第23話 乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-1

第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター




その晩ナイアを追っていた雷音達だがナイアの行方がわからないままだった。


とりあえず手分けして探そうとバラバラになった時のことである。


不意に声をかけられた雷音であった。


「そこのあなた、私とお茶しませんか?」


そう声をかけて来たのは紫の衣装を着た妙齢の美女で背中には黒い翼があった。


「……誰ですか?」


雷音がたずねると女は答える。


「私はエメ、神子リーンからこの街の統治を任されている領主よ」と。


だがよく見るとこのサキュバスはクトゥグァ火山で出会ったナイアそっくりの姿をしているのだった。


(ナイア!)思わず叫びそうになったがなんとか堪える。


エメと名乗るこのサキュバスはナイアと敵対していて、昔紫の魔法少女の力を奪い取られた際、自分の姿の情報も持っていかれたのだと言う。


(なるほど、だからナイアそっくりの姿なのか)と雷音は思った。


エメは雷音を自宅に招き紅茶とクッキーを出した後こう言った。


「あの街は私の大切な土地です。ドアダ達のようなならず者に絶対好きにさせません」


エメは懐から1枚の指名手配書を取り出した。


「雷音君にコレを見て欲しいんだけど…」


『青の魔女』


・我が家の家宝を盗んだ青の魔女を捕まえてください。生死は問いません。ミリル•アシュレイ


そして文の下には青の魔女の似顔絵が描いてあった。


どう見ても絵里洲だった。


「おわ〜〜!絵里洲〜〜!?ちょ、生死は問いませんって!?オイオイミリル〜、……あ、あ〜!そうか!ミリルのヤツ、絵里洲の姿がナイアルラトホテップの姿だと思い込んでるのか……あの、エメさんこの手配書の修正お願いできます?!」


「え〜?しょうがないな〜というか、ナイア相手に似顔絵は意味ないわよね。手配書は撤回しましょう。それよりこの絵里洲って言う子を探している2人組がいるのだけどあなた会ってみない?名前は確か… 狗鬼漢児と龍獅鳳とか言ってたわ」


「狗鬼漢児と龍獅鳳?」


まさか神羅が地球で世話になったとか言う……と思い悩む雷音だったが、すぐに頭を切り替える。


まずはその2人に会ってみるべきだろう、と思ったのだった。


「それで、その2人はどこにいるんですか?」


雷音は聞いたのだが答えは返ってこなかった。


その代わり……背後から肩を叩かれる。


「おう、ウチの妹を探してるってのはおまえか……?」


振り向くとそこにグラサンをかけた長身の男と自分とまったく同じ顔をした少年が立っていた。


雷音は反射的に叫んだ!


「ぎゃ〜〜〜〜〜ッ!!!」


獅鳳も反射的に叫ぶ!


