第26話 乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-4
人間に似た輪郭を持つ途方もない巨体、人間を戯画化したような顔、鮮紅色に燃え上がる2つの目を持ち、足には水かきがある。
「眼のある紫の煙と緑の雲」と表現したらいいだろうか……
無風なのに風のうなりが聞こえる。
風音は徐々に徐々に大きくなっていく。
「ヌシらの体力魔力を回復してやる」
ガープが手をかざすと魔法詠唱も魔力発光も無しで一瞬で皆の体力魔力が回復した。
「い、一瞬で俺たち全員を全回復しただと!?」
これまで見てきた魔道士達とは、まるで別次元の魔法技量を見せられ皆が絶句する。
「イブ、ひよっこ供をサポートしてやれ……仮にも封獣を従える勇者と巫女が6人も揃っておるんじゃ、外なる神でもない旧支配者ごとき3分くらいは耐え抜いてみよ…」
そう言って笑う老人の顔は皆にはまるで悪魔のように見えた。
「オ、オーム…あの爺さんめっちゃヤバいわ!どれくらいヤバいかと言うとウチらのじいやウィウィヴァとドルガ並にヤバい!!」
エドナが冷や汗を流しながらオームに言う。
オームは無言で頷くだけだった。
イブはオーム達を守るように蘇るイタクァの前に立つ。
イブのメイド服が光に包まれ変化する。
「武装展開、殲滅兵器起動…対邪神専用戦闘兵器飛行外骨格バーストエラー起動…自動追尾型ホーミングミサイル発射準備完了……」
イブの背中が大きく開きそこから現れた魔法陣のようなモノから無数の機械の羽が現れた。
その羽にはそれぞれ銃火器が装備されている。
その数ざっと百は超えているだろう。
飛行外骨格を纏うイブの姿も頭部以外が水色のクリスタルの様な半透明のボディに変身している。
「目標補足・照準固定・オールロックオン・カウントダウン開始……10秒前・9・8・7・6・5・4・3・2・1・ファイア!」
ドドドドドドドドドドドド
「ミサイルの弾幕で時間を稼ぎマス。皆様は今のうちに変身ヲ…『HERO変神』『魔法少女変身』デス」
ドドドドドドドドドドドド
ミサイルの連射で洞窟の天井に穴が空いていく。
山は形を変え洞窟内は洞窟外になった。
だが無風の風のうなりは静まる事無くより大きさを増していく。
漢児は皆に言う。
「皆んな変身じゃダメだ!機神招来だ!全員が持てる全力を出すぞ!!!獅鳳、お前は俺の横で作戦参謀として知恵を絞ってくれ!」
漢児の言葉に全員が頷き封獣の力を解き巨大ロボを召喚し始める。
(ほう、良い判断だ……狗鬼漢児、魔法少女の助力無しで機械神を招来するか……いや、あれはここに来る前に女神の口づけの儀を受けてきたのか?…いずれにせよ切り札の使い何処をよくわかっておるわ)
ガープが素直に漢児を褒める。
ゴオオオオオオオオォォォォ!!!! 轟音と共に土煙が舞い上がる。
その中から現れたのは赤、蒼、黄色の三体の機械神だった。
炎を操る魔剣クトゥグァは鳳凰を思わす巨大ロボとなり雷音と雷華を乗せる。
蒼き戦神帯アーレスタロスは蒼狼を思わす巨大ロボとなり狗鬼漢児と獅鳳を乗せる。
魔王の仮面ベリアルハスターは牛の角を持つ黄衣の魔王となりオームとエドナを乗せた。
「うおおおおっしゃあああっ!!」
雷音が叫ぶと同時にクトゥグァが炎のブレスを吐き出す。
それは炎の竜巻となって辺り一帯を焼き尽くす。
対して『風に乗りて歩むもの』イタクァも氷のブレスを吐く。
二つのブレスがぶつかり合い凄まじい爆発が起きる。
(ほほうアレを相殺したか、あの小僧と小娘…最強の封獣クトゥグァの力を中々に使いこなしとる。流石は怪物阿烈の弟妹だけの事はある…)
ドアダ首領は今度は雷音と雷華を評価する。
そ爆煙の中から黄衣の魔王ベリアルハスターと蒼き狼アーレスタロスが飛び出す。
二人は二手に分かれそれぞれ別の方向に向かって飛ぶ。
「行くぞアーレスタロス!合体技だ!!」
「タイミングはいちにのさんだ!!いくぞ!!!」
「3・2・1・ゼロ!!」
「1.2の3っっ!!」
ガシィッ!!ドオォォォン!!
