第36話 乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-10

それから少し時間が経過して皆が落ち着いた頃、会議室で阿烈、ジャムガ、鵺とガープ、ナイトホテップ、スパルタクスによるトップ会談がようやく本題に入る事になった。


この会議はこの6名のみによる会談だ。


イブと黒服戦闘員が数名いるがあくまで給仕だ。


最初に口を開いたのは鵺だ。


「まず今回の件について説明します」


ジャガ族の鵺はまずそう言った後、一呼吸置いてこう続けた。


「まずは狂気山脈で遭難した私達を保護して頂きありがとうございます。此度は雷音と雷華両名が帰宅を許されるそうですが、どうせなら私達全員の帰宅許可をいただけませんか?」


鵺の言葉にナイトホテップ達は驚いた顔をする。


「もちろんタダでとは言わねぇ、ドアダさんにゃ面白い手土産があるんだ」


言ってジャムガは正四方形の木箱をテーブルに乗せる。


ナイトホテップに促され黒服戦闘員が箱を開けると中には塩漬けにされた男の生首が入っていた。


男は苦悶の表情をうかべ顔中傷だらけで絶命している。


生首を見た黒服戦闘員は泡を吹いて気絶した。


ちなみに彼はつい先刻も雪男の生首を見て気絶している。


箱の中身をを見た鵺は思わず顔を背けるが、すぐに気を取り直したようで再び口を開く。


「この男はかつて私の仲間を殺した上に私を凌辱しようとしたのです。ですからこの男の首は私の復讐としてここに持ってきました」


その言葉にナイトホテップ達が息を飲むのがわかった。


「……そうか、わかったぞ!その昔タイラント族とジャガ族との間で小競り合いがあった時、タイラントの斥候隊の一隊が戦場から離れたところに避難していた非戦闘員のジャガ族を襲った事件があったな?その非戦闘員は皆女子供ばかりだったとか……捕まった女たちは皆娼館に、あるいは殺され、あるいは奴隷として売り払われたとも聞く。その斥候隊の隊長名は確かカルマストラ3世とか言ったか?此度のティタント反乱の首謀者でもある!」


ナイトホテップはすぐに察したようだ。


「はい、この男です」


ナイトホテップの問いに鵺が答えると阿烈はその生首を持ち上げた。


「クックックッ…あ〜あ、やってくれたなぁジャムガ〜?こいつは俺の美味い金づるになる予定だったのによぉ〜?」


(フン…やはりカルマストラ3世を使ってタイラントに流れる援助金を掠め取る算段だったか……)


ナイトホテップが心の中で毒づく。


「ブハハ!悪りぃな兄弟、このタコはオレの面子に泥を塗りくさったんだ!落とし前つけにゃ腹の虫が収まんねぇのよ!どうだいドアダの御三方?正直あんた等もコイツの首は掻っ切りたいとこだったんだろ?」


悪びれもせずジャムガが言う。


(悪いなぁ兄弟、ドアダの援助金とやらは俺がもらうぜ…)


阿烈は生首を無造作にゴミ箱に投げ入れる。


「まあいいさ、しかしコソコソ逃げ隠れするのが上手いコイツをよく見つけだせたな我が幼馴染よ?」


(…ち、まあいい!カルマストラ3世以外にも蜂起軍幹部の中には我が軍の協力者がいる。其奴等を使い巻き返す!)


