第16話 乂阿戦記1 第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン-5
地球の雲の中にあるアポロパルテノン
そのアポロパルテノンにある謁見の間でヨドゥグはセオスアポロに土下座していた。
服装はドアダ七将軍ヨクラートルの服装ではない。
顔のメイクはなく服もピンク色の少し派手なだけのスーツだ。
彼の右隣に狗鬼漢字の母ユノが正座している。
少し離れた柱の陰でユノの姉アタラがハラハラしながらヨクラートル達を見守っている。
アタラ以外にもセオスアポロが暴れだした時に備え他のオリンポス12神達が息を潜め待機している。
セオスアポロはヨクラートル達を見ようともせずそっぽを向いて突っ立っている。
「お義兄さん、今までご不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ございませんでした。」
「……誰が義兄さんだ?殺すぞ道化」
「俺、子供達を連れ戻したらユノとキチンと籍を入れやり直します!」
セオスアポロの額に太い血管が走る。
ユノが嬉しさのあまり目をウルウルさせ涙ぐむ。
「ユノと籍を入れたら獅鳳とユキルを正式に養子にして地球で一緒に暮らそうと思うんです!」
セオスアポロの口元から血が一滴流れ落ちる。
歯を食いしばりすぎ歯ぐきから血が出たのだ。
「あ、俺地球じゃちょっとした会社の社長やってて、この作戦が終わったらドアダを引退して堅気になります。もちろん俺の祖父さんも納得してくれてます!」
「うう、ヨドゥグ!」
「よ、よせよユノ!抱き着くな!お義兄さんの前だぞ……」
セオスアポロの体が小刻みに震え、目が真っ赤に血走る。
「ああ、この戦いが終わったら地球の俺の経営してるホテルでユノと結婚式を挙げます。お義兄さんもぜひ来てください!!」
ブチッ!
セオスアポロは怒りのあまり目の前が真っ暗になり、何秒か立ったまま気絶してしまった。
とうとう我慢できず振り返りざまに爆破攻撃を仕掛けようとしたがもうヨクラートル達の姿はなかった。
どうやら自分が思考停止してる間にスラルに旅立ったらしい。
彼の目の前には高価な折り菓子と一緒に結婚招待状が置いてあった。
「あ、あのくそ道化がぁ!盛大な死亡フラグを立てて旅立ちおって!旅先で死んだら貴様の道化人生を心の底から嗤い飛ばしてくれる!!」
セオスアポロは結婚招待状を受け取らずそのまま自室に引きこもった。
とある遊牧民の集落で童2人が武道の組み手を交わしていた。
一人は乂雷音、もう1人はその妹乂雷華
クトゥグァ洞窟で魔剣クトゥグァを抜いた乂雷音だが、今彼の手に魔剣クトゥグァはない。
魔剣は2つ年下の妹雷華が持っている。
その形状は炎を纏った紅い大太刀。
雷音の両刃斬馬刀の形状とまるで違う。
どうやら魔剣は持ち手に合わせその形状を変えるらしい。
クトゥグァ洞窟の一件から目を覚ました雷音は真っ先に魔剣を携え兄羅漢と姉神羅を探しに行こうとした。
だが長兄阿烈に魔剣を取り上げられ魔剣は妹の雷華に渡された。
長兄は言った。
「未熟なお前が旅に出たところで死ぬ。どうしても旅に出たくばワシの出す試練を見事成し遂げて見せよ。そうさな、魔剣を持った雷華を相手に素手で戦って勝て!ハンデ付きとはいえ年下の女に負ける未熟者を旅に出すわけにはいかん。」
以来雷音は旅の許可を得るため妹雷華に試合を挑むことになった。
恐ろしいことに妹は雷音のように魔剣に支配されることなく、それどころか雷音以上に魔剣の力を引き出し見事なまでに使いこなしてみせた。
自分の才能のなさに本気でへこむ。
雷音は四肢を龍化させ武器を持たず雷華に挑む。
雷華は凛々しい顔立ちをした、腰まで届く艶やかでしなやかな赤髪をポニーテールで括った美しさを思わせる少女だ。
