第19話 乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-3

「はぁ~疲れたぁ~」


あれから一時間後、何とか回復したザビエルと話し合いをし、正式に魔王城の賓客としてもてなされた一行はようやく一息ついていた。


「一時はどうなるかと思ったよ」


「全くだ」


今は応接室のような場所で紅茶を飲みながら休憩しているところだ。


「それにしてもまさか神羅がこんな形で戻ってくることになるとはなぁ」


しみじみと呟く雷音の言葉に一同も頷く。


「ほんとだな。しかもなんか雰囲気変わってるし、まるで別の世界に行ってこっちに帰って来たみたいだ」


「いや、本当にその通りなんだけどね。」


雷華の言葉に神羅が突っ込む。


ちなみに今この部屋にいるのは6人だ。


雷音、神羅、雷華、オーム、エドナ、絵里洲である。


記憶をとりもどしてすぐ後、ユキルこと神羅はすっかり元気を取り戻していた。


「うわー、ユッキーから話は聞いてたけど雷音君て本当に獅鳳に顔そっくり……」


「ね?言った通りだったでしょ?」


茶菓子を一通り食べた後、雷音はオームに尋ねる。


「ところでオーム、俺は今すぐ神羅姉ちゃんを家に連れて帰りたいんだけど、すんなり返す気はあるか?」


「はあ?返すわけないだろバカ野郎!返して欲しければ僕を倒してみろってんだ!」


オームは相変わらず横柄な態度を取る。


だがここで引くわけには行かないのだ。


「なら力づくでも連れて帰るぞ」


「やれるものならやってみろ」


こうして二人の戦いが始まった。


一方その頃、絵里洲は神羅に質問していた。


「いや〜ん!見て見て、ユッキー!オーム君と雷音君、ユッキーを巡って戦いだしちゃったわよ!これは面白い展開になってきたわね〜」


「まああの二人、昔から仲悪かったですからね」


「そうなの?」


「ええ、それに私はもう身も心も雷音のものだし」


「え!?いつの間に!?」


「さっきトイレに行った時に『今夜部屋に来てくれ』って言われたんですよ」


「きゃーっ!」


「エドナさん!私の後ろで変なセリフ吐かないで下さい!!」


「あははは、お茶目やお茶目!」


などとほのぼのとした会話が繰り広げられている中、外ではさらに激しいバトルが続いていた。


部屋から外に飛び出した雷音とオームは互いに譲らず一進一退の攻防を続けていた。


しかしいつまでもそうしているわけにもいかない。


そろそろ決着をつけようと、二人が同時に必殺技を放った瞬間、突然空から光が降り注ぎ二人を包み込んだ!


「マジックバインド!」


雷音もオームも魔法の鎖に絡め取られ身動きできなくなった。


そして二人の前に一人の少女が降り立った。


「二人とも喧嘩しちゃ駄目でしょ!お姉ちゃん怒っちゃうんだから!」


神羅だった。


さっきの光の正体は神羅の魔法である。


「悪いけど雷音さぁ、お姉ちゃんすぐに帰れないわ。エリリンを元の世界に返してあげなきゃいけないもの。だから大人しくしててね?あ、あとオーム君!助けてくれてありがと。すごく嬉しかったよ!」


それを聞いたオームは一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間いつもの不敵な表情に戻りこう言った。


