第12話 乂阿戦記1 第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン-1

第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン 




「う……うぐ……ここは?」


気がつくと、獅鳳は見知らぬ場所にいた。


周りを見渡すと、そこは鬱蒼とした森の中だった。


木々の間から日の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえてくる。


(さっきまで学校近くの空き地にいたはずなのに……)


突然の出来事に戸惑いながらも獅鳳はとりあえず歩き始めた。


しばらく歩いていると、少し開けた場所に出た。


そこには、大きな木が生えており、その根元に小さな祠があった。


その祠の前で一人の少女が祈りを捧げていた。


白い髪に白い肌、整った顔立ちに透き通るような青い瞳の少女である。


少女はこちらに気づくと声をかけてきた。


「こんにちは、龍獅鳳くん、ですよね?」


「そうだけど、君は誰?」


「私はアヤシキともうします。よろしくね、獅鳳くん」


アヤシキと名乗った少女から敵意のようなものは全く感じられない。


それどころか、親しみすら感じる。


「ここはどこなの?俺は学校の近くにいたはずなんだけど」


「ここ?ここは地球とは別の世界スラルです。」


「……え!?」


あまりに突拍子もない話に思わず聞き返してしまう。


「えっと、つまりどういうこと?」


「うーん、分かりやすく言うと、君らの世界とは別の次元に存在するってこと」


「別の次元……」


確かにそう言われると納得せざるを得ない。


この森だって普通のものではない気がするのだ。


しかし、だからといってはいそうですかと信じられる話ではない。


そんな考えが顔に出ていたのか、アヤシキは少し困ったような顔をして言った。


「まあ、いきなりこんなこと言われても信じられないですよね」


「ごめん」


「ううん、気にしないで」


そこで会話が途切れてしまい、沈黙が流れる。


気まずい空気に耐えられなくなった獅鳳は思わず質問する。


「それで、俺に何の用があるの?」


そう聞くと、アヤシキの表情が真剣なものに変わった。


そして彼女はゆっくりと話し始めた。


「あなたにお願いがあります。」


「……何?」


「私達の世界を救って欲しい!」


その言葉に獅鳳は耳を疑った。


自分が救世主だなんてあまりにも非現実的すぎるからだ。


「それってどういう……?」


「そのままの意味です。私にはあなたの力が必要なんです。だからどうか私に協力してください!」


そう言うと、アヤシキは深々と頭を下げた。


その必死さは痛いほど伝わってくる。


彼女が嘘をついているようには見えない。


だが、いくら何でも話がうますぎるような気がする。


とりあえずもう少し話を聞いてみようと思い口を開く。


「頭を上げてよ。どうして俺なのか教えてほしいな」


「それはあなたが特別な存在だからです。あなたこそがこの世界を救う運命を背負った勇者の1人なのですから」


そこまで言ってから少し間をおいて再び話し出す。


「でも、突然そんなことを言われて混乱する気持ちもよく分かります。ですから、まずこの世界のことを説明しましょう」そう言ってからさらに続ける。


「この世界スラルには七つの部族が存在しています。


灰色にして最強の女神ラスヴェートを信仰する乂族、


黄緑にして千の仔山羊を孕みし森の黒羊シュブニアを信仰するメギド族、


紫にして愛と淫欲の女神エメサキュバを信仰するタイラント族、


黄色にして魔物の巣エキドナを信仰するタタリ族、


翠にして暁の明星ヴァールシファーを信仰するアシュレイ族、


漆黒にして時の女神ルキユを信仰するジャガ族、


白にして7女神の統括者エクリプスを信仰するナイン族


それぞれそう呼ばれています」


「へぇー、なんだかかっこいい名前だね」


