第17話 【過去】恋のキューピット作戦~夏祭り(前編)

その後は色々な事件が続いた。

まず文弘の真理恵への気持ちが猛然と高まっていた事だ。

俺と二人の時は、ほとんど真理恵の話しかしない。


「いや、ホンット、真理恵ちゃんって可愛いよなぁ。気遣いできるし優しいし……俺の理想の女の子だよ」


「そうだな。彼女は本当にイイ娘だと思うよ」


俺がそう合わせただけで、文弘は心配そうな顔で俺を見た。


「まさかハル……オマエまで真理恵ちゃんが好きになったんじゃないだろうな?」


「それは話が飛躍し過ぎだ。オマエに合わせてそう言っただけだろうが。彼女が感じがいいのは事実だし」


「それならば良かった。いや、千夏があんまりハルに振り向いてくれないから、真理恵ちゃんに乗り換える気かと思った」


「……殴るぞ」


「いや、ゴメン! 悪かった。マジで怒るなって。ジョークだよ、ジョーク!」



そしてこの話をした数日後には、文弘は真理恵に最初の告白をしたそうだ。

しかし真理恵の返事は……


「ごめんなさい。文弘くんはとってもイイ人だと思うけど……私は誰かと付き合うとか、そういう気は全然ないの」


と即答でフラれてしまったらしい。

そして文弘はその足で俺の家に直行してきた。


「ハルぅ~、俺の何が悪かったんだぁ~!」


文弘は半泣きになりながら、俺の部屋でそう喚いた。


「別に文弘が悪かったっていうんじゃなさそうだが……真理恵ちゃんだって『文弘はイイ人だ』って言っていたんだろ?」


「じゃあ、なんで俺はフラれたんだよぉ~」


「イイ人と恋人になる人は違う、って事じゃないか?」


「そんなのあんまりだろぉ。真理恵ちゃんが今まで俺に向けてくれていた笑顔は何だったんだぁ~」


「ただの友達にだって、笑顔くらいは向けるだろ」


さんざん文弘は泣き言を言った上で、まるで全てを失ったかのように呟いた。


「俺はこの先、真理恵ちゃんが誰かの物になるのを、じっと指をくわえて見ているしかないのか……」


「そう考えるのはまだ早いんじゃないか? たかが一回フラれただけじゃないか」


「一回フラれたって事は、この先もフラれる可能性が高いって事だろ。少なくとも俺は今の時点で『恋人としては対象外』って言われたんだから」


「それは……まぁそうなるのかな?」


「ハルだってフラれるがの怖くて、何年も告白できないでいるんだろうが」


「俺は話は今は関係ないだろ! 俺はな、今のままの関係がいいんだよ!」


「あ~、そうなのかぁ。俺も真理恵ちゃんと仲良く話せるだけの関係で、満足していれば良かったのかなぁ。もし明日から、彼女に避けられていたら、俺はどうしたらいいんだ……」