技のタイミングが全然合わずイタクァに攻撃を避けられたあげく、水かきのついた巨大な手で吹っ飛ばされるアーレスタロスとベリアルハスター
「おい〜〜!?いちにのさんで合わせてろって言ったじゃん!?」
「うるさ〜い!うちらは3・2・1・ゼロの方が合わせやすいんや!!」
戦闘中にも関わらず喧嘩をはじめる漢児とエドナ
(はあ〜?なんじゃこやつら?コンビネーションは全然なっとらんのぅ…)
今度は逆に呆れかえる。
しかしすぐにニヤリと笑う。
(なるほどな、これはこれで面白いではないか、ならばワシもそろそろ本気を出すとするかな……)
ホイ、と指をひと振りふるや空に見た事もない巨大な魔法陣が浮かび上がり大魔法が発動した。
封獣達の力は向上し、邪神の力は抑制される。
さらに操縦士たる雷音達の魔法の力も増幅されている。
「え?なんだこれ?」
雷音は突然のことに驚く。
「チ、チートや、チート過ぎるであの爺さん!!……」
エドナは苦々しく言う。
「……確かに恐ろしいな、イタクァ戦が終わったあとあの御老人と戦うのはなんとか避けたいが……」
オームがコックピットで思案する。
コックピットは雷音達と同じように操縦士が前座席、魔力を供給管理する巫女が後方の魔力培養カプセルに全裸で浮かんでいる。
シュンシュンと音を立て白い蒸気のようなオーラが立ち昇る。
その様はまるで魔法少女アニメに出てくるようなエフェクトだ。
「オーム、グングニールレプリカの精製が丁度終わったで!」
そう言ってエドナが手をかざすとベリアルハスターの手に光が集まり槍の形となる。
その光はベリアルハスターの身長の1.5倍程もある投槍となった。
そして魔王機は槍をブンッと振るった。
するとその軌跡にそって無数の光の矢が生まれ雨霰のように降り注ぐ。
「うおっ!!」
咄嗟に避ける雷音達
槍は全弾自動追尾でイタクァを狙う。
だがイタクァは想像絶するスピードで飛び回り全ての攻撃をかわす。
そして長い手足で一発ずつ槍を叩き落としていく。
「チッ、やっぱ速すぎるなぁ」
舌打ちをするエドナ、だがその顔はどこか嬉しそうだった。
彼女はもともとスピード型なので速い敵は嫌いではないらしい。
一方雷音は大苦戦していた。
炎の魔剣クトゥグァの攻撃は強力無比で避ければ地面は融解し、まともに喰らえば骨まで焼き尽くされそうな勢いである。
だが雷音には技を繰り出す際隙の多い大振りをしてしまう癖がある。
そこを突かれて大ダメージを負うことが何度もある。
イタクァはそんな隙を見逃さず、攻撃してくるクトゥグァを弾き飛ばし蹴りを入れる。
吹っ飛ぶクトゥグァ、すかさず追撃しようとするイタクァだったが突然後ろから殺気を感じ振り返る。
そこにはバズーカーを構えた飛行外骨格をまとったイブがいた。
イタクァは一瞬驚いたもののすぐ余裕の表情に戻りクトゥグァの方を向く。
20メートルの封獣達に比べてイブは1メートル70センチにも満たない小型だ。
クトゥグァは立ち上がりイタクァに切りかかる。
イタクァはそれをいなしながら後退し距離をとる。
そこに再び襲いかかる炎の剣。
簡単に躱そうとするイタクァ
だが、突如風の邪神は後頭部に予想外の衝撃を受け、動きが一瞬止まってしまう。
イブのバズーカ砲が当たったのである。
『!!?』
クトゥグァの攻撃を完全に回避できず腕をかすめてしまう。
侮っていた。
あんな小さなアンドロイドがこのような破壊力を秘めていたとは…
あの小さなアンドロイドの砲撃を避けながら反撃するのは至難の業だ。
まず先立ってイブに一撃を入れようと攻撃を繰り返すイタクァだったが予想以上に素早くなかなか当たらない。
「くくく、イタクァよ、イブはお前らを殲滅するため造られた対邪神用の決戦兵器だぞ」
ドアダ首領がイタクァを煽る。
『なんだと!?』
風の唸りがそう答えたように聞こえた。
「我らはアンドロイドに封獣の巫女の力を移植する実験に成功した!封獣の力を宿した史上初の戦闘アンドロイド・ジュエルウィッチシリーズ…それがこのイブ・バーストエラーよ!!」
そうこうしているうちにも雷音の炎の剣が降り注ぎ、とうとう直撃を受けてしまう。
『ぬう』
「よし」
雷音はガッツポーズをする。
『おのれ……』
挿絵(By みてみん)
イタクァがよろめいた瞬間を狙ってクトゥグァは飛びかかり魔剣を振るうがすんでのところでかわされてしまう。
「雷音、よくやったぞ」
「ああ」
「次はオレ様だな」
今度は漢児が仕掛ける。
アーレスタロスの持つビームサーベルが風を切り裂き、イタクァの首を狙う。
が、当たらない!
