第39話 乂阿戦記1 終章 これは始まりの物語の終わりの闘い-3

一方蒼の勇者アーレスタロスは黄色の拳法家と戦っていた。


相手は怪鳥の様な奇声を上げ技を繰り出してくる。


対するアーレスタロスも徒手空拳で相対し激しい打撃戦が繰り広げられた。


(…この動き永春拳?いや映画でみたジークンドーの動きに似てるな)


アーレスタロスは冷静に分析しながら戦いを進めてた。


黄色く光る残像を残しながら蒼の勇者に迫る黄色いカンフー着の男。


アーレスタロスはその蹴りを受け流し背後に回るとその背中を掌底で突き飛ばす。


男はよろめきながら着地するもすぐに立ち上がり構えを取る。


アーレスタロスは追撃せず、ただ静かにその男を見つめていた。


その隙だらけの蒼の勇者に対し、再び男が襲いかかる。


アーレスタロスは微動だにしない。


次の瞬間、男の体は地面に叩きつけられていた。


かつて漢児がスパルタクスから受けた投げの技だ!


「……アンタとは生きてる時に対戦してみたかったな…絵里洲…鎮魂の祈りを…お前の祈りを拳に宿す…彼を解放してやろう…」


アーレスタロスの背後に浮かぶ絵里洲は兄貴の言葉に従って両手を組み男のために祈りを捧げる。


アーレスタロスは静かに目を閉じ倒れた男の胸に拳を落とした。


憑き物が落ちた様な安らかな顔で黄色い拳法家は動かなくなった。




ニンジャと拳士を倒した蒼と翠の勇者ペア達は変身を解き鵺に体力を回復してもらう。


下がった四人達に変わり雷音とミリル、オームとエドナ、神羅と白水晶の六人が前線に出る。


巨大な真紅の刀を構える赤い甲冑のサムライ、巨大な盾と槌を構える蒼いフルプレートアーマーの騎士、巨大なライフルを構える緑の軍服のスナイパーと黄緑観測手のコンビ


因縁の相手ナイアとピンクのサキュバスは後方に控えてなにやら呪文をとなえてる。


ナイアの魔法が発動する前に決着をつけようと、エドナとミリルが動いた。


だがナイアはそれを予期していたのか重力の魔法を発動しミリルの動きを止めた。


同時にナイアは自身にかかる重力を操作しその身を宙に浮かばせる。


ナイアは魔法で空中に浮き上がりつつ、詠唱を続ける。


ナイアから放たれる魔力弾や魔法攻撃を避けつつナイアに近づく二人だが、ナイアの呪文が完成する方が早かった。


ナイアの周りに黒い球体がいくつも現れそこから触手が伸びてきた。


二人は慌てて飛び退く。


その判断は正しかったようで伸びてきた触手は二人に届かなかった。


だが、避けた先にはさらに別の触手が出現していた。


その数4つ。


2つの触手をかわしたが残りの2つに当たってしまった。


当たった瞬間、二人を強烈な脱力感が襲った。


エナジードレイン攻撃だ。


その隙を狙ってナイアから魔法による砲撃が飛んでくる。


それをどうにか回避するが二人の体は思うように動かない。


そんな二人をあざ笑うかのようにナイアは次の魔法を準備する。


今度は地面から大量の手が生えてきて二人に襲いかかる。


必死に避ける二人だったが、その手の一つにつかまってしまう。


それはただの手のように見えるが、実際は無数の小さな手が合わさってできたものだった。


それらが絡み合い一本の太い腕となって二人に巻き付くように迫ってきた。


「あ……」


二人が気づいたときには既に遅かった。


腕の一本がミリルの足を掴み持ち上げていたのだ。