「行くぞ兄よ!」
雷音が構えると雷華は剣先を地面に向けた。
そして一気に距離を詰める。
すると刀身が赤く発光し雷音の身体を切り刻もうとする。
だが雷音はその攻撃を見切り紙一重でかわす。
そのまま雷音は拳を振りかぶろうとするが、振り上げた瞬間に雷音は地面に叩きつけられた。
羅漢直伝の合気の技を雷華がはなったのだ。
「ぐぁ!!」
「どうした?そんなもんか?」
「くそぉ……ならこれで……」
雷音は脚に力を入れ立ち上がろうとするがまた地面に叩きつけられる。
(くそ……)
「不甲斐ないぞ兄よ!さっきまでの威勢はどうしたんだ?」
「んにゃろ!!」
今度は起き上がらず寝転がりながら蹴りを放つ。
しかし、それは簡単に避けられてしまう。
「甘い!」
雷音はさらに攻撃を繰り出すがやはり当たらない。
妹雷華の俊敏性は大体雷音と同じくらい。
だがとにかく無駄な動きが少ない。
対して雷音は威力重視の大振りな動きが目立つ。
だからいつも雷音は空振りでヘトヘトになった所を雷華に一本入れられ負けてしまう。
「くそ!!」
雷音は悔しそうに叫ぶ。
すると突然目の前に現れた白髪の女が大声で叫んだ。
「いい加減にしろ!!いつになったら終わる!?飯の時間だ!!さっさと切り上げて朝飯を食え!!」
二つ年上の姉羅刹である。
「どうせこのまま闘ってもお前の負けだ!お前は無駄な動きが多すぎる。しかも性格的に女に甘すぎだ。妹相手だから余計に手心が出てる!」
「そ、そんなことねぇよ!」
「いいから飯だ!」
姉にボカッと殴られ雷音は渋々朝食の席に着いた。
「ねえちゃん……」
雷音がため息混じりに言うと姉である羅刹は弟の前髪を引っ張りながら言った。
「今日は仕事がある!いいから早く食え!」
「いたいいたい!わかったよ~」
雷音は仕方なく姉が作った朝食を食べ始めた。
(ああ、神羅と羅漢兄ちゃんを探しに行かなきゃいけねぇのに!俺が魔剣を抜いたせいで二人は…)
神羅にいいとこ見せようと魔剣クトゥグァを抜いた自分の行為が悔やまれる。
二人がいなくなって引きこもりになった日もあった。
だが今更後悔しても遅いのだ。
彼は持ち前の前向きさで兄姉を探しに行く事を決意していた。
食卓に彼らの兄阿烈が入ってきた。
「大兄おはようございます。お早いお帰りですね。珍しい。」
羅刹が阿烈に朝の挨拶をする。
「うむ、今回の軍会議は速く片付いた。雷音、ウヌに伝えることがある」
「ん?なんだ?」
「神羅が見つかった。今婚約者のオームのところにいる」
雷音は食べていた朝食を盛大に吹き出しせき込んだ。
「……はぁ!?どういうことだ!」
突然のことに驚く雷音に対し、阿烈は冷静だった。
「許可をやるから神羅を迎えに行け。必要ならば我が軍の兵を何人かつけてやる」
「お、おおわかったぜ兄貴」
そう言うと雷音は朝食をかきこみ家を飛び出した。
「待て、雷音一人で行くつもりか?」
雷華が慌てて呼び止めると雷音は振り返って言った。
「兄貴の部下を引き連れて行ったらタタリ族から戦争に来たと思われちまうぞ? ここは俺一人で行った方がカドが立たねぇ」
そう言って再び駆けだした。
「待て!私も行く!私も神羅姉さまが心配だ!」
雷華も魔剣を携え雷音の後を追った。
「羅刹…」
「は!」
「隠密行動が得意で腕の立つ兵を何人か雷音と雷華の護衛に回しておけ」
妹羅刹にそう命じ阿烈は食事の席についた。
「……まったく手間のかかる弟達だこと」
そう言って羅刹はため息をつき幕営に控える兵に命令する。
「ラキシス軍曹、何人か引き連れ弟達の護衛を頼む。」
「は!かしこまりました!」
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