第11話 乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-7

漢児は母を先に家に返した後、気絶している父ヨクラートルを背におぶった。


まだこの道化姿の男が実父だという実感はない。


だがそんな悪い男じゃないと直感で感じたので彼は少し嬉しかった。


病院に行く途中気絶したと思ってたヨクラートルに声をかけられた。


「…ここでいい。下してくれ」


「気がついてたのか? …あのよ、アンタ俺の親父なのか?」


「…どうもそうらしいな。思いあたるフシがある。」


「なんだよそれ? マジかよ…」


「…殴ってくれたっていいぜ。なんなら殺してくれたっていい。獅鳳の次にお前には俺を殺す権利がある。」


おぶり続けようとする漢児の背からヨクラートルは無理矢理に下りる。


足元がまだふらつくが痩せ我慢でむりやり自力で立ち上がる。


「なあ、おっさん…」


「んだよ?」


「そこの販売機でシュワシュワする愉快な麦ジュース買うからよ。それでも飲みながらちょっとそこのベンチで語り合おうや」


そう言ってビールを数本買う。


「ちょ、おま、未成年が酒呑むな!」


「うるせー、飲まなきゃやってられっか!」


「ガキが酒に逃げるなんざ10年はえー!」


「んだあ? 何俺に説教垂れてんだ? あんた俺の親父かあ?…あ、親父だったわ!」


漢児がおどけて見せるとヨクラートルは思わずプッと吹き出した。


二人は人気のない公園のベンチに腰掛ける。


缶ビール片手にベンチに腰掛けながらヨクラートルはポツリポツリと語り出す。


「地球とは違う世界の話だ。その世界は戦国時代で俺の親父はそんな時代に龍麗国って言う新しい国を立ち上げた建国王だった。お袋はその建国王の第二婦人でな、お袋のカンキルは俺から見ても欲深な人で、可愛いがっていた自分の次男…俺の弟イドゥグを次の王にしようと陰謀ばっか張り巡らせてた。それに怒ったのが親父の正妻の子だったユドゥグ兄貴だ。兄貴は自分が王になるためイドゥグを殺し、俺も命を狙われた。兄貴に殺されそうになったとき俺を救ってくれたのがお前の母さんユノだった。俺は妹の魔法少女仲間だったユノと仲がよかった。ユノは何故か俺の事を気にしてくれて色々助けてくれてた。けど当時俺はお袋の親衛隊長を務めていたリュエルと婚約してたんだ」


「そのリュエルって人が獅鳳の母親なのか?」


「そうだ、この写真の女だ」


ヨクラートルは懐からペンダントを取り出して中の写真を漢児に見せた。


今だこんな写真を持ち続けるほど、この道化男は、リュエルと言う女を愛しているんだな。


漢児はそう思った。


「この顔…やっぱ獅鳳に似てるな…」


「お家騒動が起きたとき俺の身内は皆ユドゥグ兄貴に粛正された。リュエルも殺されたと思った。俺は絶望のフチに落ちた。そんな時俺を励まし助けてくれたのがユノだった。色々まいってた俺は情にほだされ彼女に甘えてしまったんだ…」


「……つまり俺はその時できた子だってわけか…」


「お家騒動後俺はドアダに亡命し、ユノと離れ離れになった。ユノは龍麗国でエクリプスと決着をつけるつもりでいたし、俺はユドゥグ兄貴に殺されないよう龍麗国を離れた。……というのは建前で実はリュエルが粛正を逃げ延びドアダ7将軍として身を寄せてるって聞いて彼女をおいかけたんだ。けどドアダに着いた時リュエルはもう俺の婚約者じゃなかった。リュエルは別の男を好きになって子供も生まれていた。そりゃそうだ。元々リュエルはお袋の命令で無理矢理俺と婚約しただけだったしな。俺と婚約する前から、心は獅鳳の父親の事ばかり想ってたんだ。リュエルが他の男にものになっちまった事実をみるのが辛くて、俺はまた逃げた。12年前だ。その時にユノと再会して、また甘やかされ甘えてしまった。」


「ああ、そん時に絵里洲が仕込まれたか〜…」


「お、おい、お前、もうちょっと言い方ぁ〜…」


「その時の俺は2歳位か……お袋は俺のことあんたに知らせなかったのか?」


「ああ、何も話してくれなかった。…子供がいたのは知っていたが、俺の子供だとは思わなかった。俺も気づいてやれなかった。すまん…」


漢児は頭を抑え呻く。


(…なんでそういう大事な話を男に言っておかないかね? あんたも悪いぞお袋〜! あー、なんだってお袋はこんな昼ドラみたいな人生送ってんだ!?)