当然ミリルも抵抗するが、見た目以上に力強いその腕に引っ張られ今まさに地面に叩きつけられようとしていた。


「俺の婚約者に手を出してんじゃね〜っ!!」


間一髪赤龍に変身した雷音がミリルを空中でキャッチして助け出した。


「え?雷音……今なんて?」


今が闘いの最中である事も忘れミリルは呆けた様に雷音をみた。


「う、やべ!しまった!なんか思わず変なこと口走っちまった!」


「ねぇ!今のもういっぺん言って!よく聞こえなかったからもう一度言って欲しいのだ!!」


「ば、馬鹿やろ!今は戦いの最中だぞ!?」


「いいからもういっぺん言って欲しいのだ!!」


だがミリルの願い虚しく邪魔が入った。


太いうでがミリルの体に巻き付いて再び彼女を放り投げたのだ。


だが、投げられた先は再度ミリルを助けに向かった雷音の胸の中だった。


そこに落ちたミリルは後ろから雷音に抱きしめられるような格好になった。


「まったく、イチャイチャするのは後にしてもらおうかしら?」


ナイアのその言葉に顔を真っ赤に染める二人だった。


「い、いちゃついてなんかいねえ!」


「いや〜ん♡イチャイチャしてるとこ見られて恥ずかしいのだ♡」


「だから違うって言ってんだろ!!てかお前なんでそんな嬉しそうなんだよ!?」


そう言いながらも二人はしっかり抱き合っていたりする。


というかミリルが抱きついて離れない。


(おのれ、勇者どもめ……!)


怒り心頭のナイアは再び呪文詠唱を開始するのだった。


「ええいミリル!俺達も勇魔共鳴を試すぞ!相手は邪神ナイアルラトホテップ!持てる全力で叩き潰すんだ!!」


「了解なのだ!私はいつでも行けるのだ!」


言ってミリルは雷音にゆっくりと顔を近づけていく。


「バ、バカ!別にキスとかしなくても勇魔共鳴は出来る!」


慌てる雷音にお構いなく大観衆の中ミリルでミリルは接吻をかわす。


その様子に危機感を覚えたナイアは慌てて呪文詠唱を中断しようとした。


しかし時すでに遅し。


次の瞬間、雷音の腕の中に魔剣クトゥグァが召喚される。


「 顕現せよ! 魔剣クトゥグァの力!! 変神!!!」


雷音の手足が龍化し、鳳凰を思わす翼も生え体が一回りだけ大きくなる。


そしてミリルは魔剣に吸い込まれる様に姿を消し、魔剣は雷音の背丈程の大きさの斬馬刀に変形した。


ヒーローに変身した雷音の背後には、緑の雷光を纏った闇の女神の様な半透明のミリルが背後霊の様に付き従った。


「「勇魔共鳴・裏モード発動!!」」


「くうっ!まさかこの土壇場で新たな力を手に入れるとは……!」


悔しそうに歯噛みするナイアを尻目に、二人の力が解放される。


それは圧倒的なパワーの奔流であった。


今まで防戦一方だった状況が一変する。


まず最初に動いたのは雷音だ。


彼は手にした魔剣を振りかぶりながら突撃していく。


その攻撃をレッド侍とブルー騎士が二人がかりで防ぐ。


だが雷音1人に明らかに力負けしている。


「ぐっ……なんて馬鹿力だ!?こんなの受けきれるか!?」


ナイアがそう叫ぶ間にも雷音は攻撃の手を緩めない。


一振り毎に風圧が巻き起こり、衝撃の余波で地面が大きく抉れていった。


(まずい、このままでは押し切られてしまうわ!こうなったらこちらも!)


「ナイア様!魔法陣の用意が出来ました!」


ナイア配下のピンクのサキュバスが叫ぶ!


