第13話 乂阿戦記1 第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン-2
雲の中にギリシャ神話に出てくるような神殿が浮かんでいる。
ここはオリンポスの神々が住む黄金宇宙と黒の宇宙をつなぐ中継基地アポロパルテノン
黄金の宮殿の玉座の間。
そこに一人の女性が立っていた。
白い肌に赤い瞳、栗色の髪の美しい女性だった。
何より目を引くのは頭に生えた犬耳とお尻から生えた1メートルはある尻尾である。
彼女の名はアタラ・アルテミス
かつて魔女エクリプスと戦った地の魔法少女にして、オリンポス12神の一人でもある。
彼女は魔法の携帯電話で誰かと話しをしていた。
「……どうやら地球でまた何かあったようじゃな。大丈夫心配するでない。ヌシの娘は必ず助け出す!ワシは今でもヌシの味方じゃ。信じるがよい!」
「アタラ様、地球に向かうのですか?」
「うむ妹のユノが今大変なことになっておってな…」
「まさか!?」
「いや違うぞ。ユノは今も元気でピンシャンしておる」
「え?そうなんですか?では何故地球に?」
「うむ、実は地球の魔法少女がピンチだと聞いてのぉ」
「ああ、あの娘たちのことですね」
「うむ、その者たちを助けに行くのじゃ」
「アタラ様自ら赴くなんて珍しいこともあるのですね」
「た、大変です。侵入者です! 侵入者がアポロ神殿に攻めてきました!!」
「なんだと? いったいどこのどいつが攻めてきたのだ!?」
「はっ、それが、たった一人です」
「一人だと? 馬鹿を言うな、そんなことがあるはずなかろう!!」
「いえ、それが、本当にたった一人で」
「よし、ワシが撃って出る!」
アポロ神殿に一人乗り込んできた侵入者はヨクラートルだった。
彼は取り押さえようと群がる警備兵たちを羽虫を散らすがごとしなぎ倒していき、神殿の奥へ奥へと邁進していた。
「セオスアポロ! セオスアポロどこにいやがる! くそ金ぴか野郎! 漢児と絵里洲と獅鳳とユキルをどこに連れて行きがったあああああ!!?」
「な、なんだあの道化男は? 我らセオスアポロの親衛隊がああもやすやす蹴散らされるなど!? ええい怯むな、たかだか道化一人に何をてこずっているのだ!! 早く捕まえんか!!!」
ヨクラートルは迫りくる兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げてどんどん先へ進んでいった。
そしてついに目的の場所までたどり着くのだった。
セオスアポロは謁見の間の金で出来た玉座に腰かけヨクラートルを見下ろしていた。
「よぅ、金ぴか野郎。ようやく見つけたぜ」
「ほう、ここまで来れるとは、腐ってもドアダ7将軍の一人か……で? 何をしに来た? 次は殺すと言ったはずだが?」
ヨクラートルは両手をついてセオスアポロに嘆願する。
「子供たちを返せ!…返してくれ!!」
「嫌だと言ったら? お前ごときの力で何ができるというのだ?」
「……俺は確かにロクデナシのダメ親父だが、それでも漢児たちの父親なんだ! ユノが子供たちの帰りを待ってるんだ、だから絶対に連れ戻す!!」
「ふん、威勢だけはいいな、子供らを帰して欲しいと言うのならばかかってくるがいい、返り討ちにしてくれるわ!!」
ヨクラートルは一気に加速すると飛び上がりセオスアポロに飛び掛かった。
しかしそれはフェイントで本命は飛び上がる前に後ろ手で投げたカードの手裏剣だった。
カードの手裏剣が弧を描き後ろからセオスアポロに襲い掛かる。
だがカードはセオスアポロに当たる直前に爆発して四散した。
「読まれてた!?」
セオスアポロが手をかざすと爆発音が起き衝撃波が発生しヨクラートルを吹き飛ばす。
以前の戦いの時と同じだった。
だが今回の戦いではヨクラートルは気絶しない。
