第17話 乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-1

第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル


 


スラルに住む人達は基本的に遊牧民族だ。


羊や馬などを飼いながら移動しながら生活している。


しかしたまに旅の途中で立ち寄る村もあるし、町だってあるのだ。


ここはそんな町の1つだった。


宿屋の前に立っている看板には『星のかけら亭』と書かれている。


「さて今日も頑張るのだ!」


私の名前はミリル・アシュレイ今年9才になる冒険者で魔法使いでもある。


髪の色は黒で肌は褐色、まあダークエルフの血を色濃く引いているから当然である。


顔は自分で言うのもなんだが、なかなか可愛い方だと思う。


今日はこの町を治める私のお兄にいちゃんリーン・アシュレイに会いに来た。


お兄ちゃんは私と同じダークエルフの血を引いているのに、なぜか肌が白い。


アルビノなのだろうか?


肌が白いダークエルフ系なんて迫害されそうなものだがお兄ちゃんの場合は違う。


なぜかみんなお兄ちゃんを過剰なまでに恐れ敬い平服している。


父のトグリル・アシュレイまでも神子と呼びお兄ちゃんを特別扱いしている。


だけど私には普通にやさしいただのお兄ちゃんである。


今日はそのお兄ちゃんに召喚魔法を教えてもらう約束をしているのだ。


お兄ちゃんは今お城で大事な会議をしてるらしい。


あー早く会議が終わるといいな。


新しい召喚魔法を早く覚えたいのだ。





アシュレイ族はスラル7部族の中で最も勢力を伸ばしている部族である。


リーン・アシュレイ


神子と呼ばれるこの男が一族に生まれてからアシュレイ族は盛りを迎えることになった。


齢若干13歳


凛とした涼やかな容貌の少年。


終始無表情で、畏怖・重圧さえ感じるような気配をまとっている。


彼は魔法の立体パネル越しにリモート会議をしている。


傍には、短髪白髪の人形のような少女が付き添っている。


立体パネルに今日の会議相手の姿が映る。


右のパネルに乂阿烈と妹の乂羅刹


左のパネルに黒天ジャムガと黒髪長髪黒衣装の仮面をかけた少女


彼らは皆この世界の理をひっくり返そうとしている怪物を超えた怪物たちだ。


「では、これより緊急対策会議を始める」


阿烈がそういうと、他の二人が頷いた。


「まず最初に、我らより、重大な発表がある」


阿烈がそう言うと、画面の向こうの二人の顔が引き締まった。


「単刀直入に言おう!ワシは今日をもって貴様らの仲間になった!!」


「父トグリル王も貴殿の同盟申し出を歓迎してます。だがその前に確認したいことがあります。」


「なんだ?」


「なぜ貴殿は我々に協力する気になったのですか?」


「簡単な話だ!ワシが求めるものはただ一つ!強さのみ!!そしてこの世界の理を覆す圧倒的な力のみがワシを満たすことが出来る!!そのためなら手段を選ぶつもりは無い!それが例え悪魔の力を借りることであってもだ!!」


「つまりタイランド族に掻っ攫われたお前んとこの下のもん、取り返す準備ができたんだな?」


「そういうことだ黒天、我が幼馴染よ。2年前我が父舜烈は何者かに殺され世を去った。族長を失った乂族は統制を失っていた。ワシの叔父筋にあたるタイラント族族長アングは舜烈の後継は自分だとほざきワシらを乂族の幕営から追い出した。」