「ええ、そうでしょうとも!私はこの世界に住む人々のことが大好きなんですよ」


そんな会話を交わしながら歩き続けていると、いつの間にか町の入り口まで来ていた。


入り口では門番らしき男がこちらを鋭い目つきで睨んでいた。


どうやら町の中に入れてもらえるような雰囲気ではないようだ。


すると、アヤシキが男に話しかけた。


「やあ、久しぶりですね、門兵さん」


「ああ、久しぶりだな、嬢ちゃん。ところでそっちの男は誰なんだ?」


「この人は獅鳳君といって、新しい仲間なんです」


「そうか、そいつはめでたいことだな」


「ありがとうございます」


「よし、じゃあ通っていいぞ」


「はい」


「え!?いいの!?」


「もちろんです」と答えながらアヤシキは獅鳳の手を引き町の中に入っていった。


中に入るとそこは活気に満ち溢れた賑やかな町並みだった。


まるで中世時代の都会のような風景だ。


しかし、どこか懐かしい感じがするのはなぜだろうか……


しばらく歩いていると、不意に声をかけられた。


振り向くとそこには一人の妙齢の美女が立っていた。


その女は紫紺の瞳と紫色の髪をしており、肌は透き通るように白い。


そして何より目を惹くのはその美貌だ。


その美しさはまるで芸術品のようだった。


彼女の名はエメといい、この町を治める領主だという。


彼女は俺のことを知っているようだった。


だが、俺は彼女に会った記憶はない。


いったいどういうことだろう?俺がそんなことを考えていると、アヤシキが話しかけてきた。


「さあ、行きましょう。まずは冒険者ギルドに行って冒険者登録を済ませてしまいましょう!」


アヤシキはそう言って歩き出した。


俺もあわてて後を追う。


しばらくして、俺たちは町のはずれにある大きな建物に着いた。


ここがギルドのようだ。


中に入ってみると多くの人がいた。


受付カウンターに行くと一人の職員に話しかけられた。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどう言ったご用件でしょうか?」


職員は愛想の良い笑顔でそう尋ねてきた。


「実は私たち、冒険者になりたくて来たんです」


「そうですか、それはおめでとうございます。それではまず最初にステータスカードを作っていただきます」


そう言うと職員は一枚の金属板を取り出した。


「これはあなたの能力値やスキルなどを数値化して表示するものです。これを使ってあなたがどんな職業に適しているのかを調べます」


そう言って職員は説明を始めた。


「こちらのカードに手をかざしてください」


言われた通り手をかざすと一瞬光った後、文字が浮かび上がってきた。


【名前】龍獅鳳【種族】人族 【年齢】11歳 【性別】男 【クラス】アサシン


【属性】雷  【魔力色】翠


どうやらこれが俺の現在の能力らしい。


「あなた様はアサシンですね」


「はい、そのようです」


「あなたは弓術や短剣の扱いに長けているようですね」


そう言われて驚いた。


確かに山籠りのサバイバルの経験から弓矢やナイフなどの扱いが得意だったが、まさかそれを見抜かれるとは……


「ところで龍獅鳳様、あなた様には特別な才能があります。翠の勇者です。どうかその力を活かしてください」


「わかりました」


その後、いくつか質問をされ、最後にステータスカードを渡された。


これで手続きは終わったらしい。


次はいよいよ冒険者登録だ。


俺達は早速受付に向かうことにした。


すると、ちょうど良いタイミングで一人の男が現れた。


その男は俺を見つけるなりこちらにやってきた。


そしてこう言ったのだ。


「うおー、獅鳳無事だったか!」


その男は俺の兄貴分狗鬼漢児だった。


「よかったぜ、お前が死んだかもって思った時はどうしようかと思ったよ……」


彼はそう言いながら獅鳳を抱きしめようとしたのだが、何故かその手が途中で止まった。


不審に思ってよく見てみると彼の体は小刻みに震えていた。


よく見ると顔色も悪い気がする。


どうしたのだろうか?


