第35話 乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-9

ヨクラートルことヨドゥグと狗鬼ユノは大広間で子供達と再会した。


広間には皆が集まっていた。


絵里洲は派手なピンクのスーツを着たこの男が自分の父だと紹介されひどく面食らっていた。


(うわ~なんかすごい人が来たなぁ……)


そんな娘の様子に母ユノは嬉しそうに話しかける。


「どうだ絵里洲?この人がお前のお父さんだぞ〜、地球に帰ったら母さん達キチンと籍を入れて結婚するんだ!」


「ええ~~!?」


それを聞いた途端、絵里洲は心底嫌そうな顔をした。


しかしそんな娘の態度に動じることなく父親は漢児、絵里洲、獅鳳、ユキルの4人対し話しを続ける。


「俺はヨドゥグ、これから正式に君達のお父ちゃんになる!これからは君らのパパと呼んでくれ!!」


「「「「はあ?」」」」


四人は困惑しながらもヨクラートルをじっと見つめていた。


「ところで、そこの獅鳳そっくりの子は誰だ?ま、まさかリュエルの子は実は双子だったとか!?」


「違うよ。この子は私の弟雷音。で、こっちが妹の雷華よ」


ユキルこと神羅に紹介された雷華は神羅に抱きつくとキッとヨクラートルを睨みつけた。


「神羅姉様は私達の姉様だ!絶対渡さないからな!」


睨まれてたじろくヨクラートル


だがユノは動じる事なく雷華に声をかけた。


「大丈夫、その事も含めてじっくり話し合うつもりだ。実はここに来る前にホエル…君のお母さんに会って来たんだ。そしたらこの基地に到着するのが遅くなっちゃってさ…」


「絵里洲のお母さんは私達の母様を知ってるのか?」


雷華は驚いた顔でユノを見る。


「なに、ほんの冒険仲間だよ」


そう言って笑うユノを見て、自分の知らない所で母と友達の母に繋がりがあった事に驚きながらも何故か少し嬉しい気持ちになるのだった。


一方その頃、絵里洲達はと言うと……


「……(じー)」


「…ど、どうしたのかな? 絵里洲ちゃん、さっきからじっと見て?」


絵里洲の視線に気づいたヨクラートルが怪訝そうに尋ねる。


すると絵里洲は


「…おじさん、本当に私たちのお父さんなの?今更現れてお父さん面するなんてちょっと都合いいんじゃないかな?ねえ?どうなの?」


と言って疑いの目を見せた。


これにはさすがのヨクラートルも困り果てると助けを求めるように神羅の方を見た。


その視線を受けて神羅が言う。


「いいぞ〜絵里洲ちゃんもっとガンガン言ってやれ〜!子供をほったらかしにした無責任なパパなんてガンガン怒ってやればいいのよー!」


「ヒィ!」


フォローどころか火に油を注いでいた。


その後しばらく言い争いが続いたものの結局絵里洲達が根負けして、父親と認める事にしたようだ。


「ねえユノ…」


「なんだい雷華ちゃん?」


「私達のお母さんと話し合ったって一体どんな話をしたの?」


「そうだね。もうすぐ雷華ちゃんのお母さんがここにやってくるからその時みんなで話し合いしよ?」


その発言に一堂は驚いた。


「え?いや、え?ユノさん今母ちゃんがこっちに来るって言った!?」


混乱しながら尋ねて来る雷音にユノは首を縦に振り答えた。


「うん言ったよ」


「いやいやおかしいだろ!?だってここはドアダのアジトだぞ!!何で母さんが来るんだよ」


雷音の疑問に対してユノは答えた。


「さっき言ったじゃないか『みんなで話し合い』をしにきたってね」


その言葉に雷音はますます困惑した。


「でもどうやってここを特定したんだろ?」


「確かにそれは気になるわね」


「ああそれか、それなら簡単だよ。ここには黒の封獣エリゴスと契約した鵺ちゃんがいるじゃない?エリゴスは空間を自在に転移し移動する神馬。魔剣クトゥグァと並ぶ最強の封獣で例えどれだけ距離が離れていてもアレは主である鵺ちゃんの下に駆けつける。もう一人の主黒天ジャムガと一緒にね」


