最近の車ってすげえな

鍵をさすところがない！ クランクで回すのか！？

　車を買いに中古車屋に来た。

　ネットで見つけた良さそうな車に一目惚れ。早速店に連絡し、頭金を握っていけしゃあしゃあとやってきたのだ。

　是非運転席に座ってみてくれ、エンジンもかけてみてくれ、とスタッフに促されるまま、シートに腰掛けた。

　さて、鍵をさしてセルを……と、その前に鍵はまだスタッフが持っていた。

　だが「鍵です」と渡されたものは、鍵と言うには鍵らしくない。なんか南京錠マークの押釦が２つついただけの、頼りないプラスチックの物体にしか見えない。

　金属のあのギザギザしたものが一切見当たらない。

　まじまじと見ていると、これみよがしにレバー的なのがあり、それを引いたら、プラスチックの物体から鍵を抜き出すことに成功した。全く、なんという設計をしているのか。セルを回すために逐一この動作が必要になるのか。

「あれ」

　だが次は、鍵をさす場所がない。普通、ハンドルの右下辺りに有るはずなんだが。かと言って左下にもない。一体どうすれば。

「あの、これ、どうやってセル回すんですか」

　まさかクランクで回すなんてこともあるまい。1940年代の戦車じゃないんだから。

　もしかして、圧縮エアーで直押しするやつか。舶用ディーゼルでもないし、ありえない。

「プッシュスタートですよ」

　プッシュスタート？

　プッシュ＝押す

　え、押しがけ？

　7年落ちの車とはいえ、まさか、いやそんな、現代の、しかも車で押しがけだと？　バイクのバッテリー切れのときの最終手段だろう、それは。

「左の方にエンジンスタートのスイッチがありますでしょう？　それを強く押してください」

　確かに、インパネのところにエンジンスタート/ストップのスイッチがある。

　え、これを押すだけでいいの？　本当に？

『ピ、キュキュキュドゥルン──』

　おお、本当にエンジンかかった。すげえ。技術の進歩ってすごい。

　え、いや、でもまって、セキュリティどうなってるんだこれ。ボタン押しただけでかかるなんて、盗み放題じゃないか。

「大丈夫ですよ。鍵が近くにないとかからない仕組みになっているんです」

　プラスチックの物体を見る。

　完成車メーカーのロゴと、押し釦がついているだけの頼りない塊。

　最近の車ってすごいな……。