第25話 乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-3

時は少し遡る。


神羅達より先に狂気山脈に出発した雷音達だが彼らの道のりはとんでもない苦難の連続だった。


それは彼らが予想もしていなかった事態だったのだ。


そもそも何故、彼らはあの様な危険な山に登ろうとしたのかと言うと、そこに山があるから登ると言うような理由ではなく、あくまでも青の魔法少女を助けるという勇者としての使命の為であった。


まだ自覚は足りないが彼らに与えられた使命とは最悪の魔女エクリプスと邪悪な外なる神々の復活を阻止する事である。


魔女と邪神は世界を崩壊させる程の脅威である。


だが邪神を復活させようと企む輩もいる。


この山は旧支配者イタクァを信奉する雪男達の部族ウェンディゴ族の縄張りだった。


その者達はこの山を自分達の物だと主張、あろうことか山頂で儀式を始め邪神復活の儀式を行おうとしていたのだ。


ウェンディゴ達はパーティにいたエドナと雷華を邪神の生贄に捧げようとパーティに襲ってきた。


当然、そんな事を許す訳にはいかないので勇者としてウェンディゴ達を返り討ちにして撃退した。


しかし問題はそれだけではなかった。


山の麓には恐ろしい怪物達がいたからだ。


それこそがウェンディゴ族の守り手と言われる巨狼フェンリルとその群れなのである。


その数は100頭を超えると言われており、その巨体で暴れられたらひとたまりもない事は想像に難くない。


さらに最悪な事にそのフェンリル達を従えているのがかつて旧支配者の一柱として名を馳せた『風に乗りて歩むもの』イタクァだと言うのだからたまらない。


そんな訳で現在、勇者達は死地に赴く兵士の様に決死の覚悟で狂気山脈に挑もうとしていたのだった。


そして彼等は今、その最後の難関とも言える狂気山脈登山ルートの入り口まで来ていたのだ。


そこは大きな洞窟で、まるで地獄に続いているかのような不気味な雰囲気を漂わせていた。


「さて、ここから先はいよいよ本格的に魔物が出始めるで」


エドナが注意を促す。


「っていうかフェンリルだっけか?あの10メートルあるデカブツ狼が10体くらい洞窟の前で待ち伏せてやがるぜ?あとその周りを毛むくじゃらの雪男共が100人ほどいやがる。」


狗鬼がボリボリ頭を掻いてボヤく。


「これは流石にヤバイぞ……」


雷華が顔をしかめる。


「しかもどうやら俺達が来るのを待っているらしい」


「ええ……どうするの?」


「ここはやっぱり強行突破しかないだろう」


「そうね」


「では僕が先制攻撃の手筈を用意します」


「頼んだわ」


「任せろ」


そう言うとオームはアイテムボックスから一本の槍を取り出した。


「ほう……それはまさか!」


雷音が興味深げに槍を見る。


「神槍グングニールレプリカ、古のオーディン神の息子が始祖フェンリルを倒した時に使ったといわれるグングニールの槍のレプリカ品だ」


オームが説明する。


「それをオームさんが作ったのですか!?」


獅鳳が驚く。


「ああ、僕が作ったと言うよりはザビエル司教がオリジナル品の模倣と量産化に成功したんだ。見た目はただの槍だが威力は保証する」


オームがニヤリと笑う。


グングニール、それは必殺必中の威力を持つ投槍で、その威力は伝説の剣を一撃で粉々にするほどであり、鋼の穂先にルーン文字を配することによりその魔力で貫けない鎧はなく、人の素たる「トネリコの木」で柄が造られているため、どんな武器もこの槍を破壊することはできない。