「でかした!呪文を発動するぞ!」


にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!」


ナイアとピンクが同時に呪文を唱えるとレッド侍とブルー騎士の身体がベキベキと音を立て筋肉が盛り上がり、ふたまわり以上大きくなった。


「ふはははははっ!!どうだ勇者よ!これで貴様の攻撃など効かぬわっ!!!」


高笑いするナイア


防御を固めた侍と騎士の二人はそのまま前進し、力任せに襲いかかった。


「くっ!こいつら急にパワーアップしやがったぞっ!」


二人分の攻撃を受け止めきれずに吹き飛ばされそうになる雷音を援護すべく、ミリルが魔法を放つ。


「サンダーボルトボールッ!!!!」


巨大な電気の塊が出現し、それが無数に分裂し雨あられと二人に降り注いだ。


だがブルー騎士が手にした大盾を上にかざすと雷は全て防がれてしまった。


「なに!?」


驚いた一瞬の隙を突きレッド侍が雷音に切りかかる。


だがその攻撃を黄色い影が割り込み槍で防いだ。


それは黄衣の魔王ベリアルハスターだった。


オームとエドナが勇魔共鳴を果たしたのだ。


「待たせたな雷音!」


「あんたらが敵の目を引きつけてくれたおかげでウチ等の勇魔共鳴は終わったで!!」


赤の勇者と黄衣の魔王がレッド侍とブルー騎士に対峙する。


双方は武器を構え激しく剣戟を交わした。






だがその間にナイアとピンクサキュバスは次なる呪文の準備を終えていた。


彼女達が次に用意していた呪文は召喚の呪文


そして呼び出されたのは6本足の戦車だった。


黄緑の観測手が戦車に乗り込み操縦桿を握る。


その真後ろの席に緑のスナイパーが乗り込み、巨大な銃を構え大将の鵺に照準を絞った。


緑の狙撃手はスコープ越しに鵺を見た。


鵺は獅鳳達に回復の魔法をかけ続けてて動かない。


緑の狙撃手が引き金を引く。


放たれた弾丸は鵺の頭を貫いたように見えたが、当たる直前に魔法障壁により弾かれた。


「おっと!そう簡単に鵺ちゃんへの攻撃を許したりしないわよ?」


神羅が鵺を守るべくすぐそばで待機してたのだ。


緑の狙撃手の放った銃弾は神羅の魔法障壁を貫くことは出来なかった。


神羅はすかさず鵺を抱き寄せ、庇うように覆い被さった。


「あ…ユキル?…何を……」


突然抱き締められた鵺は慌てて離れようとするが神羅はそれを許さなかった。


「いいから黙って私に守られてなさい」


神羅はそのまま片手を前にかざし魔力を集中し始めた。


するとその手の前に桜色の光が集まっていく。


やがて光が収束し一つの球体となった時、神羅はその球を頭上に掲げ叫んだ。


「喰らいなさい。阿烈お兄ちゃん直伝!絶・百歩神拳!必殺桜花砲ーーーっ!!!」


桜の花の形をした極太レーザービームが放たれると狙い違わず緑の狙撃手がのる戦車へと襲いかかる。


神羅はこの技の威力を知っていた。


ぶっちゃけ見掛け倒しのハッタリ技だ。


だから迷わず全力で撃ったのだ。


ビームは戦車に当たりこそしたが、戦車には大したダメージは無いようだった。


だがその判断は正しかったと言えるだろう。


何故なら敵はまんまとこのブラフに引っ掛かり、攻撃対象を大将鵺から神羅へと切り替えた。


黄緑の観測手が神羅に向かって戦車を走らせる。


緑のスナイパーは神羅に向け銃を乱射する。


だがしかし神羅は涼しい顔でそれをかわし続ける。


「どうしたの?当たらないわねー?」


神羅の挑発的な態度に緑のスナイパーは無感情に銃を撃ち続ける。


だがそれも無理は無い。


彼は死人


邪神ナイアに操られてるだけの心無い戦闘マシーン


その彼の代わりに苛立ちを募らせる者がいる。


死体達を操る張本人ナイアだ。


(ちぃ!前世ユキルの時と全くおなじだ!卓越した洞察力と常人離れした視覚で相手の射線と射撃タイミングを見抜き、至近距離から放たれた銃弾すら回避する!生まれ変わってもお前はやはりユキルなのだな!!)