ダメージを受けながらもそれなら接近戦とばかりセオスアポロに突っ込んでいく。
彼は猛烈な目的意識で自分が気絶するのを許さなった。
セオスアポロは土煙が舞い上がる中、突っ込んできたヨクラートルの腕を掴み地面に叩きつけた。
そして上から踏みつけると腕をねじ上げ動けなくしてしまう。
「……うぐぐっ!」
痛みに耐えながらも必死に抵抗しようとするもびくともしない。
そしてセオスアポロが足をどけ、すぐさま爆発の衝撃波をヨクラートルに叩き込む。
ヨクラートルが白目をむく。
「……所詮この程度か、やはりクズだな、貴様などもはや必要ない。せいぜいそこで寝ているがよい」
そう言って立ち去ろうとした時だった。
突然背後から殺気を感じたのだ。
慌てて振り返るとそこには傷ついた体を押さえながら立ち上がるヨクラートルの姿があった。
その姿はまさに満身創痍といった様相だ。
「まだ生きていたのか、しぶといやつだ、今度こそ確実にとどめを刺してやる」
セオスアポロは再び手を振り上げたその時だった。
なんとヨクラートルがカードの束を上に放り投げ詠唱を唱えた。
『我願う、契約に基づき汝を召喚する! 出でよ我が封獣ユグドラシル!!』
その瞬間、空から凄まじい光が降り注ぎ巨大な魔法陣が現れたかと思うと、そこから神々しいオーラを纏ったウサギの耳を付けた天使が姿を現したのだった。
そしてその天使が手に持った錫杖を振り下ろすとヨクラートルの体は光に包まれ輝きだした。
「変!神!」
すると見る間に傷が癒えていくではないか。
そして完全に回復した時にはヨクラートルは赤紫の鎧を纏った変身ヒーローの姿になっていた。
頭部に兎耳にも似たパーツがついている。
これにはさすがにセオスアポロも驚きを禁じ得なかった。
「なんだそれは!? そんな力まで隠し持っていたというのか!?」
「そうだ、これが俺の切り札だ、これで形勢逆転だな!」
そう言うとヨクラートルはカードを一枚手に取ると叫んだ。
「ユグドラシル、俺に力を貸してくれ! モードチェンジ! エレメンタルフォーム!!」
そう叫ぶと同時に手に持っていたカードを天に掲げると桜の木の枝が舞い降りてきた。
枝は光の粒子に分解され、それが再び一つに収束し姿を変えたのである。
そこに現れたのは弓だった。
女神ユキルと契約を交わした者だけが持てる封獣ユグドシラルの攻撃武具『ユグドラシルの聖弓』。
あの日、記憶喪失のユキルの保護者になると誓ったその日、女神ユキルは無意識にヨクラートルに勇者の力を与えていた。
今まで気づかずにいたが、子供たちを助けたいと言う思いが彼に勇者の力を目覚めさせたのである。
「俺は確かに禄でもないダメ親父だ。だけどよう…だけどよう、自分の子供が危機に陥ってる時何もしないでいる卑怯者にまで堕ちるわけにはいかねえんだよ!!」
そう言いながら弓を引き絞って狙いを定めると矢を放った。
放たれた矢は光り輝く軌跡を描きながら飛んでいき、そのままセオスアポロの心臓を貫ぬこうとする。
「ふん、こざかしいわ道化! 出でよ封獣アトラスタイタン!!」
セオスアポロが履いていた黄金の靴が光を放つ。
するとそこから巨人が現れたのだ。
全長20メートルはあるだろうか? 橙色の体に黄金色に輝く装飾が施された巨人である。
そして突き出た鼻とした下顎から覗く牙が猪を思わす。
巨人が手にしたこん棒でセオスアポロを叩こうとするとこん棒は光に包まれ粒子の塊になり、吸い込まれるようにセオスアポロの体にまとわりついた。
「変!神!」
セオスアポロが叫び声を上げると巨人の体はみるみる小さくなりやがてセオスアポロの体と融合した。
セオスアポロの姿は変わっていた。
セオスアポロもまた黄金の鎧をまとった変身ヒーローの姿になっていた。
そしてその目は金色に輝いている。
変身し、強化された爆破の力で『桜兎の聖弓』の一撃をはたき落とす。