100メートルあったイタクァの巨体が一気に小さくなったからだ!
コケおどしの無駄な巨体では無く、自身を封獣機と同じ20メートル級のサイズに圧縮したのだ!
体は細い骸骨のような印象をそのままで四肢が大きく長くなり、四肢のいたる所の棘が凶悪に伸びた。
イタクァはそのままクトゥグァの懐に入り込み、蹴りを入れる。
「ぐはっ!」
吹っ飛ぶクトゥグァ。
そこへ追撃をかけるイタクァだが、アーレスタロスとベリアルハスターが立ち塞がり、阻止した。
その間に体勢を立て直したクトゥグァが背後から斬りかかる。
間一髪で避けたものの、背中の一部に傷を受けるイタクァ。
さらにイブが攻撃を仕掛けるが、それを振り払い逆にイブを蹴り飛ばす。
イブはそのまま飛んでいき、岩山に激突してしまった。
バチバチと音を立て、飛行外骨格が爆発する。
そして飛行外骨格は光に包まれ消え100枚あった機械の羽も同時に光に包まれ消えた。
「おいロボ子!?」
心配する狗鬼漢児にイブは叫ぶ。
「……当機の心配…は…無用…デス!…マスター…がじきに…封印用の…邪神石を完成…させマス…構わず…戦って…くだサイ……」
「ええい!強がるな!オイ獅鳳、ハッチを開きロボ子を回収する!俺は操縦に専念するからお前が受け止めてやれ!!」
イブの回収に向かうアーレスタロス、
その後をイタクァが追う!
させじとクトゥグァとベリアルハスターが立ち塞がる!
漢児はアーレスタロスの胸にあるコックピットのハッチを開けてアーレスタロスの手で慎重にイブを回収する。
「おらあっ!」
牽制を買って出たクトゥグァが炎の魔剣を振り下ろすと、その熱量だけで周囲の地面や木々を焼き尽くす!
しかし、その攻撃を軽々と避けるイタクァ。
(ち、やっぱり素早いな)
雷音はさらに連続で攻撃するが、ことごとく避けられてしまう。
その隙を突いてイタクァの攻撃が入る。
とっさに魔剣でガードするもクトゥグァは吹き飛ばされてしまった。
そこに追い打ちをかけようとするイタクァだったが、後ろからアーレスタロスが飛びかかってきたため中断せざるを得なかった。
「漢児、雷音聞こえてるか?今オームが取っておきの呪文を用意しとる。あと少しだけ時間稼ぎたのむで!!それとアーレスタロスの稼働時間もそろそろ限界や。やっぱほっぺのキスだけじゃこれがいっぱいいっぱいや!と、いうわけでオーム早うせえよ!!」
通信装置を通してオームの声が聞こえた。
「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ! 」
それを聞いた漢児は、雷音に合図を送る。
「よし、雷音!一、ニの三だ!!合図は俺じゃなく獅鳳、お前がだせ!なあに、お前らのコンビネーションなら大丈夫だ!」
同時であった。
「「イチ、ニィのサン!!!」」
同時に駆け出すクトゥグァとアーレスタロス
「いくぜ、雷音!!」
「おう、獅鳳!!」
赤い魔剣と青いビーム、サーベルをたずさえ二人は左右に別れ挟み撃ちを仕掛ける。
『甘いわッ!!』
しかし二人の動きは読まれており、やすやすとかわされてしまうかに見えた!
だがそうはならなかった。
アーレスタロスとクトゥグァのコックピットハッチが開き中からイブが砲撃を雷華が炎を纏ったグングニール・レプリカの投槍を放った。
攻撃はそれぞれイタクァの右目と左目に命中する
『おのれぇぇぇ!』
その怒りの叫びと共に傷ついたイタクァの目が光り、口から光線を発射する!
その光はクトゥグァに直撃した。
だが間一髪で防御に成功したようだ。
だがそれでもダメージは大きく片膝をついてしまう。
その隙に再び間合いを詰めてくるイタクァに対し今度はクトゥグァが炎の剣で迎え撃った!