阿烈が頭の中で次の計略の準備に取り掛かる。


「ああ、コイツの父親カルマストラ2世が俺に情報を売ってくれたのさ」


そう言ってジャムガは一枚の写真をテーブルの上に置く。


そこには一人の男が写っていた。


写真にはメモ書きで『カルマストラ2世』とある。


ジャムガにはカルマストラ2世と裏取引をし、ドアダの援助金を懐に入れる計画がある。


「こいつがあの野郎の親父か?息子に似て小狡そうなツラしてやがるぜ……本当にあの忠臣だったカルマストラ1世の息子か?」


その写真を見て阿烈は吐き捨てるように言う。


「それにしてもジャムガ殿、彼はえらく苦しんで死んだ様子だが、何か拷問でもかけて聞き出そうとしたのか?」


ナイトホテップがタバコを口から離し、苦悶の表情で死んでるカルマストラ3世の額に押し付け火を消した。


「んにゃ、コイツを裸にふん縛って木にぶら下げといたらコイツに恨みある連中がこぞって石を投げつけんだよ。死なれると困るからウチの陣営の回復術士達にずっとずっとずぅ〜っと回復魔法かけさせ続けてたんだ。けどある日『お願いです。もう殺して下さい』と泣き喚くもんだからうるさくて仕方ねー、昼寝の邪魔だしサクッと殺してやったのさ。その時の泣きわめき顔が今のこれだ…」


ジャムガはタバコを口から離し、苦悶の表情で死んでるカルマストラ3世の右目に押し付け火を消した。


「殺してと言われて殺してやったのかぁ〜?お前も随分丸くなったなぁジャムガ〜…」


阿烈はタバコを口から離し、苦悶の表情で死んでるカルマストラ3世の左目に押し付け火を消した。


「ダルォ?オレ最近博愛主義に目覚めちまったみたいなんだよ〜」


何が面白いのか3人が一斉に笑い出す。


「グルァーッア"ッア"ッア"ッア"ッア"ッア"!!」


「ブハハハハハハハハハハハハハ!!」


「カーッカカカカカカカカカカカ!!」


3者は心の底から愉快そうに笑う。


(((おいおいおいおい!なんだよこれは?右も左も人の心をなくしたド悪党ばかりじゃねーか?全くスラルは地獄だぜぇ!!!)))


彼らは遊園地で大はしゃぎする子供のように、あるいは対戦ゲームで歯応えある相手と対戦し興奮してる子供のように笑っていた。


(……胃が痛い)


人の心を持ち合わせぬ悪鬼の会談に鵺の胃が悲鳴をあげる。


邪悪な極道者の会話に当てられ彼女の仮面の下の顔は真っ青だ。


ドアダ首領ガープは息子の教育を誤ったと頭を抱えている。


「鵺様、大丈夫デスカ?」


イブが鵺を気遣い声をかける。


「おおお!?どうした鵺!?大丈夫か!?」


ジャムガが心配そうに声を掛ける。


いや実際に鵺を心配している。


阿烈、ナイトホテップにも言える事だがこのドヤクザ共は敵には苛烈な残虐を示し、身内には過剰なまでの愛情を示すのだ。


「鵺殿は受動喫煙で体調を悪くされたご様子…少し休憩に入られては?」


スパルタクスが少し無理のあるフォローを入れてくれた。


鵺は静かにうなずいた後、席を立ち部屋を出た。


その後も悪鬼三人共による会談は続くのであった……




「……というわけで我が弟雷音よ、模擬戦でナイトホテップと対戦しろ」


「……いやだ」


俺は即答した。


ここは今ドアダからあてがわれている俺の部屋だ。


「まあそう言うな」


兄はニコニコしながら言う。


この人は基本的に家族の前では割とよく笑っている。


怒ったところを見た事がない。


でも怖いのだ。


怒るとかキレるとかないだけで普段は寡黙で鉄仮面だけど本当はとても怒ってるんじゃないかといつも思うからだ。


だから俺は兄が苦手だった。


「嫌だよ、なんで戦わないといけないんだよ」


俺も負けじと笑顔で答える。


笑顔というのは大事だ。


どんな時も笑顔を絶やさない事は大切だと母さんが言っていた気がする。


「なに、この基地にいる遭難者全員をまとめて帰すか帰さないかの話し合いで賭をすることになっただけの事。お前達全員とナイトホテップ側とで親善試合を行い、勝てば即日帰宅、負ければひと月勾留という流れになった。お前達はいずれエクリプスと戦う事になるだろう、なら少しでも実力をつけておかねばな!」


