第22話 乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-6

その姿は、黒髪長髪で黒い衣装に身を包んだ仮面を被った少女だった。


常に黒天ジャムガの傍らにつき従っていた少女で、確か名は"鵺"と呼ばれていたはずだ。


彼女は片手に片刃の剣を持っていた。その剣には赤い宝石の様な物がついているのが見えた。


少女は雷音と目があった。


だが何も言うことなく馬上で手にした剣を振るい瞬く間に神羅を拘束している光の帯を切り払った。


拘束が解かれ自由になる神羅


「あ、ありがとう…」


と鵺にお礼を言う。


「…………」


黒い仮面の少女は何も言わず、黒馬を降り神羅を守るように剣を構えた。


雷音達が戦闘を繰り広げていた部屋で、突然床がせり上がり大きな四角い石の箱が現れた!


箱の上には巨大な白い十字架があり上半身裸の男が括り付けられていた。


その胸の中心には白い槍状のものが生えていた!


男は胸を槍で貫かれていたのだ。


貫いたのはリーン・アシュレイに常に付き従っていた少女、白水晶と言う名の少女だった。


男は苦痛に耐えながらも不敵に笑った!


「ふふふふ……はーはっはははは!!


暗黒のファラオ万歳 ニャルラトテップ万歳 くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ しゃめっしゅ にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん !!」


そう叫ぶと男は口から血を吐いて絶命した。


男が絶命すると同時に白い箱と十字架が消える。


どうやら白い箱は羅漢の光の帯と同じ拘束系の技、もしくは魔法だったようだ。


「白水晶、ナイアルラトホテップの洗脳魔法は解除出来なかったの?」


黒の少女鵺の問いに白の少女が静かに首を横に振る。


「彼は洗脳されてたのではなくすでに死んでいた……私が彼に施した攻撃はターンアンデット……彼は浄化で元の死体に戻っただけ……」


「そう…なら残りの6人もゾンビね。洗脳解除は無理と見ていいわね…」


白水晶は四角い白箱を懐から取り出し羅漢に向け投げた。


白箱は瞬く間に大きくなり標的を拘束する十字架を生み出す。


だが羅漢はあっさり捕まえている雷音達を手放しすと、偽絵里洲の側までジャンプで撤退する。


「流石は銀の勇者!判断が早い!」


舌打ちする鵺


白水晶は拘束道具による捕縛をあきらめ、直接戦闘に切り替えるべく白い槍を構えた。


雷音は死んだ男に見覚えがあった。


確か兄阿烈の命を受け自分達を影から守っていた護衛兵だ。


盗賊スキルを持つ雷音だけが気づいていたが彼は姿を隠しそっと自分たちを見守っていてくれた。


名前は確かラキシス…


確か他にもう6人ほど同じ護衛兵達がいたはずだが…


男は息絶えた後もなお笑いながら白目を剥いていた。


そして男の死体を中心に地面に描かれた円の模様に沿って紫色の光が走り魔法陣が形成されると光の壁が発生した。


光の壁が、建物全体を包むとジャガ族の大使館は異形の姿に変貌する。


「やばい!みんな建物の外に出るぞ!!」


大使館の建物の外に出ることはできたが光の壁は建物の庭全てを覆っており光の壁より外には出られないように思えた。


大使館の建物は壁に血管が浮き出て脈打ちだし、石や木の素材が生き物の様に脈動しだしていた。


さらに肉が盛り上がり無数の触手が伸びてきて、まるで植物が急激に成長するかのように伸びてきて、それらが絡まり合い、形を成していき一つの像になった。


その形はまさに邪神の姿そのものに見えた。


いや、事実それはまさしく邪神だったのだ!


「ナイアルラトホテップの即席祭壇によくぞ参られた!勇敢なる勇者よ!」


『暗黒のファラオ万歳 ニャルラトテップ万歳 くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー しゃめっしゅ しゃめっしゅ にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん !』


悍ましい詠唱と共に6つの人影が肉で出来た床から盛り上がり姿を現す。


6つの人影は皆阿烈が派遣した者達だ。


「おいナイア!お前兄貴の兵達に一体何をした!?あいつら普通の人間だったろうが!!」


「あれは魂の無い人形のようなもの……つまり死体です。死体には、あの様な命令でも従わせることが出来ます。以前生きてるユッキーに洗脳魔法かけよーとして痛い目みたでしょ?だから今度は殺してから操ることにしたの☆」