最初は俺も同情していたが、二時間もこんな泣き言を続けられたら流石にウザさの方が勝ってくる。


「わかった。俺から千夏に頼んで『真理恵ちゃんが文弘をなぜフッたのか。友達として会うのはどうか?』って聞いてもらうよ」


俺がそう言うと文弘は


「頼むよ。だけどそれで『友達としても会うのは嫌だ』って言われたら……俺、死ぬかもしれない」


と本当に落胆したように言う。


「バカなことを言ってんな!」


だがその時に俺にはまだ、失恋の本当の辛さが分かってなかったのかもしれない。



翌日、早速千夏に文弘と真理恵の事を相談してみた。

千夏も難しそうな顔をする。


「真理恵はそんな軽い娘じゃないからね。一回キャンプに行ったくらいじゃ告白されたからって、付き合う気にはならないだろうね」


「じゃあゴールデン・ウィークのキャンプも無駄だって事か?」


「無駄だとは思わないよ。あれで二人の距離は確実に縮まったんだから」


「でもこれで真理恵が文弘を避けるようになったら……結局は逆効果だったんじゃないか?」


「う~ん、でもそれは文弘が急ぎ過ぎた事に原因があると思うから……ともかくアタシから真理恵に聞いてみるよ」


「頼む。聞いた話はまず俺に教えてくれ。俺から文弘に伝えるから」


「わかった」


その話を千夏としたのは学校の帰りだった。

そしてその日の夜、千夏が直接俺の家を訪ねて来た。


「どうしたんだ、こんな時間に?」


俺が驚いて尋ねると


「出来るだけ早く話した方がいいかなと思って。いまちょっと外に出られる?」


千夏がそう言うので、俺も外に出た。

家の周囲は田んぼと草原しかない。

俺たちは人目を気にしないで話す事ができた。

二人で近くの土手に座って話をする。


「真理恵に電話して聞いてみたらね、文弘の事は嫌いじゃないって。むしろどっちかと言えば好きだと思うって言ってた」


「それならなんで真理恵は文弘の告白を断ったんだ?」


「一つは突然告白されて、ちょっと怖かったんだって。真理恵は今まで誰とも付き合った事がなかったそうだから」


(怖いって……そうなのか?)


俺は一瞬疑問に感じたが、すぐに「女の子の立場ならそうかもしれない」と思い直した。


「一つって事は、他にもあるのか?」


「それは真理恵本人が文弘に言った通りだよ。『今は誰とも付き合う気はない』って」


「好きなのに付き合う気はないか……なんか文弘の気持ちを弄んでいるみたいで嫌だな」


すると千夏が鋭い目で俺を見た。


「女の子にとってはLIKEの好きとLOVEの好きでは、大きく意味が違うんだよ。それは弄んでいる訳じゃないし、そこを無視して強引に迫られても困るとしか言えないよ」


(LIKEの好きとLOVEの好きは違う)


俺は改めて千夏を見つめた。

千夏にとってもそうなのだろうか?

俺には友達としてLIKEの好きでしかなく、LOVEの好きにはならないと言う事なのか?


(俺が千夏に告白しても、千夏にとっては困るだけって、そういう事なのか?)


「どうしたの? アタシの事をじっと見て?」


千夏にそう言われて、自分の考えに入り込んでしまっていた事に気づく。


「いや、別に。それで文弘はどうすればいいんだ?」


「真理恵は今まで通り、友達として仲良くしたいって」


「友達として、か」


それが苦しい事であるのは、俺自身よく知っている。

ある意味、生殺しの状態だ。

だからと言って、ここでスッパリと切り捨てられるのも、文弘にとっては辛いだろう。


「そう。だからしばらくはあまり真理恵にしつこくしないで、二人の関係を大切にした方がいいんじゃないかな?」


「そうだな。文弘にはそう伝えておくよ。とりあえず真理恵に避けられないで済むんだから、アイツも納得するだろう」


千夏が立ち上がった。


「じゃ、アタシの話はこれで終わりだから」


そう言って立ち去ろうとする千夏の腕を、思わず俺は掴んでいた。


「なに?」


千夏が不思議そうな顔で俺を振り返る。


(まだ、一緒にいたい……)


俺の中のそんな思いが、無意識に彼女の腕を掴んでいたのだ。


「あ、いや、暗いからさ。一人で大丈夫かと思って」


「暗いって、この辺じゃ出て来るのはタヌキくらいしかいないでしょ。心配しなくても大丈夫だよ、いつもの事だし」


そう言って千夏は笑った。

その笑顔を見て俺は改めて感じた。


(やっぱり千夏にとって、俺は友達でしかないんだな。LIKE限定者か)


「そうだな。でも気を付けて帰れよ」


「うん、ありがと。それじゃあ、また明日ね」


「ああ、また明日」


千夏は手を振ると、元気よく駆け出していった。

俺はそんな彼女の姿が見えなくなるまで、そこに立ち尽くしていた。



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この続きは今日正午過ぎに公開します。

今日は以下の時間で3話公開します。

 朝7:40、正午過ぎ、夜18時過ぎ

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