「ど、ドッペルゲンガー!!?」


雷音と獅鳳、そして狗鬼漢児は顔を見合わせた。


「手を挙げて!」


狗鬼の掛け声で雷音が右手を上げ獅鳳が左手をあげる。


「反対あげて!」


今度は逆にする。


2人とも両手を挙げたポーズになった。


「片方さげて入れ替えて、あ、そうれワンツーワンツー!」


リズムに乗って、同じ顔の2人が鏡合わせのように動く。


「「なんだ鏡か」」


ひととおり動いたあと同じ台詞を同じタイミングで吐く雷音と獅鳳


「うおお!初対面同士とは思えない。すごいコンビネーションだな。お前ら…実は双子だろ??」


「「いやいや、ちげーよ!」」


また同じタイミングでハモる雷音と獅鳳


服装と髪の長さ以外は同一人物にしかみえない。


「うわー、ユキルちゃんから聞いてはたけど本当に俺と同じ顔だ。あ、俺龍獅鳳といいます。え〜と、なんか翠の勇者らしいです」


「おっと、紹介が遅れたな。俺は狗鬼漢児、蒼の勇者だそうだ!」


「あ、俺乂雷音!赤の勇者だ!よろしく!……あれ、ユキルって神羅の事だよな?神羅を知ってんの??」


「知ってるも何もユキルちゃんはオレのビジネスパートナーだ!!おまえらと違って大人の付き合いをしているんだぞ!!!」


そう言って自分のスマホの画像と動画を見せてくる漢児。


その画像には漢児がヒーローアーレスタロスとして悪の秘密結社ドアダと戦った日々が記録されていた。


「うおー!なんだこれ?なんだこれ!?なんだこれ!!?超カッケー!!!これ兄ちゃんなの?スッゲーイカす!!!」


特撮ヒーローは、少年の心を鷲掴みする。


確かに雷音も勇者に変神し戦うが、視聴者を魅せるため練り上げ創り上げた特撮番組は少年の心を掴んで離さない。


さらに付け加えるならこの動画編集をしたのは神羅で弟雷音が喜びそうなものをコンセプトに作ってあるので、雷音は一発で狗鬼漢児のファンになった!


彼は興奮しながらその動画を見てはしゃぐ。


所詮11歳のお子ちゃまである。


その様子を見てエメが感心したように言う。


「へぇ、面白いわね。その映像。あなたが撮ったの?それともその機械かしら?」


エメに聞かれて漢児は自慢げに答える。


「これは俺が地球で買ったスマホという道具だ。まあ、1世代型遅れだが撮影用としてはなかなかの高性能で……」


「……なるほど、確かに興味深いですね」


興味深そうに頷きながら、アヤシキが漢児に質問してくる。


「あのぉ、この仮面を着けてるのがあなたですよね?」


そこには『対決!タコデビル!』という題でアップされている動画がある。


そんな彼らの様子を見て獅鳳が言う。


「あの、ユキルちゃんは今ご無事ですか?……」


「ああ無事だよ!いちいち説明するのもなんだし一度アニキ達に俺の仲間たちに会ってもらおうと思うんだけど……」


もうすっかり狗鬼のファンになった雷音は彼をアニキ呼びしている。


「あら、よければ私の屋敷を使って頂戴。皆さんにこちらに集まっていただきましょう」


そう言うとアヤシキ達は他の仲間を呼びに部屋から出て行った。


(よし、まずはこれで第一段階終了っと……後はどうやって全員集めるかだな……)


それから一時間ほどすると屋敷の中はたくさんの人達でいっぱいになる。


ユキルこと神羅


雷音の妹雷華


神羅の婚約者オームとその姉エドナ


アシュレイ族の姫ミリル


ミリルの護衛として付いてきた鵺と白水晶


館の主人エメと秘書のアヤシキ


そして雷音と狗鬼漢児と獅鳳である。


最初に口火を切ったのはエメである。


「皆様ようこそおいで下さいました。どうぞお座りになってください。私がこの館の主人エメです」


笑顔でそう挨拶する。


その後、それぞれの自己紹介などを簡単に済ませたあと、これからのことを話し合うため全員が真剣な顔つきに変わる。


「さてとそれじゃあ作戦会議を始めようぜ!」


漢児が口火を切り、続いてアヤシキが発言する。


「まずは皆さん、この映像を見てください」


魔法で動くパネルをリモコンで再生する。


その映像は氷に覆われた山脈だった。


「この山脈は狂気山脈と呼ばれ、噂では地球の南極につながるゲートがあるそうです。リーン•アシュレイ様の情報によると皆様がお探しの絵里洲様はこの山脈の地下洞窟に囚われてるそうです。しかし問題は誰がどのように救出するかですが……」


そこでエメが言う。


「その事なのですが、この洞窟は普通の人間は入れません。勇者か、魔法少女、神か神に準ずる力を持った人間でないと、狂気山脈に住む魔物たちの餌食となります。ほとんどの兵達はそのような力は持ち合わせていませんし、必然と勇者や魔法少女が揃っているこのメンバーの中から救出隊を選別しないといけません……」


