第40話 乂阿戦記1 終章 これは始まりの物語の終わりの闘い-4
そして戦況は一変した。
「……遊びは終わりだ小僧共!」
狙撃班の2人が倒れたことによりナイアルラトホテップは怒り狂い今まで以上のスピードで攻撃を仕掛けてきたのだ!
邪神は少し本気を出し始めた。
雷音達は必死に攻撃を防ごうとするが、あまりにも激しい猛攻に防御するのがやっとの状態にまで追いつめられる。
そんな時だった。
雷音達の前に一人の女が躍り出たのは……。
女は雷音を守るかのように仁王立ちすると両手を広げる。
その女の名は……羅刹!!
だがその表情は弟たちを守ろうとする表情ではない。
兄乂阿烈と同じ闘争歓喜の狂相だ。
「ナイア〜〜猛ってるじゃねーか?猛ってるじゃねーかぁああ?それが本来のお前の力か?グククククク!!兄の酔狂に付き合ってよかったぜぇ〜!15年前ついに見せなかった本気のお前が見れるんだからよ〜!さあ!殺し合おうか!!」
そう言って笑う羅刹に対しナイアは阿烈と同じ背筋の凍る悪寒を感じ取った。
「な、何を言っている乂羅刹?15年前だと!?15年前と言えばお前はまだ生まれてもいないだろ!!」
「グギャギャギャギャギャギャ!!まだわからんか!?私だよ私!!灰色の魔女ラスヴェードだよ!!私もユキルと一緒で今世に輪廻転生を果たしたんだ!!しかも私の魂は私の肉体と分離しても記憶と知識を保持したまま次の人生を過ごしたんだよぉ〜!!」
衝撃的な真実を聞いたナイアルラトホテップは思わず叫ぶ。
「そんな馬鹿な!」
「グギャギャギャギャギャギャ!さあああナイアルラトホテップ!!7罪の魔女の同胞よ!!!いざ殺し愛いを!!!!」
虎の様な獰猛な咆哮を上げながら突進してくる羅刹に対してナイアルラトホテップは驚愕のあまり反応できない。
だが次の瞬間、横から飛び出した者がいた。
それはナイアの側近のピンクサキュバスだった。
彼女は槍を突き出す形で体当たりを仕掛けたのだ。
しかし彼女の渾身の一撃を持ってしてさえも羅刹の動きを止めることはできなかった。
まるで紙切れの様に吹き飛ばされたピンクサキュバスを見てナイアルラトホテップは思った。
(コレは乂阿烈が性転換した化け物も同然だ!!)と……。
だが同時にチャンスでもあった。
なぜなら今の攻撃によって羅刹の動きが一瞬止まったからだ。
その隙を逃すことなくナイアが鉤爪で斬りかかる。
その一撃が当たる直前、再び羅刹の姿が掻き消える。
いや、消えたのではない。
目にも止まらぬ速さで移動したのだ。
「うおあああああ!」
ナイアは次々と攻撃を繰り出すが片手で捌かれ躱される。
ならば強力な攻撃魔法をお見舞いしようと暗黒の呪文を唱える。
「にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! 」
『触魔封陣!』
無数の牙と目を生やした触手が召喚され羅刹に迫る!
「フン!」
ナイア渾身の触手攻撃は羅刹の無造作な右手の一振りでチリ一つ残さず消滅した。
そして次の瞬間には羅刹はナイアルラトホテップの背後に現れていた。
その右手に握られているのは虎模様の大剣。
その刀身からは禍々しい瘴気が溢れ出し、触れただけで全てのものを腐らせるであろうことが容易に想像できた。
「封獣ケルビムべロス斬魔刀形態!」
その剣を見た瞬間、ナイアルラトホテップは全てを理解した。
あの剣を受け止めてはいけないことを……。
だから彼女は全力で回避行動を取ったのだが……遅かった。
既に彼女の胴体は真っ二つになっていたのだから……。
「ぐはっ……!」
口から血を吹き出し倒れ伏すナイアルラトホテップ。
「ふぃ〜〜楽しかったぜえええ〜〜〜」
そう言ってトドメを刺すべく近づいてくる羅刹を見ながらナイアルラトホテップは思うのだった。
(勝てない!今の私では奴に絶対に勝てない!奴は一対一ならあのエクリプスさえも凌駕した7罪最強の魔女!乂家の戦力を見誤った!まさか乂阿烈と同格の怪物がもう1人いただなんて!!…悔しい!でも今は生き延びることを考えなくては!)