ナイアの返答に雷音が怒りの形相で叫ぶ。


「てめえっ!!それでも人の心があるのかよ!!ああ、あるわけないか!!お前は人じゃなかったよな!?」


ナイアは心底呆れた顔で溜息をつくと雷音に言い返した。


「雷音様……やっぱり貴方は未熟ですね?私が時間稼ぎに貴方とおしゃべりしてるって気づかなかったんですか?ほらほら、勇魔共鳴の制限時間がきれますよ?おしゃべりする暇あったら私に攻撃して来ればよかったのに……それとも私をなめてるのですか?」


雷音の悔しそうな顔を見て満足したのか、ナイアは邪悪な笑みをこぼしながら言葉を続ける。


「……それにしても残念でしたね雷音様♪貴方の兵達は全員私がもらってあげます♪」


「てっ、てめぇ……」


とうとう雷音と雷華の勇魔共鳴の制限時間が切れた。


二人は変身も解けガス欠の車の様に動けなくなる。


「さて、私はこれから本業を始めます」


ナイアが偽絵理州から別の女性の姿に変身する。


その姿は雷音たちの姉羅刹だった!


「な!?お姉ちゃん!?」


雷音、雷華、神羅が絶句する。


「ど、どういうことなのだ!?」


「……推測、ナイアルラトホテップの狙いはアシュレイ族と乂族の同盟を邪魔すること……羅漢と羅刹、乂族の兵士がアシュレイ領で破壊活動を行った場合、世論はアシュレイ、乂族の同盟締結を反対する……」


白水晶の説明にミリルが顔を蒼くする。


「そ、そんなことになれば雷音と結婚できなくなってしまうのだ!は、早く何とかするのだ!!」


「ここでナイア達を撃破するしかないようね……」


鵺が剣を構えナイアをにらみつける。


羅刹に変化したナイアは懐から【契約の刻印】とよく似たカードを取り出す。


「あーっ!あれは【転送の刻印】なのだ!色んな世界をワープで行ったり来たりできる我が家の家宝なのだ!それも盗んだなドロボー!!」


「悪いがお前らの相手をしている暇はない。黒天や覇星の王が来る前に暴れないといけない。行くぞ羅漢。雷音お前の相手はアレだ……」


偽羅刹が指を鳴らすと触手が絡まって出来上がった邪神像が動きだした。


「ははは!じゃあ私たちは失礼するぜぇ!これから羅漢と一緒に暴れるんでなぁ!邪神オード・ジ・ラキシスそいつらを捕食しろ!」


そう言って偽羅刹は【転送の刻印】を使い光の壁の外にでた。


羅漢とゾンビとなった兵達と一緒に…


100メートルはある邪神がゆっくりと目覚めようとしてた。


封獣の力を使い巨大ロボを召喚したいが、雷音も雷華も羅漢との戦いで力を使い切り今はガス欠状態だ。


それにもし呼び出したところでこの巨体に対抗できるものかどうか……。


(俺の未熟のせいでみんながピンチになっている……くそっ!)


雷音が悔しそうに下唇をかみしめていると不意に誰かに肩を叩かれ振り向くと、神羅がいた。


「大丈夫?あんまり無茶しないほうがいいよ。それにしても昔のモンスターハンティングを思い出すね。あのときは阿烈お兄ちゃん達につれられよく30メートル級のモンスター達と戦ったもんだ!雷音!雷華!久しぶりに一狩り行こうか?今日だけは年上家族抜きのパーティー編成だ!」


神羅の一声でしょぼくれていた気力がみるみるうちに回復していく。


「へ!相変わらず神羅は気軽に言ってくれるぜ!!でも……それでこそ俺達の神羅だ!!やるぞ!!」


「うむ!神羅姉様やろう!」


こうして3人は再び戦うために気合いを入れたのだった!! そしてそんな彼らの後ろで鵺と白水晶が作戦立案を申し出た。


「白の勇者として進捗……私があの巨大な魔物を引きつける……女神ユキルの転生体に封獣解放の協力を要請……封獣白面神槍ナインテイル巨神形態起動の承認を」


「え?えーと…つまり白水晶ちゃんは白の勇者で白の封獣の巨大ロボを召喚したいって事?うーん確かにそれは私も賛成かな?あんな大きい敵を相手にするならやっぱりこっちの方が有利だよ!」