エメの言葉に神羅が答える。


「つまりここにいるメンバー全員で救出作戦に向かうということだね!?」


その問いにエドナが言う。


「何言うてんの? ナイアは神羅ちゃんをおびき出すため絵里洲ちゃん攫ったんや。敵の策にみすみす引っかかってどないするの?」


「そうなのだ!というか今は神羅、雷音、雷華の内最低誰か一人はアシュレイ領に滞在しとかないと同盟関係がまずいことになるのだ!」


「む?なぜだミーちゃん?」


雷華が尋ねる。


「偽羅刹の同盟破棄テロはリーンお兄ちゃんが未然に防いだけど、アシュレイ家も一枚岩じゃないのだ。同盟反対派のお姉ちゃんは隙を見つけて乂家との同盟関係を打ち切りたいみたいなのだ。今回偽羅刹と洗脳羅漢が起こそうとした騒動で反同盟派が活気づいているのだ!このままでは過激派によるクーデターが起こる可能性もあるのだ!」


「……なるほど、だから私が必要なんだね?」


「そうなのだ。出来れば神羅にはアシュレイ領に滞在して我が父トグリル王に友好的姿勢をアピールして欲しいのだ」


神羅はそう言うと雷華を見る。


雷華は大きく頷きながら話す。


「よし、神羅姉様は親善大使としてアシュレイ領でお留守番だ!戦力的にも勇魔共鳴を使える私と雷音が救出メンバーにふさわしい!」


「注意喚起……マスターより言伝……ミリル姫は救出隊参加しないようにと……」


「何故なのだ!?」


雷音がため息をついて言う。


「そんなの危ないからに決まってるだろ?いい子だから留守番しとけ。」


「うー……」


「ウチとオームは参加するで!勇魔共鳴はうちらも使える。それにもともとうちらのミスで絵里洲ちゃんはこの世界に来てもうたんや。ぜひとも救出作戦に参加させてほしい!」


オームとエドナは起立して漢児に頭を下げた。


「漢児殿、獅鳳殿、貴君等へのこの度の不手際誠に申し訳ない。その罪はこの身をもって償おう!」


二人は頭を深く下げた。


そんな二人に漢児は言う。


「顔を上げてくれ二人とも。確かにお前たちには落ち度があったかもしれないが、今はそんなことを言ってる場合じゃねぇ、俺たちはこれから一緒に戦うんだろう?仲間割れしてる場合じゃないだろう。あんたらが妹によくしてくれたのは聞いている。だから、今は協力し合うことだけ考えよう。だろユキルちゃん?雷音?」


「ああ、当然だ。俺たち勇者の力を見せてやろうぜ!」


その言葉に皆うなずく。


すると鵺が言った。


「じゃあ、私と白水晶はユキルとミリルの護衛に専念しつつ救出作戦の段取りを逐一報告するわ」


「うむ、頼むぞ、鵺」


「て事は救出メンバーはこの俺狗鬼漢児と獅鳳、雷音と雷華兄妹、オームとエドナ姉弟の6人で決まりか!よし、みんな準備に取り掛かるぞ!まずはそれぞれの武器と防寒具を取りに行かなくちゃだな!」


「武器屋アマゾネスに相談に行こう!」


「狂気山脈に行く前に地図を用意しなきゃ!テントや食料も買い出ししなきゃ!」


「俺とアニキは登山経験豊富だけど他のメンバーは大丈夫?」


「うちら阿烈師匠にいろんなとこ連れ回されてしごかれとるから、山でも海でも大体の冒険経験があるで!もちろん装備もバッチリや!ただ今回は初めての場所で何がおこるか分からんさかい用意するもん多すぎやろけど、なんとか間に合わせるで!」


一同は一晩かけ作戦と準備を整え狂気山脈に向かうのだった。

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