この事実は彼女を苛立たせるのに充分であった。


6本足の戦車は銃の命中は諦めその巨体で神羅を押し潰すべく宙にジャンプする。


そしてそのまま落下しながら巨体で踏み潰そうとする。


だが踏み潰される直前、飛行外骨格を纏った白水晶が神羅をかっさらって救出した。


「白水晶!コレを使うのだ!」


雷音の背後に浮かぶミリルが召喚呪文を唱える。


魔法陣が描かれそこから一台の車が現れた。


可愛いらしオープントップのてんとう虫の小型車だ。


「了解…装備を1人用飛行外骨格から魔法車に切り替える」


白水晶は両脇に神羅と鵺を抱え後部座席に放り込む。


自身も乗りこみ運転、ハンドルを握りアクセルを踏むと車は猛スピードで走りだした。


車体を傾けてドリフト走行をしながら6本足の戦車へと向かう。


だが緑の狙撃手もまた魔法を唱えていた。


彼の持つ銃は魔法銃で彼が引き金を引く度に巨大な氷の槍が出現し放たれた。


だがなんと白水晶達が乗るてんとう虫車に桜色の翼がはえ、宙を舞い、氷の槍を回避したのだ。


黄緑の観測手は戦車のアクセルを踏みてんとう虫車を追いかける。


なんと6本それぞれの足下に魔法陣が現れ見えない階段でも上がる様に空を登り出した。


6本足は空中で加速し一気に距離をつめてきた。


これにはさすがの白水晶も驚きの表情を見せた。


黄緑色の観測手の男は遠距離からの攻撃をあきらめ接近戦を仕掛けるべく二つの前足で殴りかかる。


対する白水晶も応戦する構えを見せる。


桜色の翼が丸っこい腕の様に拳を握り6本足を殴りつけにかかる。


2つの足と翼が交差し激しい火花が飛び散る!


互いに一歩も引かず鍔迫り合いが続く中、突如銃声が鳴り響き、白水晶の右肩に弾丸が命中した!


衝撃で思わず肩を抑える白水晶!


その隙を逃さず緑の男は追撃を加えようとする。


だがその瞬間、後方から放たれた機銃掃射により攻撃は中断された。


白水晶が後ろを振り向くとそこには銃を構えた鵺がいた。


「白、車の後ろの席にあったコレ使わせてもらったわよ?」


「無問題…むしろナイスサポート」


銃撃を受け怯んだ6本足にさらに無数の銃弾が撃ち込まれる。


堪らず後退する6本足、しかし今度は後方より砲撃を受けた!


観測手が振り返るとそこに居たのは砲門を構える神羅の姿!


彼女は車の後部座席に機銃とバズーカを見つけだすとすぐ様機銃を鵺に渡し、自分はバズーカを持ち出し行動に移っていた。


鵺が揺動で機銃掃射をしてる間自分はバズーカを持って地面に降り立ち砲弾を撃ち込んだのだ!


この予想外の事態に6本足は慌てて急速後退し神羅に反撃しようとした。


だが今度は鵺が手榴弾のピンを抜き自分に対し隙だらけになった狙撃手と観測手の背中にそれを投げつける。


爆発と同時に黒い煙が上がり6本足は地面に落ちた。


乗組員の2人も動く様子はなかった。


どうやら気絶?もしくは戦闘不能になっているようだ。


これでナイアが操る死人兵は残り2人となった。


「白ちゃん大丈夫!?」


神羅が肩を抑える白水晶を心配して声をかける。


「思ったより傷は深そうね…白、あなたは一旦ここでリタイヤしましょう?」


鵺も負傷した友を心配し声をかけた。


「否……まだやれる。それにあいつらを倒せばこの戦いも終わる」


「それはそうだけど……」


「残存戦力……敵はあと半分。なら、いける!」


「で、でも、その傷じゃまともに動けないでしょ!?ここはいったん引いて態勢を立て直すべきよ!!」


「どうしたの白?あなたらしくもない……よく聞いて、敵はあのいやらしいナイアルラトホテップ!私達の苦しむ顔を見るために奴はまず真っ先に弱った者から攻撃してくるわ。回復魔法をかけようにも傷が治り切る前にやつは執拗に攻撃してくるわ!今漢児さんと羅刹が気を引きつけてるけど奴は、さっきから動けなくなった獅鳳、雷華、絵里洲を執拗に狙おうとしてた!だからまずはあなたが先にリタイヤして敵の注意を逸らしてちょうだい?」


「……分かった」


渋々といった様子で引き下がり後ろに下がる白水晶を見てほっと一息つく二人。


白水晶は救護師としてやってきたイブに抱えられバトルフィールドから降りる。


「イブ……」


「どうしマシタ?白水晶…」


「エラー……鵺の判断は正しい…けど悔しい…私はもっと戦いたい……役に…立ちたいです……」


「今は安静にしてくだサイ。これはあくまで模擬戦デスヨ?」


イブの言葉に納得いかない様子の白水晶だった。


イブは姉妹機の情緒の成長を心の中で喜んだ。




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