「アニキ大丈夫か?」


俺が尋ねると、狗鬼が指差してる先をみた。


壁に張り紙がある。


張り紙は行方不明者の捜索願い書だった。


この世界の文字なんか知らないはずなのに何故か読めた。


ちなみに今更気づいたことだが、自分達は何故かこの世界の言葉を当たり前のように喋っていた。


行方不明者の名前は乂羅漢、乂神羅とある。


「あれ?ねえアニキこの神羅って子はユキルちゃんじゃないか?」


「それも気になるんだが俺が驚いているのはその横だ!横の張り紙だ。読んでみろ…なぁ、おい、これって…!」


狗鬼はそう言って行方不明者捜索願の横にある一枚の紙を見せてきた。


それは指名手配犯のリストだった。


そこにはこう書かれていた。


『青の魔女』


・我が家の家宝を盗んだ青の魔女を捕まえてください。生死は問いません。ミリル•アシュレイ


そして文の下には青の魔女の似顔絵が描いてあった。


どう見ても絵里洲だった。


「絵里洲〜〜〜っっ!?」


「絵里ちぁ〜〜〜んっっ!?」


大声を上げる俺らに、アヤシキさんが心配して声をかけてくれた。


「あの、お二人ともどうなさいました?」


俺らは、ひとまず落ち着いてからアヤシキさんの説明を受けた。


どうやら絵里ちゃんは既に手配書を出したミリルなる人物に追われているらしい。


しかも家宝を盗み出した犯人として。


それにしても青の魔女とは……おそらく青い髪の魔女だからだろうけれど、何とも安直なネーミングセンスだなと思う。


やはり絵里ちゃんもこの世界に来ていたか。


早く救出しに行ってあげないと!俺とアニキは、すぐにでも出発しようとしたのだが、それを止めたのは意外にもアヤシキさんだった。


彼女は、地理もわからない状態で闇雲に動き回っても仕方がないと助言をくれた。


気は焦るがここは大人しく従うことにした。


「エメお姉様ならきっと良い方法教えてくれます!」


俺たちはアヤシキさんに連れられ、この街の領主エメさんのお城にお邪魔することになった。


エメさんは、人間ではなくなんと元サキュバス族の王女様らしい。


それでこんな立派なお屋敷に住んでるのか〜納得である。


「エメお姉さまー!いらっしゃいますかー!?」


城の中に入るなり、アヤシキさんは大きな声で呼びかけた。


すると、しばらくしてパタパタと可愛らしい足音が近づいてきた。


「はいはーい♪ってあら?どちらさまですか?」


現れたのは、紫紺の瞳と紫色の髪をした妙齢の女性だった。


やっぱりこのヒト美人だなぁ。


思わず見とれていると、彼女が自己紹介を始めた。


「はじめまして♪私はエメと申します。この町の領主を務めさせてもらっています♪」


ぺこりとお辞儀をする仕草がなんとも愛らしい。


つられて俺も頭を下げる。


「ご丁寧にありがとうございます!俺は獅鳳と言います」


「俺は漢児、狗鬼漢児!よろしく頼むぜェ」


アニキの方は相変わらずぶっきらぼうだ。


まぁアニキの性格を考えるとしょうがないかもしれない。


「よろしくお願いしますね♡ところで今日はどのようなご用件でしょうか?」


そうだ!すっかり忘れてたけど俺達はここに絵里ちゃん奪還の相談に来たんだった!! 早速本題に入ろうとすると、横から漢児が口を挟んできた。


「あー実はよォ、俺達の仲間の一人が攫われちまったんだが、アンタの力でなんとかできねぇかなと思って来たんだ」


ちょ!?いきなりストレートすぎるよ漢児!!!もうちょっとオブラートに包んでお願いできないのかな?!ほら、案の定エメさんも困惑しちゃってるよ! しかしそんな心配をよそに、彼女から返ってきた言葉は意外なものだった。


「そういうことでしたら喜んで協力させていただきますわ」


え、いいの??俺達まだ取引条件言ってないんですけど……


あまりにもあっさり承諾されちゃったので、なんだか拍子抜けしちゃったなぁ。


でもこれで絵里ちゃんの捜索に一歩前進だ。


ありがとうエメさん!こちらからもお礼を言うと彼女はにっこりと微笑んだ。


「とりあえず私が知っている絵里ちゃんに関する状況を説明するわね。まずは……」


そう言ってエメさんは状況を語り始めた。


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