第33話 乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-7

一方その頃、ドアダ本部ではパープルサキュバス号の出撃に継続して狂気山脈に収容中の雷音達の処遇についての話し合いが始まっていた。


議題はもちろん彼等の扱いについてである。


現在彼らは人質兼交渉材料としてここに居るわけだが、今後の扱いについては重要な問題である。


特に雷音と雷華は重要人物だ。


最強の封獣クトゥグァを持つ2人の評価は実はかなり高い。


阿烈の寵愛も受けている。


そんな雷音、雷華をどうするかについては当然意見が分かれた。


ある者は今すぐ処刑するべきと唱え、またある者は恩情を与えてこちらの味方にすべきと唱えたのだ。


しかし最終的に結論を出す前に一人の人物が声を上げた。


「私は彼を解放すべきだと考えます」それはスパルタクスだった。


彼は自らの意見を語り出した。


まずドアダの目的は神羅の身柄確保であり、彼女の前向きな協力を得るためには雷音達を悪し様に扱うのはリスクが大きい事、次に神羅に対するドアダの目的のためにも神羅と長年共にすごした雷音の協力は是非とも欲しいこと。


最後にガープ首領にとっても神羅は大事な孫でもあるので、できることなら彼女を悲しませたくないということを述べたのだ。


つまり彼としては雷音達を解放することが最善だと言いたいらしい。


だがそれに対して他の幹部達は懐疑的な反応を示した。


なぜならいくら何でも雷音達を無条件で釈放することはリスクが高いという反論が出たのである。


それに対しスパルタクスはこう答えた。


「天下のドアダが幼子を人質にとり政治交渉に望むなど物笑いの種です。責任は私が取りましょう」


その答えを聞いた瞬間、会議室内の空気が凍りついたように静かになった。


だがそれも一瞬のことで次の瞬間にはざわめきが起こった。


だがそれを遮るかのように別の男が発言した。


その男は先程から沈黙を保っていた男だった。


その男ナイトホテップはゆっくりと立ち上がり口を開いた。


「スパルタクスの案を前向きに検討しよう。生体検査が終わったらユキル以外は乂族に引き渡してもいい。だがユキルはエクリプスの呪いを跳ね除ける全宇宙唯一の抗体保持者だ。ガープ・ドアーダの孫娘だと言う名分を盾に断固としてドアダが保有しなければならん。もしユキルを渡せば、今後我々はあの手この手で奪い返しに行かなきゃならねー」


「ではユキル様は?」


「ああ、引き続き彼女はこちらで保護することにしよう。」


そう答えると男は再び席に座った。


すると今までずっと黙っていたイブが立ち上がった。


「銀仮面羅漢殿を前線に送り込んだと聞きまシタ……よろしいのデスカ?羅漢殿の洗脳手術は失敗に終わったと聞いておりマスガ」


「それは問題ない……むしろ羅漢の本気をたしかめられるいい機会だ」


ナイトホテップはそう言うとニヤリと笑った。




タイラント族の首都ティタントで乂族の反乱が起きてから、ドアダ基地内に抑留されていた雷音達の監視は厳しくなった。


「うー、もうそろそろ家に帰れると思っていたのに残念なのだ!」


「同意……本来ならば本日中に乂族、もしくはアシュレイ族から迎えが来る予定でした。」


「……雷音また脱走しようとか考えてる?」


鵺に尋ねられ雷音は答えた。


どうやら図星だったらしい。


雷音は目を泳がせながら慌てて言った。


「お、思ってないよー」


その様子を見た鵺は少し呆れた顔をした後、少し微笑んでいった。


その表情を見て雷音はホッと胸を撫で下ろした。


そんな二人のやり取りを見ていた神威は思わずため息をついた。


(やれやれ、本当に懲りないな)


だがその時、警報音が鳴り響いた。




一方その頃、ナイトホテップ達はと言うと会議を終えそれぞれの持ち場に戻って行ったところだった。


そこに突然通信が入った。


ナイトホテップはすぐさま応答ボタンを押して通話を始めた。


相手は彼の部下の一人だった。


彼は慌てた様子で報告した。


その内容を聞いたナイトホテップの顔からは余裕が消えた。


だが次の瞬間には元のポーカーフェイスに戻っていた。


そして報告に来た男に指示を出した後、他の幹部達に命令を下した。


それから数分後、その部屋の中央には巨大な円卓が置かれていた。


そこには幹部達が集まっていた。


彼等の中心にあるのは映像を映し出すための機械だった。


それを取り囲むように座っているのは、ナイトホテップ、スパルタクス、イブらと上級怪人達、そしてドアダ首領ガープであった。


ナイトホテップは今いる幹部全員が揃ったことを確認するとおもむろに話始めた。


「……乂阿烈がこの基地に来た。1人でだ……護衛も連れていないらしい」


突然のことにその場にいた全員が凍り付く。


その発言に真っ先に反応したのは、意外にも一番冷静そうな見た目をした男だった。


その男スパルタクスは珍しく興奮した様子で口を開いた。


「おお!今朝から感じていたあのとてつもないプレッシャーは彼のモノだったか!サタン、よければ私が接客に当たりたいのだが構わないか!?」


普段は寡黙で冷静な男なのだが、今日はどうも様子が違うようだった。


いつもは7将軍筆頭であるナイトホテップをたてて敬語を使う彼が、今日はサタンの古い友人として発言してしまっていた。


それもそのはず、彼とてかつては最強を目指した生粋の武人だ。


"武の頂"の来訪に心が踊らぬはずがない。


「……ったくお前といい羅漢といい、最強をマジで目指すやつぁ頭のネジがブッ飛んでやがる……」


言ってナイトホテップはため息をついた。


「乂家の頭目が自ら乗り込んできたのじゃ。ワシも出よう…サタン、ヌシはティタントの防衛指揮に専念してくれ」


そう言ってサタン=ナイトホテップの父ガープは腰を上げた。


「親父よ、悪いがティタントの指揮はちっとの間だけイブに任せる。俺も乂阿烈に会ってみてぇからな」


かくしてドアダ基地に単騎で乗り込んで来た"武の頂"に対し、ドアダのトップ3は足並みを揃え向かい合うこととなった。


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