だがその斬撃も軽くいなされ逆に蹴りを入れられてしまう。
そして続けざまに強烈な拳打がクトゥグァに炸裂した!
その衝撃に吹き飛ぶクトゥグァ、そのまま地面に叩きつけられ倒れこんでしまった。
一方、アーレスタロスもまた同様に強力な一撃を受け、その場に膝をつくことになった。
そこへすかさずイタクァの追撃が迫る。
「くっそぉぉぉぉぉお!!!」
その時だった!
辺り一面が暗闇に染まる。
それは暗闇ではなく実体化した呪いだった。
無数の悪霊や悪魔、怨念、邪気そして触手など、とにかく邪悪な手がイタクァの動きを封じるべく悍ましくうねり風の旧支配者に絡みついた。
それはオームの呪文によるものであった。
「ほう!アレはなかなかのもんじゃ!
オームといったか?あやつハスターの触手を操って見せおった!」
ガープがオームに賛辞を送る。
「雷音いまだ!」
呪文の効果により一瞬動きを止めたイタクァ、そのチャンスを逃すまいとクトゥグァは渾身の力を振り絞り魔剣を振り下ろした。
「くらえぇええ!!」
魔剣はイタクァの体を両断していた。
「やったか!?」
しかしその期待はすぐに裏切られることとなる。
なんと真っ二つにされたイタクァはその断面同士を合わせると元通りになってしまったのである。
『無駄だ……いくら傷つこうと我は滅びぬ』
「……くそぉ」
悔しそうな表情を浮かべる雷音。
「いやいやなかなかどうして!頑張ったではないかクソがきども」
パチパチとガープが拍手をおくる。
「残念じゃがイタクァ、邪神石は完成した。さっさともう一度封印されるがいい」
『……なんだと?』
訝しげな表情を見せるイタクァに対しガープが言う。
「だーかーらーお主らが戯れている間に邪神石は完成したの。ドゥユウアンダスタン??」
イタクァの問いに答えるかのように、再び空間に歪みが生じたかと思うとイタクァはガープが持つ邪神石に吸い込まれていった。
「……よし、これで一安心じゃな」
邪神石をしまいながら満足気に頷くガープ
『おのれぇえ!!』
怒り狂ったイタクァは自ら邪神石の中から外にでるべく突進する!!
「あー無理無駄、その邪神石はワシの魂のカケラほんのちょっぴり使って作った特注品だから、阿烈みたいな化け物でもない限り壊せはせんて…」
『うおおおおおお!』
しかしそれでもなおイタクァの勢いは止まらず、そのまま突き進みついに力を使い果たして眠りについた!
『うおおおおぉ………』
「……やれやれ最後までうるさい奴だ。もう100年寝とけ!」
そう言いながら彼は頭部を破壊され倒された氷の龍に邪神石をかざした。
すると龍は蘇りガープに傅いた。
「氷龍よ、またイタクァ封印の番をまかせるぞ」
龍はガープに答えるように吠える。
そしてガープは漢児達6人の方を見る。
三機の封獣は時間切れで消え、あとには生身の漢児、雷音、雷華、オーム、エドナ、獅鳳がおぼつかない足取りで立っていた。
「よくぞここまで戦ったな勇者達よ……」
ドアダ首領の言葉にその場に居た全員が耳を傾ける。
「…でどうする?ワシと戦ってみるか?今ならまだ許してやってもよいが?」
全員の表情に緊張が走る。
満身創痍だが剣を構えガープに相対する。
構えた瞬間目の前のガープが消える。
彼はいつの間にか自分たちの真後ろに移動していた。
「…なーんて冗談じゃ。満身創痍のひよっこをいじめる趣味なぞ持ち合わせておらんわい」
ドサドサドサ
6人全員が一瞬で倒れ気絶する。
全員が目にもとまらぬ手刀の一撃で気絶させられたのだ。
「イブ傷の具合はどうだ?」
「はい、マスター、自動修復完了まで。あと30分ほどかかりマス」
「ふむそうか、オイ戦闘員供、このヒヨッコどもを基地の適当な部屋に軟禁しておけ」
イーと敬礼して、戦闘員たちが雷音達を運んでいく。
「あ、あのマスター……」
「どうしたイブ?」
「緑の衣装の少年は獅鳳おぼっちゃまデス……間違いありません。DNA情報もスキャンしました。リュエル様のご子息獅鳳おぼっちゃまデス…」
「な、なんじゃとぉ!?」
ドアダ首領は戦闘員たちに連れ去られて行く獅鳳を見た。
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