第11話 【現在】結婚披露宴、そして二次会で(前編)

文弘と真理恵の結婚式当日。

文弘は気を使って、わざわざ俺の家までタクシーを手配してくれた。

結婚式を行うI市のホテルまではかなり距離があるので、有難く使わせてもらう。

ホテルに入ると、高校時代の同級生の多くが集まっていた。

男女とも結婚しているのは半分くらいだろうか?

最近は田舎でも結婚するのが遅くなってきている。


「お、陽人だ」

「ホント、陽人だ」

「珍しいな、コッチに帰って来るなんて」

「久しぶりだな。元気にしてたか?」


高校時代の仲間が次々に声を掛けてくれる。

俺は地元での同窓会には一度も出ていないが、こういう昔の友達との交流も悪くないと思う。

だがそんな中でも、俺は無意識に千夏の姿を探していた。

しかし見当たらない。


(真理恵の結婚式なんだ。必ず来ているはずなんだが……)


そう思った時、会場に居た一人の女性と目が合った。

ワインレッドのカクテルドレスを着ていて、この田舎には珍しい都会的な雰囲気を漂わせている。

黒髪ストレートの美人だが、ちょっと冷たいと言うか気が強そうな感じがする。

彼女は俺に気が付くと、まっすぐに近づいてきた。


「お久しぶり、陽人くん。元気だった?」


「あ、ああ」


(誰だっけ?)


それが本音だ。

どうにも彼女は記憶にない。

俺は実は、女子はあんまり覚えていないのだ。


「その顔つきは忘れちゃったみたいね」


彼女は妖艶さを感じさせる笑みを浮かべた。


「私よ、山本良美。小学校から同じクラスだった……」


俺は自分の目を疑った。


「え、君が良美? 本当に?」


思わずそんな言葉を口にしてしまう。

何しろ昔の良美はメガネを掛けて三つ編みにしている、マンガに出て来るような典型的な田舎の優等生女子って感じだったからだ。

確かに目鼻立ちはハッキリしていたが、それが余計に真面目でキツイ印象を与えていたと思う。


「私、そんなに変わったかしら?」


彼女は自分の肩にかかる髪を振り払うような仕草をした。

その仕草も色気を感じさせる。


「ああ、ずいぶんキレイになったなって。正直、驚いたよ」


「あら、嬉しい事を言ってくれるわね」


良美は「フフ」と含み笑いをした。


「陽人くんは今どうしてるの? 東京の大学を出てそのまま就職したって聞いたけど」


「大学が東京だと、どうしても就活は東京中心になるからね」


「仕事は何をしているのかしら?」


「電子部品の商社に勤めている。と言ってもそんなに大きい会社じゃないけどね。コキ使われてるよ」


「そうなの? 私は大阪で働いているわ。ネットビジネスの立ち上げを手伝っているの」


そう言って彼女はスマホを取り出した。


「良かったら連絡先を教えてくれない? 私もちょくちょく東京には行くし、商社なら話を聞きたい事もあるから」


「いいよ」


そう言って俺は良美と連絡先を交換した。


「あ、でも連絡をする前に聞いておかなくっちゃね」


良美がスマホを口元に当てて、考えるような仕草をした。


「なにを?」


「陽人くんが結婚してるかどうかって事。奥さんがいる所に、突然私から連絡があったら家庭不和の元でしょ?」


「なんだ、そんな事か」


俺は苦笑した。


「残念ながら独り身だよ。現時点ではその候補者もいないね」


すると彼女も笑みを返した。


「そ、良かった。じゃあ安心して連絡できるわね。ちなみに私も独身だし」


その笑みもどこか蠱惑的な感じだ。

その時、ホテルの従業員から案内があった。


「これより安田家、近藤家の結婚式を開始いたします。ご来場の方々は教会の方にお入りください」


すると良美は「じゃあ、また後でね。陽人くん」と言うと、俺の腕をスルリと撫でるようにして、教会に入って行った。

俺は彼女のあまりの変わりように、しばらく呆然としていた。


近くにいた同級生の男子が言った。


「今の美人、誰だ? あんな娘、俺たちの学校にいたっけ?」


「良美だよ、山本良美。高二の時に副会長だった」


「え、あの美人が山本良美? 学生時代は三つ編みメガネだった? 信じられねぇ~。女って変わるもんだなぁ」


(まったくだ)


俺は心の中で同意していた。


「やけに陽人に親しそうに接触していたじゃん。これはチャンスじゃないか?」


その時、やはり教会に入って行く千夏の姿が目に入った。

彼女は一瞬、俺に視線を向けていたようだが、そのまま何も言わずに式場の扉をくぐっていった。



教会での式が終わり、文弘と真理恵が出てきた所で、招待客からのフラワーシャワーとライスシャワーが二人を包む。

天気も良く、絶好の結婚式日和と言えるだろう。

真理恵の両肩が露わになったAラインのウェイディンスドレスは良く似合っていたが、文弘の白いタキシードはまるで宴会芸の衣装のようだ。


「白のタキシードが似合わないな、アイツ」


俺の背後で同級生の誰かも、そう言っていた。


だが輝くような笑顔の真理恵と、緊張しつつも嬉しそうな文弘は、傍から見ていても本当に幸せそうだった。

二人にはこの先もずっと幸せでいて欲しいと、心から願う。


真理恵が一段高くなった所から、手にしていたブーケを投げた。

ブーケトスだ。

ブーケは弧を描いて思いのほか遠くまで飛んだ。

女子たちが歓声を上げて手を伸ばした。


しかしそのブーケが収まったのは……

千夏の手の中だった。

まるで最初から決まっていたように、ストンという感じで千夏の手に落ちたのだ。

本人もビックリしたような顔をしている。

どうやら取ろうとして取った訳ではないのだろう。


しかし千夏はすぐに笑顔になって、ブーケを顔のそばに持ち上げて言った。


「アハッ、もしかしてセカンド・チャンスの到来ってか?」


だがそれを見ていた同級生の目は、どこかしらけた感じが漂っていた。



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この続きは、今日正午過ぎに公開予定です。

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