。」

「では、お父様とお母様が待っておりますから、先に行きますね。また明日!」と、先ほどまでの落ち込みはどこに行ったのか、元気な様子でレイは教室を飛び出していった。

「ええ…。また明日。明日があればね。」と、レインは去っていくレイの後姿を見ながら思う。

「あんた、柄にもなく友達なんて作るつもり?」

「やめとけやめとけ。時間の無駄だ」

「いや、ああいうお人良しは上手く使えるぞ。確保しとけ。」

「邪魔になったり、飽きたら始末しちゃえばいいんだしね。」

「…そうね。それもアリね。」

カバンの底にはブロンドのウィッグが息を潜めていた。





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