「ぶははは!笑わすな阿烈!乂族がお前らを追い出したんじゃなく、お前がブチ切れて暴れるから、皆が怖がって逃げ出したんだろ?」


「ぐぬぅ…」


阿烈が言葉につまり呻く。


そう、タイラントの族長が阿烈一家に族長権の譲渡を迫った日、タイラント族の幹部数人と乂族の裏切り者数人をド派手に殴り殺してしまったのだ。


最初の一人を全力パンチで殴ったら、その男は死体も残らず消滅し、彼の遥か後方にあった大きな岩山がパンチの風圧で穴が開きトンネルが開通してしまった。


その光景を目にした乂族の民は悲鳴を上げ我先にと逃げ出してしまったのである。


その日阿烈は父を失ったことでイライラしており、あまりに強すぎる阿烈は乂族の民達から核爆弾のように思われていた。


乂族からすれば核爆弾が目の前で爆発したようなものである。


9割の乂族の民はタイラント族に扇動され阿烈の下から逃げ出した。


「ぶはははは!あの日あった光景は今思い出しても笑えるぜ!」


「ジャ、ジャムガ〜!おんどりゃテメこのヤロ〜!」


阿烈がギリギリ歯軋りする。


ジャムガは構わず爆笑する。


スラル広しといえど乂阿烈をからかえるのは黒天ジャムガくらいなものだ。


「聞けば、タイラント族は乂族の民に圧政を敷き奴隷のように扱っているそうですね。貴殿の怒りももっともだ」


「ふん!あの下衆どもめ!だが今は我慢の時!タイラントの圧政を嘆き昔を懐かしむ者の声は多い!連中から必ず我が民草を奪い返してくれる!」


「で?具体的に何するんだよ?」


「もうじきタイラント族の中にいる乂族の人間がクーデターを起こす。だが我ら乂族とタイラント族の争いの隙を狙って他の部族が攻め行ってくるかも知れん。」


「鳶に油揚げをさらわれるちゃたまらんてわけか…」


「わかりました。タタリ族やメギド族、ナイン族が軍事介入しないよう我らが目を光らせましょう」


「俺達ジャガ族もアシュレイ族と同意見だ」


「代わりと言ってはなんですが、今我々はメギド族と諍いが起きてます。近い将来我らとメギド族と戦争になった時は助太刀をお願いしたい。」


「うむ。その時は喜んで力を貸そう!」


「交渉成立ですね。では早速ですが貴方にはこれをお渡ししましょう」


そう言ってリーンはアイテムボックスの中から一枚のカードを取り出した。


「これは?」


「それは【契約の刻印】と呼ばれるものです。これを所持している者は我々が契約している召喚獣の力を借りる事ができます。ただし1日に使える回数に限りがありますが」


「ほぉ~それが噂に聞く……いいのか?こんな貴重な物をワシに渡して……確かアシュレイ家の家宝であろう?」


「えぇ、貴方が味方についてくれるのなら心強いですし、何より貴方の父上は私達にとって恩人ですからね。これくらいはさせて下さい」


「そうか、そういうことなら遠慮なく使わせてもらおう」


「では、これで話は終わりです。お時間を取らせました」


そう言うとリーンは会議を打ち切った。




乂家の幕営にて阿烈は思案に暮れる。


(ふむ・・・それにしてもリーンか、強い!黒天ジャムガと同格の圧を感じる!……この阿烈が警戒心を抱くとは!アレはヒトではないな…)


会議が終わった後、一人部屋に残った阿烈はリーンと会話したときに感じた


「違和感」の正体を突き止めるべく思考を巡らせていた。


するとそこへ彼の一番下の弟が現れた。


「阿烈兄様、いかがなさいましたか?」


「おぉ、阿乱よ!ちょうどいいところに来たな!お前に聞きたい事がある!あのリーンとかいう男をどう思う?」


「……あの男ですか……正直私にもよくわかりません……がヒトではないです。」


「なぜそう思う?」


「はい、実は私、一度だけ彼を見たことがあります」


「なに?いつのことだ?」


「あれは私が5歳くらいの頃でした……確か私は木登りをしていて誤って落ちて気絶してしまったのです……目が覚めた時には家の中に運び込まれ既に夜になっていましたが、ふと家の外を見ると見知らぬ男が家の前でじっと佇んでいたのです……」


「・・・それで?」


「最初は不審者かと思ったのですが、その男と目が合った瞬間体が動かなくなったんです。まるで蛇に睨まれた蛙の様に・・・」


「・・・・・・」


「そしてその男は私の前まで来ると窓越しにこう言いました『お前の兄はいずれこのスラルを変えるだろう』と」


「・・・・・・・他には何か言ってなかったか?」


「いいえ、それだけ言うと男は闇の中に消えていきました。それ以来一度も会っていません」


「そうか、わかった…」


阿乱が去ると阿烈は再び思考を巡らすのだった……


(あの男にワシは昔会った気がする。どこでだ?あれほどの猛者を忘れたりするはずないのだが……)




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