投げると何者も絶対に避ける事ができず、敵を貫いた後は自然に所有者の元に戻ってくるブーメランのような機能も持つと言われる神具である。


「なるほど、それならいけそうだな」


「だが、問題はここから向こうまでの距離の長さだな」


「変身した俺達の誰かなら槍を向こうまで飛ばせるがちゃんと命中するかな?」


「問題ない、当たるように僕の魔法で強化する!」


そう言ってオームはグングニールを地面に突き立てた。


すると途端にグングニールはみるみる伸びていき最終的には元の長さの二倍近くまでになった。


そしてさらに魔力でコーティングされたのかキラキラと光輝いている。


「これで準備完了だ!」


「流石だな、これならいけるかもしれないな」


「じゃあ私が最初にいくわね」


そういうと雷華は先頭に立ち呪文を唱え始めた。


雷華が槍を掴むと彼女の前に魔法陣が現れそこから大量の炎が吹き出る。


その炎流に押されるように雷華の身体が宙に浮き、そのまま凄まじい勢いで前方に飛んでいった。


雷華はそのまま空中で身体をひねり、勢いを殺さず前方で待ち構えるフェンリル達に炎の槍を持って突っ込んでいく。


奇襲に気付いたフェンリル達は一斉に飛び掛かろうとし――雷華にたどり着く前に次々と燃えていった。


雷華が着地すると同時に雷華の周りにいた狼達も炎に包まれる。


雷華に襲い掛かろうとした全てのフェンリル達が一瞬のうちに灰となって消滅したのだ。


その光景を見た獅鳳は思わず感嘆の声を漏らす。


獅鳳の隣に立つ狗鬼も言葉を失っていた。


(なんという破壊力……このお嬢ちゃん威力だけなら変身した俺より強くね?……)


「凄い……」


獅鳳も思わず呟いた。


ユキルも強力な攻撃魔法を使うことができるのだがここまでの威力を出すことはできないだろう。


漢児はヒーローとして様々な経験を積んできたつもりだったがまだまだ自分の知らない力が存在することに驚き、また恐怖すら感じていた。


そんなことを考えているうちにもどんどん敵は減ってゆく。


やがて最後の一匹が燃え尽きた時、オームは何かを探すようにあたりを見回していた。


「雪男……ウェンディゴどもがいない……逃げたか?それともどこかに隠れているのかな?」


その言葉にハッと我に返った獅鳳は辺りを見回す。


確かに先ほどまで大量にいたはずのウェンディゴ達の姿が見当たらない。


ウェンディゴ族は非常に抜け目が無く、人に姿を見せない術を心得ている。


1人で旅をする旅人の背後に忍び寄り、気配だけを悟らせるが、どれだけすばやく振り向いてもその姿を見ることはできない。


それが何日かつづくと、ウェンディゴはかすかな、はっきりとは聞こえない声で話し掛けてくるようになる。


やがて、旅人がその不気味さに耐え切れなくなるまでそれは続くことになる。


かなり陰湿ないやがらせをし旅人が弱ったところを攫い、男なら儀式で自分たちと同じウェンディゴに変質させ、女ならウェンディゴ族の子を孕ませる母体として使う、実に邪神の眷属らしい危険な種族である。


連中は気に掛かるがまずは絵里洲探しが優先なので、雷音達は深追いせず先を急いだ。


しかし、それからしばらくして今度は前方から巨大な影が現れた。


それを見た雷音が叫ぶ。


「あれって……!ドラゴン!?氷のドラゴン!!!」


雷音の声に反応するかのように50メートル級の怪物が吠えた。


その雄叫びを聞いただけで雷音は背筋が凍るような感覚に襲われた。


「…さしずめ、この洞窟の門番てところか!!」


「狭い洞窟で、まともに戦ったら不利だ!横道に外れ迂回して出口に進もう!走るぞ!」


オームの合図と共に一同は走り出す。


氷龍はその巨体からは想像もできない速さで一行に迫ってくる。


そしてあっという間に雷音達と並走すると、再び咆吼を上げた。


「キシャアアアアァァァァァ!!!」


あまりの音量に耳を塞ぎながら、それでも足を止めずに一行は走り続ける。


しばらく走った後、オームが叫んだ。


「まずいな……道が塞がれてる……」


オームの言葉につられて見ると、前方に壁が立ちふさがっていた。


どうやら先ほど通った道を塞ぐように凍えるブレスで氷の壁が作られたようだ。


さらに、後方では地響きと轟音が鳴り響いている。


「挟み撃ちかよ……!」


振り返ると、後方から迫ってきた龍は、目の前で大きく口を開けていた。


「みんな、散れぇ!!」


間一髪、全員が左右に跳ぶことでそれを回避した。


そのまま駆け抜けると、背後で大きな音がした。


振り向くと、先程まで走っていた場所には鋭い牙が食い込んでいた。


もしあの場に留まっていたら間違いなく噛み殺されていただろう。


だが、これで退路は完全に断たれてしまった。


(どうする……?このままじゃいずれ体力も尽きちまう……!!)


