第28話 乂阿戦記1 第六章- 灰燼の覇者阿烈とケルビムべロスの虎-2
それはあまりにも衝撃的な内容だった。
事の始まりは約100年前、神々の最終戦争ラグナロクが終わってすぐの時代に遡るという。
当時あらゆる宇宙の人口の約6割が謎の奇病にかかり死亡したのだそうだ。あらゆる宇宙のあらゆる人類が、しかも生き残った人々の中にも続けて原因不明の症状で命を落とす者が大勢現れたらしい。
さらに悪い事にその病気に感染する確率は極めて高く、治療法もなく致死率100%という絶望的な状況であった。
その病気で死んだものは人以外の化け物、例えばゾンビや邪神の眷属などに変質し、見境なく人間を襲う。
化け物になった者は他の人間を襲い化け物の仲間を増やす。
この事態を受け当時のヒト種達はなすすべなくただ絶滅を待つばかりとなったという。
しかしここで立ち上がった者達がいた。
今は滅びた女神国の道士達とオリンポスの神々である。
彼らは世界樹ユグドラシルの力を借りて、奇病の原因は創造神アザトースが作ったエクリプスと呼ばれる新しい神の呪いだという事を突き止めた。
そしてその対抗手段として女神国の持つ武器や宝具に神樹ユグドラシルの力を注ぎ込み、その力を選ばれし者に分け与え、呪いを撃退、または治療する事で人々に希望を与えたのだという。
その結果生まれたのが魔法少女と呼ばれる者達だ。
人類の為活躍する魔法少女達への信仰心が邪神を上回る力となり奇跡を起こすに至ったのである。
ただし、いくら魔法少女達でも全ての人を救えるわけではなかった。
ユグドラシルの力をもってしてもエクリプスの呪いを全て治療する事は不可能だったのだ。
新たなる邪神エクリプスと魔法少女の戦いは激しく続いた。
だが50年前ついに12人の魔法少女達がエクリプスを封印する事に成功した。
のちにその12人は魔法女神と呼ばれるようになったという。
だが45年前亜人達の国ズーイを統べる妖魔皇帝ヨーが邪神エクリプスの力を我がものにしようとした。
強欲なヨーはエクリプスの呪いの力を軍事戦略における兵器としての活用を試みた。
ヨーはこともあろうに白の魔法女神である自分の実の娘エクスを邪神復活の生贄として使った。
生贄の儀式でエクリプスは白の女神エクスに取り憑き復活を果たしてしまったのだ。
これまで実体を持たぬフワフワした存在のエクリプスが初めて実体を得た瞬間だった。
白の魔法女神の身体を得たエクリプスは翠のヴァールシファー、黄緑のシュブニア、黄色のエキドナ、紫のエメサキュバ、灰のラスヴェードの魔法女神達を諫言で誑かし自軍に取り込み、自分を封印した女神国に復讐しようとした。
復活した邪神を倒すため女神国とオリンポスは次の魔法女神になり得る5人の魔法少女を集めた。
赤-火のホエル、蒼-水のユノ、橙-大地のアタラ、桜-空のユキル、水色-風のプリズナの5人である。
だが当時まだ未熟な魔法少女達にエクリプスの討伐は困難だった。
故に少女達は我が身を犠牲にしてエクリプスと共に"封印の柱"で歳を取ることなく眠る事を選んだ。
自分達がエクリプスと眠っている間に人類がこの邪神を封印する術を見つけると信じて…
彼女らは人類が妖魔帝国を打ち破り、呪いで化け物に変えられた仲間を元に戻してくれると信じていた。
実際エクリプスが封印されてる間に女神国は妖魔帝国を滅ぼすことに成功した。
当時女神国には武術や仙術を極め神の域に至った超人が多くいた。
女神国の聖王イルス、初代黒天ゾディク、後のドアダ首領ガープ、鉄棍聖君ウィヴィヴァ、金剛悪鬼ドルガ、五剣のユドゥグ、雷音達の父乂舜烈、黒の女神の使者暗黒天馬、鉄仮面楚項烈、剛弓覇龍、覇星ゴーム、死神古粕、鳳龍阿琉、応龍獅子、蒼天鉄拳、大参謀龍道龍、国本文珠……
その超人達以外にもオリンポス12神の協力もあった。
だが少女達は裏切られた。
妖魔帝国を打倒した後、女神国の名君聖王イルスが亡くなった。
その後を継いだのは、のちに最悪の暴君として悪名を轟かす狂王エンザだった。
「今でもあの当時のことを思い出すとハラワタが煮えくりかえる……」
ガープは怒りに肩を震わせ話を続ける。
女神国の狂王エンザは妖魔皇帝ヨーの影武者だったガープを裏切り者として処刑しようとした。
