第20話 乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-4

アシュレイ家の姫ミリルは今日部下から報告を受けた。


「何!?雷音と雷華ちゃんがこの町に来てるとな!?


間違いないのか!?」


『はい、確かに二人を見たと』


「それで、二人は今どこにいるかわかるのか!?」


ミリルは慌てたように言った。だが部下の方は落ち着いていて


『わかりません、すぐに見失ってしまったそうです』


「そうか……」


ミリルは肩を落としながら言った。するとそこで別の部下が部屋に入ってくる。


「姫様、どうやら例の勇者二人がこちらに来ているようです」


「本当か!」


ミリルはそれを聞いて目を輝かせる。


だがすぐに気を引き締めて言う。


「いや、まだそうだとは限らんな、引き続き情報を集めろ、どんな些細なことでもいい、何かあれば知らせてくれ」


部下はすぐに部屋から退出していった。


ミリルは自室で一人考える。


(王の娘として、そしてこの国の魔法少女の一人としてメギド族の魔王討伐に行かなければならないと思っていたところに青と翠の勇者二人が現れたのだ。これは天啓かもしれないのだ。この二人と力を合わせていけば必ずや魔王ルドラを倒すことができるだろう!しかしどうやってあの二人を説得しようか……まずはお父様に相談してみるのだ……。)


ミリルは部屋を出て父親のところへ向かった。トグリル王の部屋には先客が来ていたようだ。


兄のリーン・アシュレイと姉のイブリール・アシュレイである。


三人は難しい顔で話をしているようだった。


ミリルが入ってきたのに気づくとトグリルが言う。


「おお、来たか、ちょうどよいお前からも言ってくれ、リーンよ、お前が行くのを止めはしないが、せめてもう少し護衛を増やしてからメギド領に行ってほしい、そうすれば万が一の時にも対応できるというもの、お前もそう思うであろう?」


イブリールも父の言葉にうなずいている。


どうやら兄は僅かな手勢を伴ってメギド領に和平交渉に向うつもりだったようだ。


しかしリーンの和平案にトグリル王とイブリールは難色を示しているようであった。


確かに今まで敵だった相手といきなり和睦というのは受け入れにくいことだろう。


特に魔族にとって戦争は終わったかもしれないが、それは多種族との殺し合いを辞めたわけではないからだ。


ミリルは三人に割って入るように声をかける。


「お父様、リーンお兄ちゃんは大義名分が欲しいだけだと思うぞ?ぶっちゃけ和平交渉に行ったって好戦的なルドラはそれを突っぱねるに決まってる。そんなのお兄ちゃんがわからないはずないのだ。同行するメンバー見たけど黒天ジャムガに突撃の猛将蚩尤将軍、さらに殿の名将ベレトの名前まであるのだ。この三人は一騎当千の強者な上、今ちょうど『メギドの城壁』ワニキス将軍が不在なのだ。これは大義名分を通すだけ通して相手が突っぱねて来たら大将首を取っちゃおうって考えなのだ!」


と得意げに言うのだった。


そんなミリルの言葉を聞くと三人の顔色が変わった。


そう言われてみればその通りではないか?これはあくまでも交渉だ、もちろんその場で決裂してもかまわないのだ。


相手はあの悪逆非道の魔王ルドラ、もしもこの話を断られた場合は武力をもって侵攻するしかないだろうと思っていたのだが……。


もしこれで本当に話がまとまったならこれ以上のことはないのである。


和平交渉が駄目でも向こうが勝手に和平案を突っぱねたのだから戦争が起きても民は王家を支持するだろう。


ミリルはさらに続ける。


「お兄ちゃんはこの話し合いのためにいろいろと根回しとか準備してたみたいなのだ。乂族やジャガ族と同盟を組んだり、会談がうまくいった時の講和条件だってもう決めてるのだ!」


