第29話 乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-3

その頃、雷音と雷華は先に脱獄したオームとエドナに助けだされ、軟禁されていた部屋からぬけだしていた。


「おい、雷音、本当に大丈夫なんか!?」エドナが心配そうに聞く。


「ああ、問題ない、別に拷問とか受けちゃいない。それよりありがとうなオーム、エドナ、助かったぜ」


「気にするな、それに礼を言うのはまだ早い、今はとにかく逃げなければならん、行くぞ、ついてこい」


オームはそう言うと先頭に立って走り出す。


雷音も後を追った。


「ぬーははははは!見つけたぞ脱走者!脱獄とは不届きなやつらめ!このサイボーグレスラーキャプテンダイナマイトボマー様がお尻ぺんぺんしてくれる!!」


すると突然目の前に巨大な機械と筋肉の塊が立ちふさがった。


ドアダ7将軍が一人キャプテンダイナマイトボマーだ。


背後にはさらに多くのサイボーグたちが控えている。


これはまずいかもしれない。


雷音は龍化した拳を構えて身構える。


しかし、そんな彼らの前に立ちふさがったのは意外な人物だった。


「待たれよボマー殿!その者達はまだ子供だ!自分が説得する!手荒な事は控えていただきたい!」


それはドアダ7将軍最強の男、盲目の剣闘王スパルタクスだった。


その鍛え抜かれた鋼のような肉体に纏う水色の鎧、手には一振りの長剣を携えている。


雷音は思わず見とれてしまった。


この男は只者ではないようだ。


だがその姿を見た瞬間同時に全身の毛が逆立つような悪寒に襲われた。


なんだこいつは!?


まるで氷の中に封じ込められたかのような、それでいて炎に焼かれているような、強烈な殺気、いや圧力のようなものを感じる。


「おお~いらしておいででしたかスパルタクス殿!いやいや、相変わらず子供にお優しい!あい分かり申した!ここはスパルタクス殿にお任せいたします。我らは下がっておりましょう!」


そう言ってボマーが支持をだすと部下たちが一斉に道を開けた。


スパルタクスは無言でこちらに近づいてくると、俺の目の前で立ち止まった。


「私はドアダ7将軍が一人スパルタクスともうします。貴公の名は?」


雷音は思わず答えた。


「ら、雷音!我が名は乂家三男赤の勇者乂雷音!!」


するとスパルタクスはおもむろに片膝をついて頭を下げた。


これにはさすがに面食らう。


一体なんのつもりだ?