狗鬼漢児が覚悟を決めたように、腕をポキポキ鳴らす。


「あーあ、ユキルちゃんならここでこういうんだろうな……『みんな一狩りしようか?』ってな」


全員がため息をついてうなずく。


「ヨシ!前衛は俺とエドナと雷音!オームと雷華は魔法支援!獅鳳はアイテムボックスから弓や銃火器を取り出し応戦!オーム!雷音!合図をしたら変身だ!!このパーティーに回復役はいない!みんななるべく怪我するなよ!!」


狗鬼の指示に皆が一斉に頷く。


「行くぞォッ!!」


狗鬼の叫びと同時に雷音が炎に包まれたかと思うと、炎の龍人へと変貌する。


それに続くようにオームが黄衣の魔王へと変身した。


最後に狗鬼漢児が蒼のヒーローアーレスタロスに変身する!


雷音はそのまま炎の拳を叩きつけ、雷華は炎の魔法をアーレスタロスとエドナ、獅鳳の武器に付与する。


、変身能力のない獅鳳は後方から炎を纏った矢を放ち続ける。


一方、エドナは炎をまとった大剣で龍を切り刻んでいく。


しかし、そんな猛攻にもびくともせず、龍はその巨体で突進してくる。


漢児はそれをかわすと、すれ違いざまに蒼いビームサーベル・アーレスブレイドで切りつけていく。


すると、龍の鱗の一部が剥がれ落ちた。


漢児は再び跳躍し、今度は龍の背中に飛び乗った。


そして背中に向かって斬撃を加えながら走り始めた。


龍は漢児を振り落とそうと暴れ回るが、漢児は決して離れない。


やがて龍の動きが止まった。


阿烈が龍の背中の中心辺りまで到達した瞬間だった。


龍の背中から血が噴き出したのだ。


「……ここだ!」


漢児は刀を鞘に収めると、龍の背を思い切り蹴り、地上へと飛び降りた。


龍の何かのツボを突いたのか、龍は痺れたかの様に硬直した。


漢児は着地と共に地面を蹴り、空高く跳び上がると、空中で体をひねりながら必殺技の姿勢をとった。


「喰らえぇぇええええええええ!!!!」


漢児は叫び技をはなつ


「超鉄拳アーレスブレイク!!!」


その一撃は見事に龍の頭を貫き、脳を破壊した。


龍は力なく倒れ伏す。


「やったぜー!!!」


漢児は仲間たちのもとへ駆け寄りハイタッチを交わした。


皆が喜び合うのも束の間洞窟の奥から足音が聞こえ人影が現れた。


「とんでもないことをしてくれたな。イタクァの封印を守っていたガーディアンドラゴンを倒すとは……お前たち責任を取ってもらうぞ」


そう言って現れたのは黒紫の装束に身を包んだ老人であった。


その老人は全身から邪悪なオーラを発しており只者ではない雰囲気を漂わせていた。


隣にはメイド服を着た女性型アンドロイドが控えている。


「なんだテメェは?」


「ワシの名はガープ、秘密結社ドアダの首領じゃ」


そう言うとガープと名乗った老人は懐から黒い球体を取り出した。


「これが何かわかるかのう?」


そう問いかけてくるガープにオームは警戒しながら答えた。


「それは……まさか!?」


「ご名答」


「あの伝説のアーティファクト……」


「その通り、これは邪神召喚用のアイテム『邪神石』、じゃが物事には何事にも表と裏がある。邪神石は邪神召喚用のアイテムだが、逆に邪神の活動を封じ抑える役目もある。見よ、石がヒビ割れ壊れようとしておるじゃろ?お主らが邪神石を守る氷龍を倒したせいで風の旧支配者イタクァが復活しようとしておるのじゃ。イブよイタクァの封印は後どれくらいで解ける?」


「解析しマス首領閣下、イタクァ復活まで後五分デス」


「おい、くそがきども、イタクァの封印を貼り直すから邪神が復活したら3分だけ相手しろ…」


ガープはやれやれ面倒くさいと肩を回す。


「ふざっけんな!!誰がそんなことするかよ!!」


雷音は応戦しようと構えたが、その前にドアダ7将軍が1人イブ・バーストエラーが立ち塞がった。


「メタモルフォーゼキャンセラー発動!」


メイドロボが手をかざすとアーレスタロス、雷音、オームの変身が強制的に解除された。


「な、なにぃいいいいい!!!」


「馬鹿な!?そんなバカなことがあるのかぁあああ!!」


「くっそぉおおおおおおおおおおおお!!」


三人は変身を強制解除されてしまいその場に倒れこんだ。


「ふん、この程度か、まだまだひよっこじゃのう、まあいい、とりあえずこいやつらには働いてもらうか……」


そう言うとガープは邪神石を地面に叩きつけ粉々に破壊した。


するとそこから這い出てきた黒い影のようなものが辺りを覆い尽くした。


そしてそこに現れた存在を見て一同驚愕した。


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