第18話 乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-2

三者会談が終わり幾日か経ったある朝、乂家の幕営の前で雷音と雷華が出立の準備をしていた。


「なぁ雷音、ちょっといいか?」


「なんだ?」


「阿乱が私たちが旅立つまえに話があるって」


翌日、雷音一行は旅支度を整えて出発しようとしていたのだが、それを引き留めたのは一番下の弟阿乱だった。


「まずはコレ、阿烈兄さんが雷音兄さん達に渡してやれって預かったモノがあるんだ」


「ん?オイオイこのカード【契約の刻印】じゃないか!?アシュレイ家の家宝がなんでこんなところに!?」


「阿烈兄さんが護身用に持っておけってさ。そしてこれは母さんから雷音兄さんって」


そう言って阿乱は紅い指輪を雷音にたくした。


「なんでも亡くなった母さんのお父さん、つまり僕達のお祖父ちゃんがくれたとっておき御守りらしいよ。もし兄さんが魂の双生児に会ったなら、その指輪はきっと兄さんに力を貸してくれるって……」


「魂の双生児?」


「一卵性双生児とは違う、同じ魂から分たれた運命の双子らしいよ。母さんにも運命の双子がいて、昔その人と協力して邪神を相手に戦ったんだってさ!」


「俺の魂の双生児かぁ…いるとしたらどんな奴かな?……」


「それと僕からなんだけどタタリ族の街に僕の知り合いの腕利きの鍛冶屋がいるんだけどその人を紹介しようと思って」


「いいのかい?それは助かるけど・・・でもなんでまた急にそんなことを?」


「だって二人はこれから魔王オームの所に行くんだろ?だったら武器をもう一つくらいは持っておかないと心許ないだろ?」


「うん、まぁそうだけど」


「旅路は決して楽なものでは無いと思うんだ」


「ああ、そうだな確かに道中何が起こるか分からないからな」


「そこでだよ、もし武器が必要になった時にすぐに取り出せるようにしておくんだ!僕ならどんな状況にも対応できるように準備を怠らないからね!!」


そう言って自慢げに胸を張る阿乱を見て雷音と雷華は顔を見合わせた後、お互いに苦笑を浮かべ


「わかったよ阿乱、じゃあ頼むよ」


「おう、任せて!最高の装備を用意させる!」


こうして二人は阿乱の紹介により腕のいい鍛冶職人の元へ赴くことになったのだ!


鍛治職人は雷音に打撃武器としても使えるガントレットを雷華に一振りの太刀を用意した。


魔剣クトゥグァは二人で使い回して、ここぞと言うときだけ使う武器だ。


鍛治屋が用意してくれた武器は丁度欲しいと思っていた常時用の装備だった。


それからしばらく街道を歩き続けた一行の前に大きな城が見えてきた。


どうやら目的地に到着したらしい。


「あそこか?」


「うん、そうだよあの大きなお城が俺達の旅の目的地だ」


すると二人の上から声がかけられた。


「よう、お二人さん待ってたぞ!」


上を見上げるとそこにはグリフォンに跨った一人の少年がいた。


背丈は雷音よりやや低いくらいで顔は幼さが抜けていない


褐色の肌に金髪と切れ目の金眼


タタリ族を治める魔王オームである。


「よおオーム久しぶりだな。神羅は何処にいる?」


雷音がそう聞くとオームはニヤリと笑って親指で背後を指し示した。


その先には大きな門があり、その前に門番らしき人影が二人見える。


一人は筋肉隆々の大柄の男でもう一人は小柄な老人だった。


そして二人とも人間ではなく亜人だった。


大柄な男は鰐の亜人で小柄な男はゴブリンの魔導士だ。


「あれがここの番人かい?」


「そうだあの二人はリザードマンの勇者とゴブリンの司祭だ。戦闘能力は高いんだが人間語が喋れなくて会話が成立しないかもしれないぜ?」


「へぇ、そりゃ大変だな」


「まぁな、だからあいつらに用があるなら力ずくで突破するしかないぞ」


「わかった。じゃあ行ってくるよ」


そう言うと雷音は地面を蹴って跳躍し一気に距離を詰めると空中で一回転して勢いをつけながら回し蹴りを放った。


その攻撃に反応した大柄のリザードマンは斧を構えて防御したが防ぎきれず吹っ飛ばされてしまった!


