第24話 乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-2

ここは狂気山脈の地下にあるドアダ秘密基地……


暗闇の中で少女は目を覚ました。


「うっ……ここは?」


少女は自分の状況を把握しようと辺りを見回した。


「な!?」


そこはまるで宇宙のような空間だった。


上下左右全てが闇に包まれていて自分が今どこにいるかさえ分からない状態だった。


(私は確か……)


少女は自分の記憶を呼び起こそうとした。


しかしいくら考えても自分の名前が思い出せなかったのだ。


「まさか……記憶喪失!」


そう思った瞬間に少女の顔色が変わった。


それは恐怖によるものだった。


そしてそれと同時に頭の中に様々な映像が流れ込んで来た。


(これは何?)


流れてくる情報量が多過ぎて頭がパンクする。


しかしここで意識を失うわけにはいかない。


何故なら何か良くないモノが私の頭の中を書き換えようとしてるからだ。


だから私は頭の中で魔法を使うイメージを思い浮かべる。


そうすると体の中から魔力が流れ出し身体を覆う。


これがいわゆる魔法障壁だ。


私の魔法障壁は私の頭を書き替えようとする良くないモノを弾き飛ばす。


すると少しずつ私は誰なのか思い出してくる。


そう…


私は…




「ちい、この娘は洗脳魔法の効きが悪いな……殺してゾンビにして操るとヨクラートルを敵に回してしまうし……、さて、この青の魔法少女を一体どうやって活用しようか?うーん……んん!?」


ナイアの眼前に突然、巨大な水球が出現したかと思うと、そのまま一直線に飛んでいきナイアを飲み込んだ。


「こざかしい」


ナイアが腕を振るうと水玉は消え去り後には無傷のナイアがいた。


「今だ!」


少女は攻撃してすぐ走っていた。


水玉の小細工は通じないのは知っていた。


けど一瞬の隙を作れればいい!


とりあえず今はこの怖いモノから逃げることが先決だ!


絵理州はナイアの一瞬の隙を突き彼女の目の前から逃げ出した!


「くそっ!まさか私の洗脳魔法をレジストするなんて!!一般人と思い油断した!!」


絵里洲が走る。


走って走ってそれでも彼女は走る足を止めない。


少しでもあの存在から離れるためにひたすら走り続ける。


だが後ろから追ってくる気配は無いことに少し安心しながらも不安が残る。


なぜなら自分は逃げきれていないのだから。


その証拠にさっきからずっと誰かに見られているような感覚が続いているのだ。


その感覚に耐えられず思わず後ろを見るもそこには誰もいない。


いや、正確には何もいないと言うべきだろう。


だってここは既に異空間なのだから。


だけど何かがいるような気がする。


そんな不思議な感覚を覚えながらあてどなく彷徨うこと10分程だろうか?


ようやく出口が見えてきた。


「さ、寒い……、もう足が動かない……」


いくら走っても前に進まない感覚に絶望していた彼女だったがやっと見えた光に希望を抱きその光の方向に再び走り出す。


しかし光はどんどん小さくなりやがて消えてしまう。


「そ、そんな……、どうして!?あんなに頑張って走ったのになんで?」


泣きそうになるのを堪えて辺りを見回すもそこに広がっているのは先程と変わらぬ真っ暗な闇だけ。


そして彼女が一番恐れていたことが起こった。


背後から何者かに抱きつかれてしまったのだ。


恐怖でパニックになる彼女を優しく抱きしめ頭を撫でてくる。


それはまるで母親のように慈愛に満ちた優しい抱擁だった。


そしてその者は耳元で囁くように語りかけてきた。


「大丈夫……大丈夫だよ絵理巣ちゃん……ユッキーが助けに来たんだよ!!だから安心して!」


その声に安堵を覚えると同時に意識が遠退いていく。


薄れゆく意識の中で最後に見たのは親しい友人の姿であった。


ユキルは絵理州の体を抱きかかえるとゆっくりとその場に横たわらせる。


その表情は先程と同じ穏やかで優しさに満ち溢れていた。


そんな彼女の頭を軽く撫でると今度は仲間達の方に目を向ける。


彼女の同行者はミリル、鵺、白水晶だった!


雷音たちを見送りアシュレイ領にお留守番するはずの神羅=ユキル達


どっこいお転婆な神羅とミリルがおとなしくお留守番などするはず無かった。


実は雷音達が旅立ったすぐ後姉羅漢から連絡があった。


例の偽羅刹テロ事件の釈明については自分が直接アシュレイ領に赴き解決すると。


それを聞き神羅は即座に雷音達の後を追う事にした。


神羅がこっそり抜け出したことに気づいたミリルが鵺を連れ出し神羅を追いかけたのだ!


そしてミリルに連れ出された鵺もまた神羅と同じく抜け出す気満々だったらしく、ミリルの思惑通り3人は合流を果たしたのだった!


それを追いかける様にリーン・アシュレイより護衛の命を受けた白水晶が合流し4人に、とうとう雷音達より先に狂気山脈のドアダ秘密基地に辿り着き絵里洲を見つけたのである。


「それにしても本当によくここまで来れたわね」


「そりゃーもう、私の天才的な頭脳に不可能は無いからね」


そう言って胸を張り絵里洲にドヤ顔をする神羅に一同は思わず笑ってしまう。


絵里洲はそんな彼女達を見て改めて思う、こんな狂った世界でも仲間がいるだけで心が落ち着くのだと。


「それでこれからどうするの?」


「もちろん、雷音達と合流してここから脱出する決まってるでしょ」


「……というか先行出発したはずの雷音達は何してるのだ?なんで後から出発した私達が絵里洲を先に見つけちゃってるのだ?」


「わけは合流してから聞き出しましょ、とりあえずナイアがいるこの基地から早く脱出しなきゃ」


「そうね、私も賛成よ」


神羅の案に鵺が同調する。


「……私も同意」


「それじゃあみんな準備はいいかしら」


「「「「うん」」」」


神羅達は一斉に走り出す。


目的はただ一つ、ドアダ狂気山脈秘密基地からの脱出である。




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