ガープがヨーの影武者となったのは先代王イルスより間者として諜報の任を賜ったからである。
だがエンザはガープの一族が自分の王位継承を心良く思ってなかったので、言いがかりをつけて皆殺しにしようとした。
結局ガープは女神国から亡命しドアダと言う秘密結社を作ることになる。
「あの時は毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際じゃった。Dead or Alive Days…略してDOADA…これがこの組織の名前の由来じゃ」
「お祖父さまは苦労なさったんですね…」
獅鳳が祖父を労る。
「だが結局エンザは圧政がたたってクーデターが起き王位を失った。女神国最後の王"覇星ゴーム"に倒されたんじゃ。ユキルや、お主の許婚者オームは覇星ゴームの息子じゃ…今は無き女神国の正統なる王位継承者じゃ」
「……そうだったんですか」
オームの父親と聞いてユキルは複雑な心境になる。
(オームちゃんのお父さんってそんな凄い人だったんだ……)
「ワシらはエンザへの復讐のため妖魔帝国の残党を集め蜂起したのじゃ」
しかし所詮寄せ集めに過ぎないので各地で敗北を重ねた挙句、ついに追い詰められてしまった。
その時、オームの父である覇星ゴームや英雄ゾディクが現れたのだ。
ゴームとゾディクとガープは力を合わせ狂王を撃退した。
だがエンザの悪政のせいで民心はすっかり王家から離れてしまった。
女神国の民は、新たな国と新たな王を求めた。
結局民は英雄ゾディクを推しゴームを女神国から追放し、女神国は龍麗国と名前を変えゾディクが新たな王となった。
「惜しきかな覇星…彼奴は名君たりえる資質をもち合わせたのに…」
その後龍麗国はゾディク一族を中心とした国家となった。
だがそれはエクリプスの狂信者達による巧妙な罠だった!
「狂王エンザとの戦争はおびただしい死者を生んだ。数多くの勇者を失った。そう、神々の最終戦争ラグナロクと同じように……エクリプス狂信者共は戦場の死者を生贄にしてエクリプス復活の儀式を行ったのじゃ!それが15年前じゃ!!エクリプスが蘇ったことで、皮肉にもユキルやユノ達の封印も解けたのじゃ!」
「そのエクリプスの狂信者と言うのは狂王エンザなの?」
ユキルの質問に対しガープは苦渋の表情をうかべ絞り出すように答えた。
「その狂信者はワシの…ワシの娘で…ユキル、お主の前世の母カンキルじゃ……」
「え!?」
衝撃の事実を知り驚くユキル。
「ワシの娘は欲深で愚かな娘じゃった。龍麗国第二婦人の座では満足できず、自分が可愛いがっていた未子のイドゥグを次の王に据えようとエクリプスと密約を交わしよったんじゃ!そしてそれを実行しようとした矢先に死んだ。おそらく暗殺されたのであろう……あの愚か者が!!!」
ガープは怒りに震え拳を握りしめた。
「カンキルの愚挙はあの恐ろしい男"五剣のユドゥグ"を怒らせた。ゾディク正妻の王子だったユドゥグは自分の王位継承の邪魔になる存在を次々と粛正していきおった。ユキル、前世でお主は怒れるユドゥグに交渉を持ちかけたんじゃ。『私がエクリプスや邪神を倒すからヨドゥグ兄さんとイドゥグ兄さんの命を助けてください』と……ヌシは家族を守るため戦った。結果邪神どもやエクリプスは封印され世界は救われた。だがその時の激しい戦いでお主は死亡したのじゃ。死にかけたのではない。死んだのじゃ。だが死んだお主を即座に輪廻転生させ現代に復活させた者がおった。15年前のお主の親友でユドゥグの娘だったユエじゃ!そしてその協力者"鉄仮面"楚項烈殿じゃ。ユエは時の女神ルキユを信奉する黒の魔法少女でな、時間魔法でお主の身体を胎児以前の状態に戻し、そしてユキルの魂を精霊秘術で己の胎内に引き留めていた楚項烈の奥方が胎児以前の状態のオヌシを胎の中に移したんじゃ。コレは楚項烈殿から聞いた話じゃ。」
「え?項烈お父さんから!?」
神羅には2人の父がいる。
正確には2組両親がいる。
一組は雷音達の父と母、乂舜烈とホエル
そして自分と羅漢の実の父楚項烈とその妻風の魔法女神プリズナ・ヴァルキリードである。
乂舜烈と楚項烈は義兄弟の盃をかわした兄弟分同士だった。