「雷音殿…乂家と覇星の使徒の若君達にお願い申し上げます。ご4名には当基地での軟禁を受け入れて頂きたい。決して不自由はさせませぬゆえ」


雷音は即答した。


「断る」


それを聞いたスパルタクスは再び立ち上がった。


「どうしてもですか?」


それに対して今度はエドナが言った。


「うちらここで大人しくしているつもりはないで!」


それに呼応するようにオームが言う。


「僕達には僕たちの目的があるんでね」


雷華が続く。


「悪いが私達はここを出る」


エドナも言う。


「そもそもウチらの目的はあなた達と戦う事なんやから、それを受け入れる理由は無いわな」


それを聞いて再びボマーの声が轟く。


「ふん!ならば仕方あるまい!お前達、あのガキどもを捕らえろ!」


そして一斉に兵士達が飛びかかってきた。


だがその瞬間、オームが呪文を唱え凄まじい勢いで黒い炎が舞い上がり、機械兵ごと周囲を焼き払った。


「何!?」


ボマーは慌てて飛び退く。


「地獄の王ベリアルが力をみよ!黒炎の威力思いしったか!!」


「おい、みんな今のうちに変身だ!!急げ!!」


雷音が叫ぶとみんなが頷き、それぞれの封獣器を取り出した。


魔剣クトゥグァも魔王の仮面ベリアルハスターも気絶した時取り上げられたのだが、封獣と契約した雷音達は召喚すればいつでも手元に呼び寄せられる。


全員が変身を終えると改めて名乗りを上げる。


「赤の勇者!雷音参上!」


「黄衣の魔女!覇星エドナ参上や!」


「赤の魔法少女!乂家三女乂雷華!」


「……オームだ」


全員の名前を聞いたボマーは驚愕する。


「なんと言うことだ!そこの黄色い魔王!お前だけノリが悪いぞ!そんなんで一流の悪役レスラーになれると思ってるのか!?」


「え?そこ突っ込む!?」


オームは思わず唖然とする。


そこに雷華も突っ込みを入れる。


「いやそこは『お前らなんかに負けるかぁ!』とかだろ普通」


「うん、オームのノリの悪さはウチもちょっとなぁって思ったわ!」


「俺も俺も!」


皆はボマーに同調する。


「ぬうー、なんと見込みのある子供達だ!だが悲しいかなこれって戦争なのよね!と言うわけでいくぞ若人!いきなり発動!メタモルフォーゼキャンセラー!!」


ボマーの胸の装甲が左右に開き中から巨大な機械の目玉が現れると、そこから放たれた光が皆の姿を変えた。


以前戦闘アンドロイド・イブが放った変身解除の装置と同じである。


ただ違う点があるとすれば全員の服が破け裸になった点である。


だが何故か下着だけはそのままだった。


ちなみに雷音だけ全裸である。


当然彼は悲鳴を上げる。


「うおぉぉぉぉっ!!俺だけなんでえぇっ!!?」


オームとエドナは割と平然としているが、雷華は流石に恥ずかしそうに手で肌を隠そうとする、


それを見たボマーが叫んだ。


「あ、ご、ごめーん!オジちゃんイブ殿みたいに変身解除だけするの苦手だったわ!」


「「このセクハラエロジジィ!」」


雷華とエドナがボマーの顔面にドロップキックを同時に放つ。


ボマーはそれをまともに食らってぶっ倒れる。


そして起き上がると再び叫んだ。


「ぐはぁぁっ!!もう怒ったぞ!こうなれば奥の手だ!!出てこい吾輩の切り札!超破壊ロボセイヴァーデストロイヤー!!!我が側近カメッスよ!準備スタンバイだ!!」


すると突然地面が割れその中から巨大ロボが現れた。


それはまさに鉄でできた巨人といった風体で頭部には角が生えておりその腕や足は大木を何本もまとめてへし折れそうな程太く逞しかった。


その圧倒的な迫力に思わず息を飲む一同であったが、攻撃呪文を用意していたオームがすぐさま呪文を放った。


「黒雷よ!!」


オームが放った黒い雷が一撃で超破壊ロボセイヴァーデストロイヤーをスクラップにする。


ちなみに彼は自分だけさっさと魔法で服を作り着替え終わってる。


「ぎゃー!超破壊ロボセイヴァーデストロイヤーがあああ!?ナイトホテップ様に怒られるうぅぅ!」


破壊されたロボを前に頭を抱えのたうち回るボマー


「おい、まずはヤツの胸の変身妨害装置を破壊するぞ!変身出来なきゃアレには歯がたたない!!」


オームはチラリとこちらを静観しているスパルタクスを見た。


どうやらあちらはまだ動くつもりがないらしい。


なら今がチャンスだ。


オームは素早く魔法を唱える。


「大地よ、我の命に従い、敵を縛り上げろ、ロックバインド!」


無数の岩のツタがボマーへと襲いかかる。


しかしそれより先に動いた者がいた。


壊れたと思ったロボより、鉄の鎧を着た亀の亜人、いやカメ型サイボーグが飛び出したのだ!


「オヤビン!あぶねー!!」


亀男は即座に主を守るべく装置を発動する。


「バーリバリバリ!カメバリアー!!」


紫雷を放つ光の壁がロックバインドのツタを打ち砕く。


「何っ!?」


驚くオーム


だが彼は冷静に次なる攻撃の準備を整えるべく呪文詠唱する。


「おお!でかしたぞカメッス!!」


ボマーがカメの亜人カメッスを褒める。


「んにゃろ!」


黒服戦闘員から黒パンツをぶん取り、着替え終わった雷音がドラゴンのブレスを吹く。


「バーリバリバリ!」


カメッスがバリアーで火の吐息を防ぎボマーがカメッスの後ろからバルカン砲を連射する!