一方小柄なゴブリンの方は魔法を唱えようとしたもののそれより早く接近してきた雷音に杖を蹴り飛ばされてしまった!


さらにそのまま鳩尾に拳を食らって悶絶している所を更に追撃され地面に倒れ伏してしまった!


「おーやるなぁ、流石は赤の勇者様だ」


「いやこれくらい当然だろ」


「けどまだ終わってないぞ」


吹っ飛ばしたと思ったリザードマンは何事もないように立ち上がった。


「フフ、やるな小僧!さすがは灰燼の覇王乂阿烈の弟!」


「オイオイ、あんた人間語めっちゃ流暢にしゃべるじゃん。それよりさっき結構まともに攻撃入ったよな?」


「ふふふ。このワニキス、魔王軍の中でも随一のタフネスを誇る。舐めてくれるな」


「あ!…まさかメギドの城壁ワニキス!? そうかあんたが……」


「いかにも俺はかつてメギドの城壁と呼ばれた者よ!」


「なら俺の攻撃力じゃ倒せないな……ここは魔剣クトゥグァを使うしかないかな」


「いやいや、丁度2対2だ! 私も助太刀するぞ雷音!」


雷華が魔剣クトゥグァを構え雷音の横に並ぶ。


「……仕方ねぇか、頼むぜ雷華!」


「任せろ!」


2人は同時に駆け出すとワニキスに斬りかかった。


だがワニキスはその巨体からは想像もできないようなスピードでかわすと逆に殴りかかってきた。


それを2人とも後ろに跳んで回避すると今度は2人が同時に攻撃を仕掛けた。


しかしワニキスはそれを難なく捌くと再び2人に殴りかかる。


だが2人もこれを紙一重で避けると再度攻撃を繰り出した。


そんな攻防をしばらく続けていたのだがやがて戦いに変化が現れた。


最初は互角に見えた2人の斬撃だが徐々に雷音が押され始めてきたのである。


(くそ、やっぱ強ぇなこいつ!くっ、なんてタフさだ……このままじゃまずい)


雷音と雷華が焦りを感じ始めた頃、ついに決定的な出来事が起こった。


なんとワニキスの攻撃が雷音の脇腹に命中したのだ!


「ぐっ!?」


思わずうめき声を上げ膝をついた雷音に止めを刺そうとワニキスが迫ったその瞬間だった。


「お姉ちゃんキーック!!」


突如横から何者かが現れ目にも止まらぬ速さでドロッププキックをワニキスの顔面にお見舞いしたのだ。


そしてそれは雷音も見覚えのある人物だった。


「……神羅!」


「神羅姉様!」


「うーはははは!危ないところだったね。我が弟妹たち!」


神羅はそう言って笑うと雷音を立ち上がらせた。


「ありがとう助かったぜ神羅」


「どういたしまして。それで、そっちの人大丈夫?」


そう言って神羅は倒れたままのワニキスの方を見た。


「ん、ああ、心配はいらん。少し脳震盪を起こしただけだ。流石は乂一族の姫様だ」


そう言うとワニキスはゆっくりと立ち上がった。


「若!試し合いはもうこのぐらいでよろしいですか?」


ワニキスはオームに手合わせ中断の許可を求む


「……そうだな。もっと雷音がボコボコにされるのを見たかったが、ちょっとまずいことになった……」


「どうしました?」


「さっきからザビエル司教が口から泡吹いて起き上がらない……」


雷音の当てところが悪かったのか小柄なゴブリンの司教は変な痙攣をしたまま起き上がらなかった。


みんなの顔がさーっと、青くなる。


「やばい、早く医者に連れていかないと!」


「すぐに回復魔法かけるからとりあえず医務室に!」


雷音達は再会の感動を味わう間も無く、魔王城の中に入っていくのだった。


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