「ふはははははっ! どうだ道化! これこそ我が真なる姿! 我こそは太陽神セオスアポロ! 主神デウスカエサルの後継者にして黄金の勇者なり!」
セオスアポロが黄金色のビームサーベルを抜き切りかかる。
負けじとヨクラートルもピンク色のビームサーベルを抜きそれを防ぐ。
つばぜり合いをしながら二人はにらみ合う。
「ぬう!? この力、以前とはまるで別物ではないか!! 一体貴様に何があったと言うのだ?」
「…息子によう、お袋に甘えんなってぶん殴られたんだよ! そうさ、俺は色んなもんに言い訳つけてユノに甘え続けてた。……ダッセェよな。俺はユノに何も報いてやれてねえ! 恥ずかしくて涙がでらあ!」
「き、貴様!?」
剣を交わしながらヨクラートルは哭いていた。
「だけどもう迷わねえ!何か一つ俺はアイツに報いてから死ぬ!アイツが一番大事にしてるガキ共を命をかけて取り戻すんだよ!もう一度言う!金ピカ野郎!漢児達を何処にやった!?」
「ふん、貴様如きに教えてやる義理はない!」
「そうかい……だったら力ずくでも吐かせてやんよッ!! いくぜぇーっ!!」
白熱するセオスアポロ対ヨクラートルの戦い。
「オラァッ! どうしたぁ!そんなもんかぁっ!!」
「ぬぅう……おぉおおおっ!!」
激しい打ち合いを繰り広げる両者。
「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれえええ! その覚悟をもっと早く見せていればユノは苦しまず済んだものを〜〜〜っ!! 最早許さん!神と人の力の差、その身を持っておもいしるがいい!機神招来アトラスタイタン!!顕現せよ金猪の巨神よ!!」
怒り狂ったセオスアポロは、自分の足元に描いた魔法陣から巨大な機械仕掛けの巨神を呼び出した。
それはまるで、神話に出てくるような姿だった。
ウガアアアアアア!
セオスアポロに呼び出された巨大ロボが雄叫びを上げる。
「ば、馬鹿な!?魔法少女の協力なしで一人で封獣を巨大ロボ化した!?」
「貴様ら人間と神たる我を一緒にするな!封獣は神か、神に比する人間ならば魔法少女の力を借りずとも一人で機神招来が可能なのだ!そしてこの機体はただの機体ではない! 我が権能により、本来の力を遥かに超えたパワーを発揮することができる! さあ行け、我が僕よ!あの忌まわしい小バエを叩き潰せえぇぇ!!!」
ゴオオオォオン!!! と、巨人が地響きを立てて突進してくる。
「くっ!」
間一髪で避けるも、余波で地面が揺れる。
あんなものまともに食らったらひとたまりもないぞ……!
「いい加減にせぬか兄上!!!」
その時、突然、空から声が降ってきた。
見上げると、そこには、栗色の髪をなびかせた少女の姿があった。
いや……あれは女の子じゃない、女神だ。
彼女が降りてくると同時に、周囲に眩い光が満ち溢れる。
「これは……!」
思わず目がくらむほどの光量だったが、次第に視界が戻ってくる。するとそこには、一人の美しい女性が立っていた。
背まで届く栗色の髪に、透き通る様な白い肌、瞳は宝石のように紅く輝いている。
服装はギリシャ神話に出てきそうな白いドレスを纏っていた。
彼女はゆっくりと地面に降り立つと、凛とした声で言い放った。
「もうやめるのじゃ、セオスアポロ!」
「ぬう!? 何故止めるアタラ!!」
「おぬしの目的は妹ユノを助ける事じゃろう!? なのにユノの想い人を殺してなんとする!?」
そう言って、彼女――アタラと呼ばれた女神は俺の方を見た。
「だからそこの男が全ての元凶だ! そいつさえ殺せば全てが終わる!」
「……いい加減にしろこのシスコンッッ!!」
アタラが両手を叩き呪文を詠唱する。
「我、アルテミス•アタラ、地の魔法女神にしてオリンポスの月の女神、命令する。封獣アトラスタイタンよ。アタラ•アルテミスの名の元の具足に姿を戻せ!」