「ぎ、銀仮面!助けてくれー!!こいつを止めてくれえー!!!」
叫ぶナイアルラトホテップ。
だが返事は返ってこない。
その代わり気配を感じさせぬ動きで銀仮面はナイアと羅刹の間に割入っていた。
「……………」
「フ……久しぶりだな兄上…いや羅漢。相変わらずそうだ。だが本来ならお前の相手は私ではないんだぞ?」
「……そうだな。だが今の私はドアダの銀仮面だ」
「大武神流楚家拳伝承者として乂家拳伝承者乂阿烈に挑むためか?先代伝承者にして実父である楚項烈の仇討ちのためか?」
「……それもある」
「問おう楚羅漢!ウヌは武の頂きを目指し最強を目指すか?」
「……許せ乂羅刹!この拳は家族を守るためにあるものだった。だがあの日、兄と覚醒した雷音の激闘を見たあの日、自分ならどこまであの偉大な兄と渡り合えるかそればかりが頭に浮かぶのだ!」
そう言うと羅漢は構えを取る。
「わからいでか!世界最強などという曖昧なものが明確な形を持って目の前に存在しているのだ!拳に全てを捧げてきた求道者が挑戦を求めないのがおかしいわ!だが羅漢よ!武の頂きを望むのはお前だけではないとしれ!兄への挑戦権は易々とお前には渡さんぞ?」
右足を前に半身となり左手を軽く前に突き出し右手は後ろに引いている。
両者は円の軌道に添い間合いを取り合う
その動きは中国拳法の『八卦掌』の動きに似ていた。
「大武神流乂家拳乂羅刹参る!」
羅刹の姿が消える。
そして次の瞬間、現れた時にはすでに背後に回っていた。
だがそれすらも予測済みだったのか、羅漢は振り向きざまに裏拳を繰り出した。
その一撃は確かに当たったはずだったがやはり手応えが無いのかそのまま突き進み間合いを詰める。
そしてその勢いのまま肘打ちを喰らわせようとしたのだがまたもや当たる直前に消えてしまう。
その後も羅漢は何度も攻撃を繰り返すが全て空振りに終わりやがて羅刹の動きが止まる。
すると今度は羅刹のほうが攻撃にうった。
今までとは比較にならない速さで動き、まるで分身しているかのように見えるほどのスピードで連続攻撃をする。
それを捌く羅漢だったがさすがに捌ききれず数発くらってしまう。
さらに連続で攻撃を仕掛ける羅刹であったがほとんどは捌かれてしまう。
だがそれでも何発かは当たっていた。
(速い……それにこの技はなんだ!?)
羅漢はその速さと変幻自在の攻撃に舌を巻く思いだった。
羅漢の知る限り大武神流にこんな技はない。
おそらく羅刹の前世、最強の魔女ラスヴェードが使ってた技なのだろう。
羅漢自身が防戦一方になっていることからも、この羅刹という女の強さがうかがえる。
(強い!だが負けん!)
「どうした羅漢?手も足も出ておらんではないか!」
「黙れ!!」
「ではこちらから行くぞ!!」
その言葉と同時にまた姿が消える。
そしていつの間にか背後を取られていた。
「もらったぁーーーっ!!!」
だが背後からの攻撃に対し、なんと羅漢はそれを紙一重で避けたのだ!
しかもそれだけではない!
避ける際に体ごとぶつかり肩と背で攻撃を見舞ったのだ!!
これはまさに中国武術の『靠撃』と呼ばれる技だ!
そしてまともに受けたため、さすがの羅刹も大きく吹き飛ばされる!
だがそれでも倒れることなく踏みとどまり再び構えをとる。
「今のを食らって立っていられる奴など初めて見たぞ」
「ふふふふ、面白いじゃないか」
両者思わず笑みを漏らす。
そして二人の戦いはさらに激しさを増すのだった。
長い黒髪と長い白髪、男と女、かたや拳の真髄を極めんとする求道者、かたや殺人拳使いの軍人
陰陽相対二律背反
同じ大武神流の門派でありながら何もかもが違う両者の激突は美しかった。
正反対の高度な技のぶつかり合いは絶妙に調律のとれた二人演舞の様。
共に美男美女で見てくれがいいから武台も映える。
闘技場のほとんどのものが見惚れるように試合を注視していた。
だがその試合を苦虫を噛み潰した顔で見るものが1人。
2人の兄乂阿烈だ。
「おおおおお!?なんと言うことだ!!羅刹や、なに羅漢と闘っておるのだ?ワシがコッソリ殺せと言ったのはナイアの方だ!羅漢と闘って嫁入り前の大事な顔に傷でもついたらどうするのだぁ!?」
「ブハハハハハ!阿烈、お前と同じ戦闘狂の羅刹が羅漢とやり合える千載一遇のチャンスを逃すわけがないだろ?だが流石はお前が作り上げた最高傑作羅漢だ!羅刹は13歳の小娘の身体ゆえ今は全盛期に及ばぬが、それを差し引いてもあの最強の魔女ラスヴェードと互角に張り合っているとは恐れ入る!だがいいのかよ?羅刹ちゃんがラスヴェードの生まれ変わりだって公衆の面前でばれちまったぜ?」
「ああ、かまわんかまわん。このスラルじゃ7罪の魔女は7界の女神として信仰されている。むしろコレを機に羅刹は灰色の女神だと積極的にアピールして信者をかき集めねばな。何せ正真正銘本物の灰色の女神の生まれ変わりよ」
言って阿烈はニチャ〜といやらしく笑う。
彼はいずれ集まってくる信者たちを使って一体どんな悪巧みを企んでいるのだろうか?
「お前は鵺の正体を公表しないのか?黒の女神の使者暗黒天馬よ?」
阿烈がジャムガの隠された秘密の名前を呼び尋ねる。
「ユエはそれを望んじゃいない。我が姉上は自分が神様に祀りあげられるなんざ真っ平ごめんなのさ。分かるだろ?鉄仮面楚項烈よ…」
ジャムガが阿烈の隠された秘密の名前を呼び答える。
「羅刹ちゃんが自分の前世を思い出したって事は、自分と神羅は本当はお前の娘で羅漢はお前の父乂舜烈の息子だってことはもう知ってるのか?」
「ああ、あの子にだけはきちんと話した」
「一体いつ?」
「この時代のワシらと入れ替わってすぐにさ」
「そうか……まぁいい。俺らは俺らの目的のために動くのみ」
そう言ってジャムガはバトルフィールドの端で休憩している鵺を見た。
その視線は娘を想う親の目に似てた。
彼女らを一目だけ見た後、彼は再び羅漢と羅刹の戦いへと目を向けるのだった。
(そう全ては我らの悲願成就のため……)
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