「……それでは承認儀式を開始します」


そう言って白水晶は神羅の唇に素早くキスをした。


突然のことに全員が絶句する。


冷静に見えた鵺は驚きのあまり剣を落としてしまう。


神羅は顔を真っ赤にしながら硬直していた。


唇を離したあと白水晶は機神招来の詠唱を唱える。


「……封獣の結界を解き放ち我が元へ現れろ……神鼠の鎧、白神の槍、我と共にあれ…………顕現せよ、機械仕掛けの神デウスエクスマキナ白面神槍ナインテイル」


『オォォォォン』


咆哮と同時に周囲の景色がガラス細工のようにひび割れ砕け散った。


真っ白の9つの機械の尾と白い翼を持つ巨人が現れると雷音達を見下ろしながら白い槍を掲げた。


白の巨人はそのまま邪神オード・ジ・ラキシスへと突っ込んでいった。


挿絵(By みてみん)


(す、すげぇ……)


雷音達は呆然とその姿を見送った。すると突然頭の中に声が響いてきた。


「ちょっと白水晶ちゃん!?もう、いきなりキスするなんてずるいじゃない!?ほっぺたのキスでも十分機神招来できるんだよ!!」


「回答……封印解除の儀は頬への接吻だと効力が弱い……敵は強力で長期戦が予想される……結論……唇同士での封印解除がこの戦闘における最適選択」


「そういう意味じゃなくて〜〜っ!!」


白水晶と神羅との感覚を共有した神羅の声が頭に響くのだ。


邪神オード・ジ・ラキシスは体中から生えた触手から卵みたいな物を無数に産み落とした。


そしてその全てが一斉に孵化して怪物になった。


だがその怪物たちも次々に邪神の巨体から伸びてくる無数の触腕に捕まり握り潰されて食われていった。


そして全ての怪物達が喰われると邪神の体はますます大きくなった。


この化け物は自給自足で成長進化しているのだ。


「うえ~!あれめちゃくちゃ気色悪いのだ~~!」


「ミリル!これ以上あの化け物を成長させてはだめ!あなたの召喚魔法で召喚獣を呼べるだけ呼んで食事を邪魔しなさい!あなたたちは私のそばに!私の呪文であなたたちの疲労を回復させる!疲労が回復したら魔剣クトゥグァを機神招来しなさい!私は黒の魔法少女だけど一人ではまだ機神を完全に操ることはできない!だからあなたたち2人の力を貸して!!」


鵺の作戦に従いミリルは召喚獣を喚び始めた。


「それじゃみんな行くよ!まずはこの空間そのものを吹き飛ばすくらいの強力な攻撃が欲しいのだ!いくよ……メギルシリーズ全機起動!!!」


ミリルの召喚で5体のメガルヨムルガントと20体の重火器を携えたメガルスケルトンが現れた。


メガルヨムルガント達は口から火炎玉を吐きメガルスケルトンは手にした重火器でオード・ジ・ラキシスが生む卵の化け物を孵化する前に燃やしていく。


白き巨人ナインテイルは直接邪神オード・ジ・ラキシスと取っ組み合う。


鵺は雷音、雷華の疲労を回復させるべく呪文を唱えていた。


「おんぐ だくた りんか、ねぶろっど づぃん、ねぶろっど づぃん、おんぐ だくた りんか、よぐ=そとーす、よぐ=そとーす、おんぐ だくた りんか、おんぐ だくた りんか、やーる むてん、やーる むてん 」


この場合疲労を回復させるというのは少し違う。


彼女は時間系の魔法を操る魔法少女だ。


彼女は魔法で雷音、雷華の疲労回復の時間を早めているのである。


「お、おい雷華!」


「うん!なんか力が戻ってきた!これならいける!!!」


「ああ、今なら俺たちもやれるぜ!!」


雷音と雷華が邪神の触手攻撃を防ぎ、白水晶操るナインテイルが9つの尾を使ったビーム射撃を放ち、鵺と神羅が呪文と魔力の供給を、そしてミリルが残りの魔力を使ってメガルシリーズの全力稼動によって生まれた大量の武器による一斉射撃が炸裂する! だがそれでも邪神オード・ジ・ラキシスは健在だった。


いやむしろより凶悪さを増していた。


(くっ、なんてヤツなんだ!!)


機神招来するための体力はまだ戻らない。


(こ、こいつ本当に神様なのか!?全然効いてねえ!!)