この人はまたわけのわからない事を言っている。


「それにウヌとてかの蛇王の実力をその身で確かめてみたいと思っておろう?」


そりゃもう当然思っているさ。


あの蛇王の圧力は俺の想像を遥かに超えていた。


正直あんな化物を相手どって勝てる気なんてしない。


だが同時にワクワクもしていたのも事実だ。


そしてそれは漢児やオームも同じだと思う。


「ああわかったよやるよ!やればいいんだろ!その代わり約束しろよ!もし俺が勝ったら神羅は絶対ドアダに渡さないって!!」


俺は半ばヤケクソ気味に答えた。




「俺達全員と大叔父貴とで模擬戦?」


漢児がイブに尋ねる。


「ハイ、いかがなされマスカ?7将軍で参戦されるのはナイトホテップ様のみデス。ナイトホテップ様は余興なので参加したくなければ、参加しなくても問題ないとおっしゃられてマス……



「だとよ?獅鳳お前はどうしたい?お前親父にぶつけたい想いとか沢山あるんだろう?なんなら俺が代わりに言ってやってもいいぜ?」


「いやいい、俺アイツと戦ってみる!!」


獅鳳は即答した。


「私も協力するわ!あんなネグレクト親父ガツンと懲らしめてやるんだから!」


絵里洲も鼻息を荒くして言う。




「うーんサタン叔父さんと対決かぁ…」


神羅はこの決闘どうするべきか考えあぐねていた。


しかしそこに思わぬ横槍が入る。


「神羅姉様!私あの男をギャフンと言わせたい!!」


神羅の妹雷華だ。


「私絵里洲から獅鳳とあの男の間で何かあったか聞いたんだ!あの男絶対許せない!だから私があいつを倒す!」


「え!?ちょっと待ちなさいよあなたも戦うの!?」


いきなりの発言に慌てる神羅だが、雷 華の意志は変わらないようだ。


「そうだ!私は絶対に許さない!私の大事な友達を傷付けた奴は絶対に倒す!!あんなひどい奴が父親獅鳳が可哀想だ!!」


そう言って雷華は部屋を出ていった。


神羅はしばらく呆然としていたが、やがてやれやれといった顔で苦笑したのだった。




オーム、エドナ、ミリム、白水晶はスパルタクスとイブから対ナイトホテップとの模擬戦について説明を受けていた。


ちなみにイブが何故ここにいるかというと、彼女と白水晶は今は無き女神国で製造された対邪神用決戦兵器ジュエルウィッチシリーズの残存機、いわゆる生き別れの姉妹みたいな関係だからである。