「…すまない。俺がリュエルへの想いをもっと早く断ち切っていたらユノを不幸にはしなかった。俺の子供が生まれていただなんて知らなかった…お前たちの事をもっと早くて気づくべきだった。すまない。すまない…」


ヨクラートルは、立ち上がり頭を直角に下げ漢児に謝罪する。


あーこの謝り方やっぱ俺に似てるわ。やっぱこの人俺の親父だわ。


漢児はビミョーな気分になる。


「聞きたいことがある。あんたはなんで獅鳳に殺されたいんだ?」


「7年ほど前の事だ。俺は殺された弟の仇をとりたかった。弟を殺した兄ユドゥグを倒すため魔女エクリプスを復活させ利用しようとしたんだ。だが、あれは人間が利用できるような代物なんかじゃなかった。蘇生実験の最中エクリプスは暴走し、俺は暴走したエクリプスに殺されかけた。その時リュエルが俺をかばってエクリプスの呪いを受けたんだ。その呪いがもとでリュエルは死んだ。そして死ぬ前に息子の獅鳳を誰かに預けた。まさか預けたのがユノだったとはな……。そしてリュエルは俺にもし獅鳳と再会する事があったらよろしく頼むと遺言を残した。俺は子守とかが好きで、小さかった獅鳳の面倒をよく見てたからな。だから託したんだと思う。けど俺は俺のせいで母親を死なせてしまった獅鳳に申し訳なくてしょうがなかった。何より俺が原因でリュエルを死なせたことが辛くて仕方なかった。リュエルの息子なら間違いなく大きくなったら正義のヒーローになるはずだ。いつかヒーローになった獅鳳に悪の幹部として殺されよう。そうすべきだって思っちまったんだよ」


「…アンタえらく獅鳳のお袋さんにゾッコンだったんだな」


漢児はスックと立ち上がり拳を握る。


「それはそうと最低一発殴らせろ! さすがに色々我慢できねぇ!…」


漢児の額に血管が浮いている。


まじでキレていた。


「おう、どんとこいや!」


ヨクラートルは、黙って頬を漢児に差し出す。


「いくらなんでもお袋に甘えすぎだこのクソ親父っっ!!!」


即死してもおかしくない強烈な一撃を食らいヨクラートルは失神した。






ヨクラートルを病院に連れて行き数刻後、ようやく落ち着きを取り戻した漢児は、ユノに呼びだされた。


2人は静かな喫茶店にいる。


「ごめんね、隠してて…」


「まぁ、なんだ、お互い色々あるよな」


「……うん」


しばしの沈黙の後、二人は同時に口を開いた。


「あのさぁ」


「あのね」


「いいよ、そっちから話してくれ」


「私はお前も絵里も獅鳳も愛してる。大切な私の子供だ。それだけは分かってくれ。」


「へ、そんなもん言われるまでもねぇぜ」


「……そうか、よかったよ」


「……なぁ、お袋から見てあのおっさんってどんなやつだったんだ? 俺はユキルちゃんの叔父さん?なのかな?まぁ親族だってことぐらいしか知らねぇ」


「昔のヨドゥクは今のあなたそっくりだったわよ。情熱的で野心にあふれ、むやみにロマンを追い求め、何事も気合で解決すると思って、どこか能天気で、同時に人を強く惹きつける魅力を持った人。王族なんかやらずどっかのサーカスの道化師になって、子供たちを喜ばせたい。もしくは正義のヒーローになって悪い奴らをやっつけたい。そんな子供みたいなことをよく言ってた。そんな人よ。」


ヨクラートルのことを熱心に語る母の顔を見て、ああ、母はまだあの道化男に恋をしてるんだなと漢児は思った。


叔父のセオスアポロがヨクラートルを本気で殺したがるのも納得できた。


彼からすれば大事な妹の人生を未婚の母にして台無しにしたダメ人間だ。


他にも色々聞きたかったがやっぱり聞くのはやめにした。


とりあえずしばらくはぐるぐる回ってる頭をクールダウンさせたい。


こうして一連の騒動は幕を下ろしたのだった。




それからしばらくして、再び事件が起こった。


空き地でユキチューブの動画を撮ろうと漢児とユキルと絵里洲と獅鳳が集まってる時、突如トラックが突っ込んできて4人が轢かれたのである。


死体はない、


姿もない。


4人は、地球から忽然と消えたのである。




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