「きゃああああ!!!」


ミリルが悲鳴を上げる。


メガル達がいた場所に無数の光の矢が降り注ぎ彼らの体に突き刺さっていた! だが彼らは倒れない。半分機械の彼らに痛覚はないからだ。


どうやらこの程度どうということは無いらしい。


そんな彼らに再び邪神は触手を伸ばし再び光の矢を降り注ごうとする。


ナインテイルが槍で触手を切り落とし攻撃を妨害する。


「雷音!もう機神招来できるぞ!」


雷華が魔剣クトゥグァを雷音に手渡す。


雷音は魔剣をかざし機神招来の詠唱を唱えた。


「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ!」


それは世界を変える呪文である。


この呪文を唱えれば世界の法則すら変える事も可能なのだ。


ただしその代償として、呪文を唱えた者の体は変化していく。


肉体的苦痛は無い。


あるのは耐え難い闘争への飢餓である。


「あ・・・あああああ!!!」


凄まじい飢えが彼を襲う。


体が熱くなっていくのがわかる。


しかし同時に彼はそれが力となることも実感できた。


彼が手にした魔剣クトゥグァの切っ先が光りだす。


その光は彼を飲み込みさらに大きく膨れ上がっていく。


やがてその光は巨大なロボットの姿になった。


その姿は龍人と呼ぶべきだろうか?


鳳凰と呼ぶべきだろうか?


全身が赤い鎧の様な皮膚で覆われ、手足からは爪、尾は炎の鞭が伸びていた。


頭には角が生え背中には炎に包まれた翼があった。


「いくぞオード・ジ・ラキシス!封獣クトゥグァの力を見よ!!


うおおおおおおおおおおっ!!!!」


オード・ジ・ラキシスが吠える。


『ほほう、我に挑むというか小童ども!!』


邪神は人語ではない邪神の言葉でしゃべっている。


「くらえ、クトゥグァーーバードチェーーーンジッ!!!」


『なに!?』


クトゥグァはその体を鳳凰形態に変形させ邪神オード・ジ・ラキシスの周囲を高速で飛び回る。


そしてすれ違いざまに火球を放つのだ。


しかも、オード・ジ・ラキシスは防御する暇もなくダメージを受けていく。


邪神オード・ジ・ラキシスはダメージ覚悟で光の矢を放ち応戦するのだが全く当たらない。


逆に後ろからの攻撃を受けて吹き飛ばされるのである。


オード・ジ・ラキシスは怒り狂い自ら前にでて殴りかかる。


だがそれすらも空振りに終わるのだった。


『ええーい、鬱陶しいわ!』邪神オード・ジ・ラキシスが腕を振り回し攻撃するたびにクトゥグァはひらりと身をかわして挑発するのだ。


そんな攻防を繰り返すうちに次第に疲労と焦りが出てくる邪神オード・ジ・ラキシスである。


そこにナインテイルが飛びかかり、ついに邪神オード・ジ・ラキシスの体に白槍を突き立てた。


『ぎええええええっ』邪神オード・ジ・ラキシスは悲鳴をあげもがく。


「やった!倒したのだ」ミリルは歓喜する。


ナインテイルは邪神オード・ジ・ラキシスの核をさがし破壊しようとするのだが、なかなか見つからないのだ。


そこで彼女は思いついた。


「この位置なら!」白槍を突きたてながらジャンプしたかと思うと一気に引き下ろし邪神オード・ジ・ラキシスを地面に叩きつける。


そしてその衝撃で核が露出したのだった。


邪神オード・ジ・ラキシスの核はナイアによりゾンビにされ操られた護衛兵ラキシスの死体だった。


すかさず雷華はクトゥグァを人型形態に戻す。


「今だ!やれ雷音!今必殺の!!あれ?」雷音の様子が変だった。


闘争に猛り狂いながらも目を赤く充血させ泣いていた。


(すまない!俺たちのことずっと陰から見守っててくれたのに!こんな死者にむち打つような真似をしてしまって、本当にすまない!)


雷音は心の中でそう思っていた。


それは戦いには不要な感情だったかもしれない。


しかしそれでも彼は謝らずにはいられなかった。


そしてクトゥグァが大太刀を構え飛び上がる。


雷音は両手を合わせ目を閉じ祈りの言葉を唱える。


すると、クトゥグァの手に握られていた大太刀が激しく燃える炎の剣となった。


「いくぞー!!」


振り下ろされた炎の刃で斬られた邪神オード・ジ・ラキシスは激しく燃え盛ったのち消滅した。


その瞬間皆は元の現実世界に戻ってきたのだった。


こうして戦いは終わった。


だが本当の意味での戦いはこれから始まるのだ。


そう、姉に化けたナイアと操られている兄羅漢を止めなくてはいけない。


感傷に浸るまもなく一同はナイアの後を追った。

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