「……まったくミリルには敵わんな」


優しい笑顔でリーンはミリルの頭を撫でる。


終始無表情のこの男も妹ミリルに対してだけは優しい表情をみせる。


「あいわかった。此度の交渉は神子に一任しよう」


父王に神子と呼ばれた男は恭しく頭を垂れて言った。


「御意に」


会議が終わり部屋を出た後、リーンはミリルの部屋に訪れこう言った。


「ミリル、さっきは父王に助言してくれて助かったよ。そんな君にいい知らせを送ろう。君の許嫁雷音君がこの町に来ているよ」


「本当なのか!お兄様!!」


ミリルは喜びのあまりリーンに抱きついた。


リーンも微笑みながらミリルを抱き上げるのだった。


ミリルは9歳の美少女でまだ結婚はできないが15歳になり成人したらすぐ雷音と夫婦になると決めていた。


「雷音君はジャガ族の大使館に滞在しているよ」


「そうか、早く会って抱きしめたいのだ」


ミリルは顔を赤くしながらそう言った。


その様子を見ていた一人の少女が口を挟む。


その少女は阿烈、ジャムガ、リーンが会議を開いていた時、黒天ジャムガに影のように付き従ってた少女だ。


少女の名は鵺と呼ぶ。


「私も一緒にいってもいいかしら?」


「……かまわぬが……」


なぜか不満そうな顔をするリーンであった。





こうしてミリル一行はジャムガの案内でジャガ族大使館の建物にやってきたのだった。


雷音達はジャガ族大使館で賓客として滞在していた。


ミリムが大使館に入ると、そこには懐かしい幼馴染の姿があった。雷音もすぐに気づいてこちらに駆け寄ってくるのだった。


「うわー!雷音久しぶりなのだ〜!会いたかったぞ!」


そう言ってミリルは抱きつくのだった。


だがそこで違和感を覚えるミリルだった。


(あれ?なんか雷音ってこんなにガッチリしてたっけか?)


そんな疑問を感じた直後、違和感の原因に気づく。


(こやつ!!背が高い!?と言うか昔よりイケメン度が上がっているのだ!!)


「やっほーミリルちゃん!久しぶり〜!」


「ミーちゃん達者だったか?」


「おお、雷華ちゃん久しぶりなのだ!……って言うか神羅!?な、なぜここに!?行方不明になったと聞いていたのだ!!?」


「許嫁のオームが神羅ちゃんを助けたんやで〜」


「ぬあ?エドナ!?メギド族の同盟者タタリ族の巫女がなぜここに!?」


「ウチらがアシュレイ領に来たのは政治とは関係ないで〜、アシュレイ迷宮のダンジョン攻略に来たんや。迷宮にあるワープ装置が欲しいんや」


ちなみにアシュレイ迷宮はジャガ族大使館のすぐそばにある。


「え!?あんな事言ってるけどいいのかリーンお兄ちゃん?」


「構わんよ。阿烈殿から神羅の許嫁を贔屓にして欲しいと伝書を預かっている」


「ヒューヒュー!ユッキーもオーム様も保護者公認の仲とは、コレはもう結婚秒読み開始かな?」


絵里洲に冷やかされオームと神羅は顔を赤くして押し黙った。


「言っておくがオーム、俺はまだ神羅とお前の婚約を認めちゃいないからな?」


嫉妬した雷音がオームに喰ってかかる。


「ふん、別にお前の許可なぞ欲しいと


は思っていない…」


オームもいちいち雷音の相手をする。


「おい馬鹿雷音!ミーちゃ…ミリル姫の御前だぞ!!」


親友の雷華が刀の峰打ちでゴンゴンと雷音の頭を叩きケンカを止める。


その様子から未だ雷音は神羅に対し異性としての好意があるとミリルは確信した。


(なぜだー!なぜなんだー!!私というものがありながらー!!浮気はゆるさないのだ〜!!うわああああああん!!でもやっぱかっこいいのだ!!ぐぬぬぬ……許すしかないのか……)


薄っすらと悔し涙を浮かべるミリルの肩を絵里洲が軽く叩いて耳打ちした。


(姫様姫様、「寝取り」というのもまたオツなものですよ♪)


それを聞いたミリルは思わずゾクリとするのだった。


そして心の中で決意を固めるのだった。


(うん、決めた!私も雷音と付き合うのだ!!そして神羅より先に雷音を私の虜にする!神羅には絶対に負けないのだ!!待ってろよ〜!)






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