第18話 【過去】恋のキューピット作戦~夏祭り(中編)

俺は千夏に言われた事を、文弘に伝えた。

文弘もそれでいったんは落ち着いたようだ。

その後しばらくは文弘と真理恵の二人だけで会うのではなく、俺と千夏が一緒にいる事にした。

これは真理恵の希望だ。

まだ二人きりにはなりたくないと、千夏を通じて聞かされていた。


そうして二か月が過ぎ、夏休みになる。

その頃には真理恵も文弘と二人で会っても、普通に話せるようになっていた。


そうして8月に入って最初の土曜日。

この日は俺たちの地区での夏祭りと花火大会がある。

その一週間前、夏休みに入って早々に、俺は文弘からの相談を受けたのだ。


「俺さ、真理恵にもう一度告白しようと思う」


文弘が真剣な表情でそう言った。


「本当か?」


俺は思わずそう確認する。

だってフラれてから、まだ二か月ちょっとしか経っていないのだ。

確かに最近の真理恵は、文弘と二人でも抵抗が無くなっていると聞いている。

だがせっかくここまで持ち直した関係を、二度目の告白でまた壊してしまう結果にならないだろうか?


「文弘の中では……勝ち目はあるのか?」


俺の質問に文弘は自信なさそうに首を左右に振った。


「いや、全くない。おそらく今回もフラれそうな気がする」


「だったら何で?」


文弘が強い意志を込めた目で俺を見た。


「真理恵を他のヤツに取られたくないからだ。黙っていたら、俺はお友達ポジションで固定してしまうだろ。そうなる前に告白するんだ。『俺は真理恵を女の子として好きだ』って知ってもらうために!」


『お友達ポジションで固定してしまう』


その言葉は俺の胸にグサリと突き刺さった。


「真理恵は、他の誰かに言い寄られているのか?」


俺がそう聞くと、文弘は今度も首を左右に振った。


「いや、そういう訳じゃないんだ。だけど真理恵って凄くいい娘だろ。放って置いたら、必ず誰かが近づいて来る。だからその前に俺は告白するんだ。何度でも!」


文弘は「何度でも!」という所を強調して言った。

文弘は頑固だ。

一度こうと決めたら、少々の事ではまず考えを変えない。

それならば俺が言う事は一つだ。


「わかった。俺も応援するよ。俺に出来る事なんて何もないかもしれないけど」


「ありがとう、陽人」


俺はこんな風に力強く言える文弘が、心底から「羨ましい」と思った。



その話はさっそく千夏にした。

千夏も考えるような顔をする。


「確かに最近の真理恵の様子を見ていると、文弘に対するアレルギーみたいなものは無くなったと思うけど……でも告白が成功するかは微妙だなぁ」


「真理恵は文弘の何が気に入らないんだ? 文弘ぐらいイイ奴って、そんなにいないぞ」


俺の口調に不満が混じっているのを感じたのだろう。

千夏が困ったような顔で俺を見る。


「前にも言ったけど、LIKEの好きとLOVEの好きは違うんだって。性格のいい人が必ずしもモテる訳じゃないでしょ。その証拠にヤンキーやホストに入れ込んでいる女性だって、少なからずいるじゃない」


「じゃあ真理恵はそういう悪い系の男が好きだって事か?」


「そんな事は言ってない。むしろ真理恵はそういう人を嫌っているよ。だけど、何て言ったらいいのかな……真理恵って軽く男性恐怖症みたいな所はあるかもしれない」


「男性恐怖症?」


「恐怖症までは言い過ぎなんだけど、男性に対する警戒心が強いって言うか……真理恵の親って異性関係にけっこう厳しいみたいなんだよね。その影響じゃないかな?」


「それじゃあ、今度も文弘の告白は失敗するって事だよな」


千夏が額に人差し指を当てて目を閉じ、考える仕草をする。

しばらく経って口を開いた。


「仕方がない。少しアタシたちが手助けしようか?」


「手助け? どんな?」


「八月に入って最初の土曜日に、この地区での夏祭りがあるでしょ。その時に一緒に花火大会も開催される。その時に文弘が真理恵に告白するようにするの」


「花火大会で告白ねぇ。なんかベタだな」


そんな事で成功するなら、誰も苦労しないと思うが。


「ベタでいいんだよ。女の子はそういう非日常的な雰囲気が好きなんだから。特に真理恵みたいな夢見る乙女な娘はね」


「千夏は例外って訳か?」


千夏が軽く俺の足にケリを入れて来る。


「いってーな。本当の事だろ?」


「そこでアタシを引き合いに出す必要ってあるの? アタシの作戦に不満なら陽人が何か考えなよ!」


俺にそんな女の子を墜とす策なんてある訳ない。

あるならとっくに使っている。


「悪かった。千夏様の仰せの通りにいたします」


「ん、もう!」


千夏は不満そうに鼻を鳴らす。


「それで人が来ないけど、花火が良く見える場所があったでしょ。川の反対側の城跡の展望台とか」


千夏が言う場所はすぐに判った。

二年前の夏、俺たちはその場所で一緒に花火を見たからだ。


「ああ、中三の時、二人で見つけたあの場所か?」


「そう。あそこなら他に人もいないし、雰囲気も告白するにはちょうどいいと思うの」


「そうだな。そんなに遠くないし、舞台設定としては十分だろ」


「じゃあ陽人は文弘にこの話をしておいて。アタシは真理恵に『花火大会の時に、そこで二人で花火を見ると幸せになれる』って吹き込んでおくから」


「そんなジンクス、あったのか?」


そう聞いた俺を千夏がジト目で見た。


「ある訳ないじゃん。アタシがいま作ったんだから」


「デタラメか?」


「それでもいいの! 真理恵みたいな女の子は、そういうのが好きって言うか、ジンクスみたいなものに弱いんだから」


「ある意味、それもチョロイな」


俺が苦笑すると、千夏は不満そうな様子で俺に念押しした。


「ともかく、それも含めて陽人は文弘に言っておいてよね! そこで話の辻褄が合わなくなったら台無しなんだから!」



俺が文弘に千夏の計画を話すと、文弘は想像以上に喜んでいた。


「ありがとう! ありがとう! 持つべきものは友達だな!」


そう言っての俺の手まで握って来る。


「お、おう」


その勢いに俺は若干引き気味だ。


「もし俺が真理恵と付き合えたら、陽人にも千夏にも、必ずお礼をするかさ!」


興奮してそういう文弘に、俺は苦笑いしながら「せめてコイツにくらいは、上手くいって欲しい」と思っていた。


そんな訳で夏祭りの日。

俺たち四人はお祭り会場で待ち合わせをした。

最初に待合せに来ていたのはやはり文弘だった。

俺はその次に到着したのだが、文弘が浴衣を着ているのには驚いた。


「わざわざ浴衣か? 気合が入ってるな」


文弘は渋い色の男物の浴衣を広げて見せた。


「爺さんがこれを着ていけって言ったんだ。なんでも婆さんを射止めた時の記念の品だってさ」


「それはまたずいぶんと年代物だな」


「でもモノは確かにいいし、縁起がいいだろ?」


「まあな」


そんな話をしていると、千夏と真理恵がやって来た。



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この続きは今日の夜18時過ぎに公開します。

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