「そうか、それは良かった」


「じゃあちょっと行ってくるから待っててね」


「おいおいどこに行くんだよ?」


「雷音の許嫁ミリルちゃんのところよ。ミリルちゃんの家には異世界に通じる【転送の刻印】って言うワープ装置があったでしょ?それを借りに行くの」


空とぶ箒に跨り、アシュレイの城に向かおうとする神羅をオームが止める。


「待て神羅!今アシュレイ族の情勢はキナ臭いことになっている。戦争が起こりそうなんだ。ここはしばらく様子見たほうがいい」


「え!?そうなの!?」


神羅は驚いて聞き返した。


「ああ、間違いない」


「でもなんでそんなこと知ってるのよ?」


すると今度は雷音が答えた。


「兄貴から聞いたんだけどタタリ族と同盟を結んでいるメギド族、そのメギド族がアシュレイ族に宣戦布告したんだ」


それを聞いて神羅が驚き尋ねる。


「ええーっ!?メギド族ってシュリちゃんの部族よね? なんでそんな大事なこと教えてくれなかったのー!?ひどいじゃない!仲間なのに隠し事するなんて!」


プンスカ怒る神羅に、今度は雷音が尋ねた。


「なあ、それよりお前はどうやってここに来たんだ? 来た時と同じ手段で帰ったらいいんじゃないのか?」


「私達、異世界転生トラックって言う魔法の車で地球と言う世界からスラルにワープしてきたの。でも、そのトラックはこの世界にはないから、似たようなワープ装置を見つけないといけないの。覚えがあるのがミリルちゃんの家にあるワープ装置ってわけ」


神羅は逆に質問を返した。


「ねえ、羅漢兄さんはどうなった?」


その質問に、二人は黙ってうつむくだけだった。


それを見た神羅は察したようで、それ以上何も聞かなかった。


だがその後、神羅の口から出た言葉は二人にとって意外なものだった。


「ねえ、アシュレイ領に一緒に冒険に行こうよ?」


その言葉に、思わず顔を上げる雷音とオーム。


神羅は言った。


「だって私一人じゃ荷が重いもん!手伝ってよ?」


「ほな、ひさびさにウチとオームと雷音と神羅ちゃんとでパーティーを組むか!」


「姉様たちだけずるい!私も一緒に行く!」


「私だって1人でノケ者なんて嫌よ。連れて行って連れて行って!」


雷華と絵里洲も同行を求める。


「ええ?大丈夫かよ?絵里洲ぶっちゃけ弱っちいじゃん?」


「ぐぬぬ!…」


ぶっちゃけこの戦い慣れしてるメンツの中で絵里洲だけがほぼ一般人である。


「あの…絵里洲良かったらコレ貸そうか?」


雷華がおずおずと一枚のカードを絵里洲に差し出す。



「【契約の刻印】と言って強力な召喚魔法が使えるアイテムらしいぞ」


「うわーん!雷華ちゃんありがとう!」


「あはは。6人パーティー結成だね!」


そう言って微笑む神羅の顔はオームと雷音、二人の目にとても美しく見えたのだった。


それから6人はミリルの家があるアシュレイ領に向かうことになったのだが……その前にやることがあるらしい。


それは……武器屋に行くことだった。


6人が向かったのは『アマゾネス』という名の店だ。


この店では女性向けの防具や服を取り扱っている。


もちろん男性向けもあるが、そちらはかなり高価なため、よほど金持ちでなければ手が出せない代物ばかりだ。


アマゾネスには女冒険者用の装備もたくさん置いてあるので、女物の装備品を買うならアマゾネスに限るのだ。


そしてここで購入する理由はもう一つある。


アマゾネスの店主は元女戦士だったのだ。


しかも凄腕の女戦士だったらしい。


そんな女戦士に指導してもらえるチャンスなのだ。


アマゾネスの女主人の名は紅茜と言った。


かつてはアシュレイ軍の将軍まで上り詰めたこともある実力者で、今は引退してこの小さな店を営んでいるそうだ。


「拙者は女でも強くなれる方法を探し続けておりました。それでたどり着いたのが魔法の力を武器に付与する魔法剣でござる!拙者の技はすべて自己流です。悔しいですが男と女は骨格も筋力も全てが違う。この差は根性や努力では埋まりませぬ。伝説の最強魔女ラスヴェードでもない限り……されど魔力は別です。肉体のフィジカルは男が上でも魔法の力は女性が上でござる。拙者はその条件を生かし我流の魔法剣技紅流抜刀術を編み出しました。」