巨大ロボは姿を消し、後には通常姿のセオスアポロだけが残った。
猪のような紋章が刻まれた金色の靴、
どうやらそれが封獣アトラスタイタンの通常形態らしい。
封獣に関する命令権はアタラの方が上のようだ。
「おい、アタラ!!」
「やかましい! オリンポスの筆頭代行が私情で動くな!」
セオスアポロがぐぬぬと、顔をしかめ押し黙る。
「ドアダ7将軍…いや、赤紫の勇者ヨドゥグよ。まずは誤解を解こう! 漢児達を異世界に攫ったのは我らではない! 灰色宇宙の修羅世界スラルの何者かが漢児達…、いやおそらく女神ユキルを攫ったんじゃ!」
「……なに?」
俺は訝しげに眉を顰めた。
「つまり、今回の一件にはアンタら以外の黒幕が居るって事か? そいつは誰だ? 目的はなんだ?」
「そこまではわからぬ。ただ、ユキルを攫った者達の名は『覇星の使徒』と呼ばれている」
「覇星の使徒だと……?」
俺の脳裏にある男の姿が浮かんだ。
覇星…龍麗国に滅ぼされた魔法少女達の国"女神国"最後の王ゴーム
ゴームは外なる神ハスターの力を使いこなした大魔道士で、そのゴームには覇星の使徒と呼ばれる秘密の組織がついていた。
「うむ。奴らは何らかの目的を持っておるようだが、残念ながら我らにも分からぬのだ……」
そう言うと、彼女は悔しそうに歯噛みした。
「だがユキル達をスラルに連れ去った異世界転生トラック、防犯カメラが捕らえたあのトラックは地球の『覇星の使徒』達が所有するトラックじゃ! 映像を見よ!トラックが漢児達にぶつかる直前魔法陣が浮かび上がっておる!あれはハスターの化身、黄衣の王が使う紋章じゃ!」
彼女が指差したモニターには、魔法陣の他に黄色いローブをまとった老人が映っている。
フードで顔は見えないが、恐らくこいつが覇星の使徒なのだろう。
「この覇星の使徒とかいう野郎が首謀者ってことか?」
「ああ。我もそう思うておる。しかし奴の目的までは分からんのじゃ……」
そこで彼女は少し言い淀んだが、すぐに決意したように口を開いた。
「もし我がお主達に協力するとしたら、それはユキル達を助け出すためだけじゃ! それ以上は何も望まぬ! だから頼む! どうか力を貸してくれぬか!?」
そう言って頭を下げる彼女にセオスアポロが言った。
「ふざけた事を!アタラ、この愚妹め!お前は自分が何を言っているかわかっているのか!?」
「兄者、他のオリンポス12神もワシと同意見じゃぞ!海皇神ノーデンス、鍛治神ギオリック、妖精神ルフバッカス、愛女神セレスティア、地母神デメテル•ダイナマイト、戦女神峰馬アテナ、伝令神ヘルメス、このメンバー全員ワシと同意見じゃ!」
部屋の奥からゾロゾロとただならぬ気配を持った者達がやってくる。
全員で7人
さっきアタラが名前をあげたオリンポス12神達らしい。
とんでもないメンツが一同に揃ってる。
「……チッ」
それを見て舌打ちをしたセオスアポロだったが、彼もアタラの案に納得していないわけではないらしい。
彼はしぶしぶと言った感じで頷いた。
それを見たアタラが満足そうに言った。
「よし! では皆のもの、これより作戦会議を始めるとしようではないか!」
全員が頷く中、俺は一人疑問を口にした。
「なぁアタラさんよ……一つ質問いいか?」
「うむ? どうしたんじゃ、ヨドゥグ殿?」
「アンタってば実はオリンポスの影の支配者だったりする? なんかさっきから凄い貫禄なんだけど」
「ハッハッハ!! 何を言っておるのじゃ、ワシは一介の魔法少女にすぎぬわ。まぁこれでも一応は神々の一柱ではあるのだがのう」
そう言って豪快に笑う彼女を見て思った。
ああ、やっぱりこいつ只者じゃないな……っと。
それから俺達は作戦会議を始めたのだった。
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