その答えに雷音だけでなく他の皆も唖然とする。


ナイトホテップがため息をつき鵺に話しかける。


「……フン、お前はその気になればいつでも自分一人逃げ出せたわけか黒の魔法少女?」


「さあどうかしら?もし逃げようとしてもドアダのトップ3がいたからそう簡単にいけたとは思えないわね…。だったらここで大人しくしてた方が賢明と判断したけど…」


「フン、簡単に手の内を明かさんか…」


そんな彼らをよそにユノ達は話を続ける。


「じゃあそろそろ来る頃だからみんな準備しといて、多分鵺ちゃんの近くに転移して来るだろうから彼女から離れて」


その言葉を合図に皆がそれぞれ動き出す。


そしてそれからしばらくして空間に亀裂が走った……。


そしてその亀裂から黒い馬の前足が見えた。


「来たわよー」


続いて胴体と頭が現れると、最後は全身が姿を現した。


その姿はまさしく神話に出てくるような黒馬だった。


ただし普通の黒馬と違う所はその馬は象の様に大きいという点だろう。


以前アシュレイ領でナイアと対峙した時に見た馬と同じ馬だ。


「いよう鵺、迎えに来たぜ〜」


黒いサングラスと黒衣を着た男が馬上から声をかける。


「遅いわよジャムガ」


「おお!ジャムガのダンナじゃねぇか!ひっさしぶり〜!!」


ジャムガの姿を見た漢児が彼に手を振る。


「んん?おお!漢児じゃねーか!相変わらず元気そうだな!しかしお前も変わったなぁ〜前より一回り…いや二回りはウェイトがデカくなったか?今の方が断然良いぜ〜!」


「わはは!血のションベン出し尽くすくらいにゃ自分を鍛え込んでるからな!」


二人は久々の再会を喜ぶかのように会話する。


「お袋さん下ろしますぜ」


ジャムガがエリゴスの後ろに跨る婦人を降ろす。


赤髪の妙齢の美女だ。


腕に小さな娘を抱えている。


「お母さん!」


「母ちゃん!」


「母様!」


神羅、雷音、雷華が口々に叫ぶ!


「もう!貴方達ってば連絡も寄越さず心配かけて!お母さんずっと待ってたのよ!」


「あーっ!ネーネ達だぁ!」


母の腕から小さな女の子が飛び出し神羅達に抱きつく。


その子は乂家の末っ子乂紅阿5歳である。


「あ、クーちゃん!」


「紅阿も一緒に来たのか?」


「クーちゃんほったらかしにしてゴメンな!ネーネ達大事なお仕事してたんだ!」


雷音達は代わる代わる紅阿を抱き寄せる


紅阿は家族のアイドルで家の誰もが大事にして可愛がっている。


あの阿烈でさえも人目がないところでは顔をくしゃくしゃに破顔させ、赤ちゃん言葉で紅阿を溺愛し甘やかしている。


ちなみに阿烈はその事は誰にもばれてないと思ってるらしい。


母ホエルは戯れる四人の子供達を微笑ましそうに見つめていた。


そのホエルを見たとき獅鳳の身に衝撃が走った。


「…あ……ああ?……お…お母…さん?」


それもそのはずホエルのその顔は写真で見た彼の亡き母リュエルに瓜二つだった。


気づいた時には彼は頭が真っ白になり駆け出していた。


「お母さん!お母さん!お母さん!うわああああああん!!」


獅鳳はまるで子供のように、というより11歳の年相応に泣きじゃくりながらホエルに抱きついた。


いきなり抱きつかれ驚くホエル


だが彼女は獅鳳を突き放そうとせず、優しく彼を抱きしめる。


「……そう……あなたがリュエル姉さんの忘れ形見……獅鳳くんね……」


彼女は驚きながらも獅鳳の頭を優しく撫でてくれる。


そう、龍龍月と龍鳳月二人は同じ顔を持つ姉妹だった。


ホエルの姿は亡き母リュエルの生き写しと言っていい。


獅鳳を優しく抱き締める彼女の瞳からは涙が溢れていた。


獅鳳は目の前の女性が母ではない事に気づいたが、それでも涙が止まらなかった。


だから無理に止めず力一杯泣く事にした。


この光景を見ていた他の者は皆一様に目頭を熱くさせていた。


涙腺機能のないイブも両手で口を覆い肩を震わせ嗚咽を噛み殺している。


そしてナイトホテップ……


漢児は横目でそっとナイトホテップの顔をみた。


仮面に隠れその表情は窺い知れない。


人間の心を捨て野望の道を選んだ阿修羅の漢


だが獅鳳とホエルを見つめるその目は今だけは人の目に見えた。


「………」


彼は無言で踵を返すと1人大広間から立ち去るのだった。


その後姿を目で追う者がいた。


イブだ。


(サタン……思い出して下サイ。獅鳳ぼっちゃまが生まれた日の事ヲ……あの日のアナタの喜びようを当機は覚えてイル……リュエル様はもういナイ……でも獅鳳ぼっちゃまは今ここにいるんデス……)


イブは静かに心の中で呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る