そう言って笑う紅茜に雷華が目を輝かせ説明を聞いていた。


「あの・・・私も教えてもらえるか?」


「勿論でござるよ!」


紅茜と握手を交わすと二人は店内へと入って行った。どうやら話が盛り上がっているようだ。


すると絵里洲がそっと耳打ちしてきた。


「雷華ってあんなキャラなんだ。まるで男の子みたいじゃない・・・」


雷音は笑いながらそれに答える。


「確かにな、でもあいつは元々ああなんだよ。俺は小さい時からずっと一緒だけど男みたいだったぞ?それが突然年頃なのか髪を伸ばしてオシャレとかしだしてな。格好は女の子で性格は男の子、まああんな風になっちまったんだ」


「そう・・・」


「ん?何か気になるのか?」


「うーん、このメンバーの中で私だけまだ雷華ちゃんと打ち解け切ってないんだよね…」


「うーんどうだろうな、このパーティは絵里洲以外古馴染み同士の面子だからな。あいつ人見知りってわけでもないしその内仲良くなれると思うぞ?それより俺ともそろそろ仲良くしてほしいんだけどな」


「・・・それはダメ。あんた今朝私の着替え覗こうとしたでしょ?ケダモノ!」


「それは誤解だ。俺は神羅の着替えを覗こうと、いや下着を盗もうとしたんだ。神羅は勘が鋭く一度も成功したことはないがな。バレるたびにボコボコにボコられた。だが神羅から下着を盗むのは俺の盗賊スキルを完成させるための最終試練なんだ。けど今朝はまさかお前と神羅が同じ部屋に寝てたとは気づかなかったなぁ…犯行現場を見つかったときいつもの3倍神羅にボコられたよ!」


「もう信じられない、サイテー!!」


などと喧嘩を始めた二人をあきれ顔で見ていたユキルだったが、ふと思い付いた様に言う。


「ねえエドナ、エドナはこのパーティーの最年長だよね?」


ユキルは隣にいたエドナに聞く。


「そうやな、みんなの姉さんやね」


エドナは微笑みながら答えた。それを聞いたユキルはさらに質問を続ける。


「それじゃパーティリーダーは私よりエドナがなった方が良くない?


私はあくまでサポートだし」


エドナは少し考えるように黙ってしまった。


それを見たユキルは慌てて言い繕う。


「あ、ごめんね。そんなつもりはないんだ。エドナにはお世話になりっぱなしだから、ただエドナの方が色々考えてそうだし責任もあると思って。だって私達のためにわざわざ異世界から召喚してもらえたわけだし、もし私がこのまま旅を続けていくのならその方がいいんじゃないかと思ったんだ」


するとエドナは急に真顔になってユキルに言った。


「ウチらがこうやってパーティ組めるのはコレが最後になるかもしれへん…。もうじき戦争が始まるかもしれん。阿烈師匠は最近アシュレイ族と同盟結んだそうや。戦争が始まったらウチら敵味方なるかもしれん。ウチその前にみんなと思い出を作りたいんや…オームも多分同じこと考えてる…」


「……戦争って嫌だね」


「ああ、ほんまに嫌や…」


エドナは遠くを見るような目で言った。


そこに突然二人の会話をぶった切る声が入る。


オームと雷音である。


「おい雷音貴様!神羅の着替えをのぞいたらしいな!!許せん!!この変態が!!」


「変態じゃねー!変態と言う名の紳士だ!!それに俺は着替えを覗きたいわけじゃねー!盗賊の極意を会得するため神羅の下着を盗んでみせる必要があるんだよ!!」


「おのれ許さん! いあ! いあ! はすたあ! あい! あい! はすたあ! 」


「んだあ?やるかあ!? ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと! 」


といきなり騒ぎ始めたのだ。


「やめんかいド阿呆!!」


「二人ともそんなくだらない事で封獣を使うんじゃなーい!!」


エドナと神羅はそれぞれの弟を拳骨で黙らせた。




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