あわてて回避する雷音


「ふはははは!いくら強い力でも当たらなければどうという事は無いのだ!」


勝ち誇ったように笑うボマーだが……


「誰が当てるって言った?」


そう言って不敵に笑うオーム。


次の瞬間だった。


いきなりカメッスとボマーの姿が消えた。


いや、正確には消え去ったように見えたのだ。


「……え?あれ?」


キョロキョロする雷音


だが耳をすませば「「あーれー!」」と言うボマーとカメッスの悲鳴が下から聞こえてくる。


見れば、さっきまで床があった場所に大穴が開いている。


ボマー達はその大穴からまっすぐ下に落ちて行ったのだ。


オームの用意していた呪文はボマー達を攻撃する為の呪文じゃなく、真下の床をぶち抜き基地最下層まで落とす呪文だった。


彼等はイブのように飛行能力は持ってないようだ。


「お見事な作戦です!」


スパルタクスがオームに拍手を送る。


すべてのドアダ兵が真っ逆様に墜落する中、彼だけは無事だった。


ドアダ最強の男スパルタクス、彼だけは穴に落ちることなく何もない空中に立っていた。


「ちぃっ!さすがに一筋縄ではいかないか……」


舌打ちするオームに対し、警戒は見せども殺気を感じさせないスパルタクス。


「おいみんな、今なら変身できるぞ!」


そう言ったのは雷華だ。


確かに今ならば、変身すれば一気に形勢逆転できるかもしれない。


「よし!行くぞ皆!」


全員が一斉に変身しようとした、まさにその瞬間だった。


「おっと待ちな!」


その声に振り向くと、そこにはあのキャプテンダイナマイトボマーとカメッスがいた。


「何!?お前ら飛行能力があったのか!?」


驚くオーム


「いや違う!あいつらの足元を見ろ!アレは氷だ!恐ろしく透明度の高い氷の柱が下からボマーたちを持ち上げてるんだ!!」


雷華がカラクリに気づいて叫んだ。


見ると確かに、よく見るとボマーたちの足の下に巨大な氷の地面が出来ているではないか。


そしてそれは徐々に伸び、まるで蛇のようにうねっている。


さらによく見てみれば、その根元には氷の鎖があり、その鎖はスパルタタクスの腕まで伸びていた。


「あ、あれは氷鎖モビーディックラーケン!玄武の封獣や!!!」


「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲起動!!」


ボマーの股間あたりから巨大な銃口がニョキニョキのびて雷音達に照準をあわせた。


「喰らえ!白いネバネバトリモチ弾!!!」


ボマーの股間から白い拘束捕獲用のトリモチが発射され雷音達の身体に絡みつく!


攻撃を受けエドナと雷華が凄まじい絶叫を上げる!


精神的に大ダメージなようだ。


「こ、この野郎まじか!?なんつーお下劣な攻撃を!?」


「うおおおお!!これはっ・・・きつぅいぃぃぃっ!!!」


あまりにくだらない攻撃モーションに思考が一瞬止まってしまったのが敗因だった。


彼等はトリモチ攻撃をまともにくらい動けなくなってしまったのだ。


エドナに至っては既に白目を剥いて失神していた。


「エドナ姉しっかりしろ!この程度の攻撃なんかで情けないぞ!うう〜っ、この変態ハゲ!!お前あとで絶対全殺しだからな!!!」


雷華は半泣きになってボマーを睨みつける!!


「ハ、ハゲじゃない!!吾輩の頭は剃ってるだけだ!!ええい戦闘員共!小僧共を元の部屋に閉じ込め直せ!あと部屋にメタモルフォーゼキャンセラー装置を設置しとけよ!」




ボマーの命令により再び部屋の入り口は封鎖される。


皆一人ずつバラバラの部屋に閉じ込められる。


そして今度は小さな窓が一つ設置されただけだった。


「クソッ、これじゃあ脱出できないじゃないか!」


悪態をつく雷音


とりあえず今日はもう疲れたので、彼は大人しく寝ることにした。

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