だが7年前その絆は絶たれることになった。
二人が懇意にしていたアシュレイ族内でトグリル・アシュレイとゴブディ・アシュレイによる族長争いの内紛が起こった。
乂舜烈はトグリル・アシュレイの味方に、楚項烈はゴブディ・アシュレイの味方にそれぞれついた。
結果乂舜烈と楚項烈は戦場で戦う事になり、乂舜烈は心ならずも義兄弟を手にかける事になる。
楚項烈には羅漢と神羅と言う二人の子供がいた。
乂舜烈は楚項烈へのせめてもの償いから二人の子供を引き取る事にした。
その時羅漢6歳、神羅4歳であった。
乂舜烈と妻ホエルは二人を自分達の子として分け隔てなく接し育てた。
しかし悲劇は再び起きた。
二人を引き取り五年後、今度は乂舜烈に不幸が襲ったのだ。
2年前である。
彼は死んだ。
何者かに毒を盛られたとの噂もある。
皮肉なことにその後ドアダが後ろ盾となってるタイラント族はドアダより受けた潤沢な資本を武器に、乂族の民にいい生活を提供すると諫言で惑わし、乂族のほとんどの人間を阿烈の幕営より引き抜いてしまった。
孫を溺愛するドアダ首領は間接的ではあるがユキルに試練を敷いたことになる。
そして今現在……。
今、乂羅漢こと銀仮面はドアダ首領とユキルの会談を離れた所から見守っていた。
その銀仮面にドアダ実質の支配者ナイトホテップが声をかける。
「よう、銀仮面」
「………何かご用でしょうか?ナイトホテップ様」
「いやなに、お前さん俺たちが施した洗脳とっくの昔に解けているんだろ?なんでまだ洗脳されているふりをしてるんだ?」
羅漢が銀の仮面を取りナイトホテップを見る。
彼のその眼光は自己の意思の光があった。
「……いつから気づいておられた?」
「お前さんが勇魔共鳴を会得した雷音と互角戦ったと聞いたときさ。ありえねえって、カカ!お前の弟を見てきたが、あの程度の未熟者に俺やスパルタクスと同格のお前が手こずるわけねえだろ?弟達に手心入れて戦ってただろ?」
「…………」
「それでなぜそんな茶番を続けているのか興味があってな」
「…………貴公も武人なら武の頂を目指したいと思った事はないか?」
「……武の頂とはお前さんの兄乂阿烈の事か?確かにあいつは強い、それは認めるぜ。正直タイマンじゃ俺も親父も勝てる気がしねぇ。……いや、ドアダ最強のスパルタクスならもしかしたら……」
「…………私は知りたいのだ、私が何を求めているのか、私の本当の願いとは何なのかを…………」
「ふーん、まぁいいや、ところでお前はこれからどうするんだ?」
「どうするとは……?」
「とぼけんなよ、このまま何もせずにじっとしてるつもりかってことだよ」
「……無論兄を倒すつもりだ。そのためには私はドアダの洗脳された尖兵でなければならぬ……でなければ兄を殺した時、もしくは私が死んだ時、育ての母ホエルが苦しむ……武術家同士の腕比べの殺し合いなど茶飯事なれど、己が慈しみ育てた義理の息子と実の息子が殺し合っただなど、どれだけ嘆き悲しまれることか……正直あの優しき母への親不孝は心が壊れるほど痛む。だが洗脳下での不幸な結末となればその悲しみもいくばくかは薄れようもの……手前勝手は承知だが協力してくれぬか?貴公の力が欲しい。代わりにこの身を戦の道具に使ってくれてかまわぬ…」
「へぇーそりゃ面白そうだ!武の道にそこまで狂うか求道者?まあいいだろう、お前さんのイカレ具合が気に入った…手伝おうじゃねーか」
「私が狂ったのは君らが私に施した洗脳手術の影響もあるのだろう。私は私の心の奥底から湧き上がってくる破壊衝動を日に日に抑えられなくなっている……いや、正確には世界最強の男への挑戦と憧れを止められないでいる……」
「フン、武求のサガってなあ難儀なもんだ、まあいいさ、お前の力があの怪物にどこまで通じるのか俺も興味がある。せいぜい楽しませてもらうぜ!」
「期待に添えるかどうかはわからぬぞ」
「ククク、それじゃ早速行くか?最近ウチがパシリに使っているタイラント族の内部がどうもキナくさい。近く乂家と戦争が起こるかもしれん。様子を見に行くとしようぜ」
こうして二人はその場を後にしたのだった。
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