正直白水晶にとって情緒豊かなイブの存在は衝撃的だった。


今まで彼女は自分をロボットの様な物と認識し振る舞ってきた。


それが、イブと出会ってからまるで人間の様に不合理な思考に囚われる自分がいる事に気づき驚いていた。


白水晶は自分の中に芽生えた不思議な感情に戸惑いながらも、イブと意見をかわす時間を楽しんでいた。


「質問……ジュエルウィッチプロトタイプ"イブ"に質問……」


「ハイ、なんでしょう白水晶?」


「……あなたは私をどう思っていますか?」


「?……質問の意味がよくわかりマセン」


「任務外の接触は非効率的……なのに何故か貴方と情報交換をしろと私の中でアラートが出てます……


私は故障したのでしょうか?……」


「そうデスネ……期せずして姉妹に出会ったのデス。色々話をしたくなるのはヒトとして当たり前の感情と思いマスヨ」


「否定……私には感情は存在しません。よって貴方の発言は論理的ではない」


「フフフ……そんなアナタだからこそワタシは仲良くなりたいと今思っているのデショウ」


「理解不能……でも確かに今私はマスターの敵対組織にいる貴方に不必要な接触をこころみている……」


「うーん、はたから見てると白ちゃんアンタめっちゃ感情あるやん?」


「うむ、白水晶……白ちゃんが自分からこんなに他人に話しかけるの私は初めて見たのだ!」


エドナとミリルが会話に混じる。


「白水晶ちゃんはミリル姫を助けてあげたいですヨネ?」


「同意……」


「それじゃ明日の模擬戦でミリル姫と雷音君がグッと仲良くなれるとっておきの情報を教えてあげマスヨ?」


「何!?それは本当か!!」


ミリルが白水晶を押し除けイブに顔を近づける。


「エエ、かわりと言ってはなんデスガ、明日獅鳳おぼっちゃまと雷華さんが仲良くなれるよう手伝ってもらっていいデスカ?もちろんお礼はしますヨ」


「お、いいね!ウチそういういらん事やるの大好きやで〜♪」


「商談成立デスネ。では、とっておきの情報をお教えいたしマス。勇者と魔法少女が力を合わせて発動するハイパーモード、勇魔共鳴の裏技についてデス!その名も『愛の共鳴合体』デス!お互いを思い合う心が強ければ強い程より強力な力が出せるんデスよ!ちなみに愛の深さによって威力が変わるトカ・・・」


「・・・愛とは何ですか?」


白水晶は無表情のまま小首をかしげる。


「そ、そこからかいな!いや、愛っちゅうてもなぁ・・・なんて説明したらええんやろ?とにかくお互いに好き合ってる事かな?」


「ふむ、つまりお互いの事を思う気持ちが高ぶれば高いほどパワーアップするということか!?」


「そうデス♪さすがミリル様話の飲み込みが早イ」


「誰でもできると言うわけでは無いのデス、でも雷音様と獅鳳おぼっちゃまなら条件が揃っているように見受けられマス!あの2人はおそらくホエル様、リュエル様と同じ"魂の双生児"デス。お二人の間には不思議な絆がありマス。僅かな差はありますが雷音様が出来ることは獅鳳さまが出来、獅鳳様が出来る事は雷音様も出来ル。魂の双生児とはそういう特殊な能力者なのデス!だから勇魔共鳴も獅鳳ぼっちゃまと雷華さん、雷音さんと翠の魔法少女ミリルさんとで出来るはずなのデス!!」


そう言ってイブはホエルとリュエルに関する秘蔵のデータを白水晶達に開示した。




「……スパルタクス先生これが明日の模擬戦で対戦する相手のデータですか?」


オームがスパルタクスに確認を求める。


彼は明日の対戦相手の名簿を見て戦慄していた。


「間違いないですね。しかしこの戦力差は厳しいですね。皆さんのメンバーに1人助っ人を認めるよう申請しましょう」


ドアダ側のリストにはスラルでもその名を知られた屈指の猛者の名が連ねられていた。


そしてもう一つの問題として……


「ナイアの名前がありますね。7将軍はナイトホテップだけが参加するんじゃ……」


「この模擬戦のことを聞いて、彼女無理矢理割り込んできたんです」


「……いや、それよりこの銀仮面って名前……雷音から聞いたんだけどまさか……羅漢さんじゃ無いでしょね……?」


「残念ながら正解です。銀の勇者羅漢殿です」


「つ、詰んだ!ナイトホテップは明日僕達を殺す気なのか!?くそぉ!!」


「まあ気を落とさないで……あ、丁度明日貴方達の助っ人をしてくださる方がいらっしゃいましたよ」


その助っ人は落ち込んでるオームの肩に手を置き声をかけた。


「久しぶりだなオーム、エドナのヤツは元気にしてるか?」


助っ人を見てオームの目に希望の灯火が燈る。


「羅刹さん!!」


自軍チーム最後の1人として入った助っ人は乂家長女乂羅刹であった。


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