第12話 【現在】結婚披露宴、そして二次会で(中編)

披露宴も同じホテルで行われる。

男側のテーブルには中学・高校で一緒だった連中が八人ほど。

女性側にも同数の同級生がいたので、全部で16人が披露宴に参加した事になる。

披露宴には両家の親戚や会社関係の人が多く出席しているので、さすがにバカ騒ぎは出来ない。


その代わりに同じホテルで予定している二次会の方は、けっこうはっちゃけていた。

二次会には親戚などは来ない分、友達関連の参加が多い。

披露宴には参加できなかった中高の同級生が、さらに20人近く参加している。

そこでも十年ぶりに顔を合わせるヤツが多いため、俺は珍獣扱いだ。


「お、陽人だ! 珍しいな」

「マジ陽人じゃん。久しぶりすぎだろ、オマエ!」

「あんまり見なかったから死んだかと思ったぞ!」

「東京でハジけてんのか? この野郎」

「たまには帰ってこいよ。ふるさとを忘れてんじゃねーぞ!」


久しぶりの再会にも関わらず、口が悪いヤツが多い。

特に小学校から一緒だったヤツは遠慮がない事この上ない。

俺は苦笑しながら


「悪い悪い、別に忘れていた訳じゃないさ。毎日がけっこう忙しくてさ。数年前から親もコッチの家にはいないし、中々来る機会がなかったんだよ」


と答えていた。


「陽人は結婚したのか?」


そう聞いて来たのは小中高が一緒の佐藤隆だ。


「いや、独身。その予定もないよ」


「そっかー、良かった~。今日も独身同盟から裏切者が一人出てるからな。陽人がコッチ側で嬉しいよ」


「そんな所で喜ばれてもな。みんなそんなに結婚してるのか?」


すると佐藤隆は女子の方を見ながら答えた。


「男は半々って所かな。農家一本でやっている所は、やっぱり難しいよ。逆に自分ところで会社持っている家は、けっこう結婚しているヤツも多いな」


「最近は農業が夢だって言っている女子も多いって聞くけどな」


「そりゃ都会だけだろ。この辺でリアルに農家の実態を知っている女は、やっぱり農家には嫁ぎたがらないよ。実際に結婚した女のお相手は、ほとんどが役所か農協か会社勤めだ」


「いまどき専業農家ってのも少ないだろうけどな。女子はどのくらい結婚してるんだ?」


「三分の二か、四分の三って所だろ。都会に行ったヤツラは知らんけど」


するとそこに同じく中高が一緒だった西川が会話に入って来た。


「だったら佐藤、この機会に女子に声かけて来いよ。結婚式の二次会は出会いのチャンスだぜ」


「そう思っていたんだけどさ、なんかガッツいてるっぽくないか?」


「実際ガッツいてるんだろ、佐藤」


「いやいや、それに今いる女子って、俺の苦手なタイプばっかだし」


「高校時代にオマエが気に入っていた、宗像千夏とかいるんじゃないか? 披露宴にはいたよな?」


千夏の名前が出たので、俺は微妙に反応してしまう。

千夏は誰とでも分け隔てなく話すので、男子には確かに人気があったのだ。


「でも千夏はアレだろ。もう関先生の手が着いちゃってるしさ」


そう言った佐藤に西川が笑った。


「さすがに関の使い古しじゃ嫌ってか?」


「同じ中古車でも知ってる人間の後って言うのは、ちょっと考えるよな~。近所の目もあるし」


「あの二人、高校出てすぐに結婚して、離婚したのが25歳の時だからな。子供くらいいるんじゃねーか?」


「あ~、ありうるかもな。子供はどっかに預けて、千夏だけこっちに戻ってきているとか」


「千夏自身、母子家庭で父親は分からないんだろ? 十分ありそうじゃね?」


俺は何となく気分が悪くなり「悪い、ちょっとトイレ」と言ってその場を離れた。

トイレで顔を洗いながら、先ほどの佐藤と西川の会話を思い出した。


(千夏と関先生の話は、けっこう広まっているんだな。この人間関係が狭い地域では、当然と言えば当然か……)


そんな環境の中に千夏はいると考えると、俺は胸が苦しくなるような気がした。


会場に戻った所で千夏の姿を探す。

だが彼女は見当たらなかった。


(昨日、二次会には参加しないって言っていたもんな)


千夏がいた所でどうしようという事もないのだが、何となく物足りないような感じがした。


(さて、これからどうするか)


さっきのテーブルに戻れば、また佐藤や西川の会話の中で、千夏の話題が出て来るかもしれない。

千夏があんな言われ方をするのは聞きたくない。


(と言ってこれで黙って帰るのも、文弘に悪いしなぁ)


「陽人くん」


そう声をかけられたので振り向くと山本良美だった。


「良美か」


「どうしたの、こんな壁際で一人で立っていて」


「いまトイレから戻った所なんだ」


「そう? しばらくそこでみんなを眺めていたみたいだけど?」


(俺の事を見ていたのか)


そう思った俺は、微妙に話題を逸らす。


「二次会に来ているのは同級生が多いんだなって思って。まるで同窓会だ」


「地元の同級生同士が結婚したんだもん。そんなものよ。それに田舎ではこういう場が結婚相手を見つけるチャンスだしね。親もハッパかけてるんじゃない?」


「さっき同じ事を佐藤と西川が話していたよ。女子はけっこう結婚済なんだって?」


「田舎って結婚が早い人は早いのよね。まぁ千夏みたいなのは例外だと思うけど」


俺が黙っていると、良美は話を続けた。


「彼女は高校を卒業してすぐに結婚したものね。既に在学中に関先生と付き合っていたし。朝から先生の車で一緒に学校に来るのを、何人もが見てるわ」


俺は無表情を装っていたが、一瞬だけ頬の筋肉が動いたような気がした。

そう、俺も見たのだ。

朝の学校に行く途中、関先生の車に乗っている千夏の姿を。


「中学時代の千夏からは考えられなかったわね。確かに関先生は若くてイケメンだったけど」


俺たちの高校に数学の講師として来ていた関先生は、本来は大学の博士課程を卒業した、いわゆるポスドクというヤツだった。

その年は研究室での雇用がなかったらしく、暫定で一年半、俺たちの高校の数学臨時教師として来ていたのだった。


関智樹は、物静かで長身のイケメンだった。

物憂い気な雰囲気があり、多くの女生徒から「少女マンガのキャラみたい」とかなりの人気があった。

あまりスポーツは得意ではないらしく、俺たちが休み時間にバレーやサッカーに誘うと「僕はいいよ」と言っていつも静かに本を読んでいる事が多かった。

話し方はおっとりとしていて、少しはにかむように笑う、そんな所も女生徒からの人気がある理由の一つだったのだろう。


だがあの千夏が、そんな『昔の少女マンガに出て来るような文学青年』に心を惹かれるとは、夢にも思わなかった。



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この続きは、今日夕方5時半頃に公開予定です。

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