「異世界食堂の食品偽装問題についての私見」

『むらさき』

「異世界食堂の食品偽装問題についての私見」

 まずは、昨今話題になっている「異世界食堂」について書こう。この「異世界食堂」とは、我々の世界と別の世界の料理が食べられる食堂である。


 いまでは、全世界に展開(チェーン展開というらしい)されて、店主はその世界の者だったり、我々の世界の者であったり、多様である。


 この「異世界食堂」の料理は我々の食の基準からするとかなり美味しい。まさに「別次元」の料理が出てくる。私自身、友人の紹介でこの料理を食べたことがあるが、あまりの旨さに度肝を抜かれてしまった。


 最初のうちは物珍しさと価格の安さ、人知れず営業されている場所から「知る人ぞ知る隠れ家」のような存在であった。実際、私が食べた一号店は途轍もない安さだった。


 しかし、一号店の出店から十数年後、「異世界食堂」で学んだ料理人の二号店から雲行きが怪しくなってくる。二号店は料理の目新しさはそのままに、異世界の食材を使った料理が出てくる。


 ・ゴブリンの丸焼き

 ・サラマンダーのお刺身


 今までの珍しい料理ではない。我々の世界の希少な食材を使った料理に様々な美食家がこの二号店を絶賛した。特に有名なのはあの「ドラゴンラーメン」である。ドラゴンを余すことなく使ったその料理に、各国の王は勲章である「星」を献上した。


 そして、生まれたのが「5つ星のドラゴンラーメン」である。このときからである。価格の吊り上げは。食材の調達費が高いから、価格の吊り上げを行ったとのことだが、ある情報筋では「店主が業者から個人的に見返り(キックバックというらしい)をもらっていたのではないか」という噂があった。

 このキックバックについてだが、そもそも「異世界の希少な食材」を使う意味はなかったというのが余計に、この噂に真実味を持たせている。まあ、この黒い話については本稿で書くことは控えをさせていただこう。


 話を戻して、この「ドラゴンラーメン」が売れ筋になった「異世界食堂」だが、この5つ星を皮切りに色々なところで「異世界食堂」が増えていった。さらに、この「ドラゴンラーメン」だけを専門に扱った「ドラゴンラーメン系」なるラーメン屋が出てきた。


 頭に布を巻いて腕を組んだ店主たちの姿に人々は興奮した。そして、いろいろなアレンジ「ドラゴンラーメン」が生まれた。


 しかし。みなさんが知っているであろう。「異世界食堂の元オーナーの告白」という記事である。


「今のドラゴンラーメンはゴブリン肉(店によってはオーク)とオークの背アブラを使ったまがい物」


 この記事を発端に「異世界食堂」ギルド(現「異世界食堂」グループ)は大規模な食品偽装を行っていることが分かった。私もこの2つを食べたが、たしかに、この「ドラゴンラーメン」とニセ・「ドラゴンラーメン」は味自体大して変わりがなかった。


 そもそも、ドラゴン肉自体希少性もあって、本当に食した人間は王侯貴族だけである。庶民に違いなど分かるわけはないのだろう。さらに、このドラゴンラーメンは、スープも野菜や乾燥した魚など肉以外のうま味が味の決め手なので、肉自体あまり意味をなさないのだろう。


 たれで煮込んだ添え物の肉(チャーシュー)も多少ドラゴンのほうが噛み応えがあったが、ゴブリン肉と大して違いはなかった。これは、単純に精肉加工技術や煮込み技術の勝利かもしれないとしておこう。さて、この「ゴブリンラーメン」がいつ頃から出されていたものか、現在調査中らしいが、全く、これまでの美食家のコメントすら怪しくなってきた。


 一号店の初代オーナーはもう異世界に帰還したので、現一号店のオーナーにこの件について聞くことにした。


 私「今回のこの件についてですが」


 オーナー「いまや、『異世界食堂』は一号店とその他に分断されています。その他の(フランチャイズ)店の暴走を止められなかったことは十分に悔やんでいます。今一度、フランチャイズ店とこの件について、十分に話していきたいです」


 これ以上は聞けなかった。いまでも、一号店のオーナーは初代オーナーの味を守り続けていた。ただ、現オーナーも高齢で跡継ぎはいないという悲しい状況だった。


 いまや、「異世界食堂」市場は大規模な市場になっている。なんでも、この異世界食堂の料理を本にして出す輩も出始めている。我々の世界を席巻している、この「異世界食堂」だが、私はこの食品偽装は始まりでしかないと思っている。いま、我々は騙されないために、食に対する見識を高めなくてはいけないのだろう。この件で、我々は「ドラゴンラーメン」でなく「美食家や王族が絶賛したラーメン」を食べていたにすぎない。そう思えてならない。



 読者の感想


「異世界食堂」の話題は確かに興味深いですね。食材が本当のものと違うことは、食の安全性や信頼性に影響しますし、特に高価な料理は本物であることを期待されるものです。


「異世界食堂」がフランチャイズチェーン展開していく中で、本来の美味しさや品質を維持することは難しい側面もあるでしょう。しかし、食の安全性や正直さは常に重要です。私たちは食べ物に対する見識を高め、品質を見極めるための知識を持つことが大切ですね。


 ※この話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。


用語解説

出典

食専門のフランチャイズ比較 Food’s Route

「フランチャイズとチェーン店の違いについて徹底解説!どっちを選ぶべき?」

「https://foods-route.jp/content/difference-franchise-chain」より


用語

・チェーン店には、レギュラーチェーン、ボランタリーチェーン、フランチャイズチェーンの3種類がある。

レギュラーチェーンとは、本部が展開するチェーン店のことを指し、「直営店」とも呼ばれます。

フランチャイズチェーンとは、本部と個人や事業者、外部の企業がフランチャイズ契約を結んで展開する形態のチェーン店舗です。

・店舗の名称

・店舗運営に関するノウハウ

などを提供してもらい、それらを活用しながら店舗運営をおこなえるようになっています。

また、フランチャイズ契約を結ぶときには加盟金や保証金を支払わなくてはいけません。

ボランタリーチェーンとは、個々の独立した小売店同士のつながりで作る組織や団体を指します。

ビジネスモデルの仕組みとしてはフランチャイズチェーンと似ていますが、店舗運営を指揮する本部に大きな違いがあります。

フランチャイズは本部と加盟店がフランチャイズ契約を結んで店舗運営をおこないますが、ボランタリーチェーンでは加盟店同士が組織化して本部を作ります。

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