第10話 乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-6

一方その頃、とあるビルの屋上では一人の男が双眼鏡で漢児達の様子を見ていた。


男はビルの上に寝ころびながら煙草をふかしている。


そして、空に向かって紫煙を吐きかけた。


「ふぅー……あのクソガキどもめ、好き勝手やりやがって、結界を張って人目を隠すのは大変なんだぞ•••」


派手なピンクの服を着た凶悪なメイクのピエロ、狂乱道化ヨクラートルだった。


彼はユキルが漢児の家に出かけてからずっと漢児達をつけていたのだ。


「久しぶりだな狂乱道化…」


寝転がるヨクラートルを見下ろす影一つ


狗鬼漢児の母ユノだった。


「お、おお、なんだお前さんかい、久しぶりじゃないか青の魔法少女…」


「魔法少女はよせ、私はもう三児の母だ」


「三児? お前さんの子は漢児と絵理洲の2人だけじゃなかったかい?」


「血は繋がらねど獅鳳も今や私の子だ。だから私は3児の母なのだ。」


「獅鳳?獅鳳だって?まさかあそこにいる男の子は!?」


「ああ、そうだ。我が最高の好敵手<暁の明星>リュエルに託された忘れ形見、そしてお前の息子だ」


「よしてくれ! 俺はあいつの父親なんかじゃない!」


「確かにお前と獅鳳は血の繋がりはない。だがお前が懸命に赤子だったあの子を育てたのを私は知っている。お前は紛れもなくあの子の魂の父親だ。」


「やめろ!俺がリュエルの子を育てたのはそんなんじゃねえ!…チ、そうか、獅鳳の奴、生きていたのか」


「そうだ、獅鳳はリュエルに似てとても優秀でな、この私が教えることなど何もないくらいに」


「そ、そうかいそりゃ良かったじゃねぇか、じゃあ、オレはこれで失礼するぜ、これから大事な用があるんだ」


ヨクラートルはそう言うと立ち上がり逃げるようにその場から立ち去ろうとした。


だがそれを阻むかのようにユノは両手を広げて話しかける。


「ヨドゥク、お前まだ獅鳳に殺されるつもりでいるのか? 何度だって言うが彼女の、リュエルの死はお前のせいじゃない!」


「うるせえ、黙れ! 俺は悪の7将軍狂乱道化ヨクラートルだ! あいつは、あの獅鳳は俺の息子じゃねぇ! 正義のヒーローだった暁の明星リュエルの息子だ!」


「いいや、あの子はお前の自慢の息子だ、お前も本当はわかっているはずだぞ、その証拠にお前の顔は昔と変わらないままだ。口は悪いが、ペイントに隠れてわかりにくいが、それでも子供たちを遠く見守る眼は昔のとおり優しいままだ!」


「何が言いたい!?」


「なあ、私と一緒に帰ろうヨクラートル、帰ってもう一度獅鳳と親子2人親子として暮らさないか? 私もお前に話したいことが山ほどあるんだ」


「帰れだと!? 帰れるわけねえだろう、俺にはもう帰る場所なんかねえんだ!! それに今さら俺にどうしろって言うんだ? 今更何をしたっておせぇんだよ!!」


「……そうだな、リュエルの事はもう遅いかもしれない、でも獅鳳との事は今からでも遅くないんじゃないか?」


「はぁ?なに言ってやがる、だから遅ぇって言ってんだろうが、だいたい何でてめぇがそんなこと言いだすんだ? てめえこそ何か企んでんじゃねぇだろうな?」


「ああ、もちろん企んでいるさ、お前を説得する方法をな」


「ほう、面白れえじゃねえか、やってみろよ、やれるもんならな!」


そういうとヨクラートルはトランプカード取り出し構えを取った。


すると突然背後から声がした。


「フハハハハハ、なかなかに面白い三文芝居だな道化」


金髪の男がそこに立っていた。


2頭の猪のような神獣が引っ張る空飛ぶ戦車に仁王立ちしている。


神獣は金色の炎を放ち燃えている神々しい空飛ぶ猪である。


戦車に仁王立ちしている男は、金色の髪に整った顔立ちで美男子と言ってもいい容貌をしていた。


だがその目は氷のように冷たく感情がないように見えた。


「ま、まさか、セオスアポロ?… 15年前7罪の魔女と戦い勝利を収めた伝説の黄金の勇者!?」


ヨクラートルはその金髪の男の事を知っていた。


直接会った事はないが、15年前の大戦で7罪の魔女たちを相手に勝利した英雄だ。


魔法少女や勇者たちを管理するオリンポス神達のNo.2でもある。


「ん?どうした?まさかこの我を知らぬとは言わせんぞ? 我が名はセオスアポロ、オリンポス主神の次期後継者なり。愚かな道化よ、貴様のような地に這う虫ケラが我が妹と対等に議するなぞ恐れ多い、不遜をしれ!!」


そう言い放つとその男はまるで神のごとく絶対的に見えた。


(ちきしょう、なんだってこんな奴まで現れやがった……)


「貴様のこと少し調べさせてもらったぞ…。ドアダ7将軍ヨクラートル、<暁の明星>リュエルに思いを寄せ恋叶わず哭いた道化男。龍麗国建国王ゾディクの第二夫人カンキルの長男でお家騒動で弟を腹違いの兄に殺されたそうだな? だが貴様は兄ユドゥグを恐れるあまり妹ユキルを差し出し粛正の難を逃れたそうではないか? あまつさえ今やドアダなるテロ組織の使いパシリに落ちる体たらく…、いやはや実に道化にふさわしい喜劇人生を送っておるわ。ドアダ7将軍などと大仰な肩書きを背負わずいっそ本職の道化になれ。実に滑稽で笑える経歴だ? フフハハハハハハ!」


「テ、テメエェ!」


激昂したヨクラートルは右手に持っていたカードに魔力を集中しセオスアポロに投げつけた。


だがカードがセオスアポロに当たる瞬間、爆発が起きた。


煙が晴れると無傷のまま平然と立っているセオスアポロの姿があった。


「くだらぬ技を使うな、見苦しい!フンッ!」


セオスアポロが手をかざすと何かが爆発するような音がして衝撃波が発生しヨクラートルを吹き飛ばした。


壁に激突し崩れ落ちるヨクラートルを見ながらセオスアポロはつぶやくように言った。


「ふむ、これで終わったか、つまらん幕切れだったな」


そう言ってまた手をかざしヨクラートルのトドメを刺そうとする。


「やめろ兄上!」


ユノが両手を広げ、気絶したヨクラートルを庇い立てする。


「愚妹よ。なぜその道化を庇う?」


「彼は私の友人だ、いくら兄でもこれ以上は許さない!」


セオスアポロはその言葉に驚いた表情をした。


「ふははは!何を言い出すかと思えば友だと!?••••••なぁ愚妹よ、この際だからズバリ聞く。漢児と絵里洲の父親は誰だ?」


「!?そ、それは……」


言い淀むユノにさらに追い打ちをかけるようにセオスアポロは言った。


「……この薄汚い道化師なのだな?」


セオスアポロは気絶しているヨクラートルの顔を踏み付け憎しげにそう言った。


「そうか、ならばもはや生かす価値もない。殺してくれる!」


「やめて兄さん!」


パァン!!


セオスアポロが悲痛な声を上げる妹の頬を平手打ちで叩いた。


「この愚妹め! いい加減に眼をさまさぬか! いいかよく聞け、これは決定事項だ! お前と子供達はオリンポスに帰還するのだ! 何故こんな道化に惚れた? 男はお前ではなくリュエルを選んだのだぞ!? お前はこの男が自分を愛してないと知って子を身籠ったのか!? お前は俺と同じオリンポス主神デウスカエサルの子! よりにもよってこんなくだらぬ道化に心を奪われるとは! 大体この男は漢児と絵里洲が自分の子供だと知っているのか!?」


その言葉を聞いた瞬間、ユノは膝から崩れるように倒れ伏し、両手で顔を覆って泣き出してしまった。


「さぁ行くぞ、もうここに用はない!黙って子供等を連れ兄と一緒にオリンポスに帰還するのだ!!」


そう言って踵を返すセオスアポロの前に突然人影が現れた。


「待てぇぇぇ!!!」


その人影は必死の形相でこちらに走ってくる漢児だった。


「か、漢児!? どうしてここに!?」


ユノの顔がサアッと青ざめる。


「す、すまねーお袋!なんか爆発音がしたから変身スーツの収音機を使って周囲の情報を探ってたんだ。そしたらお袋達の会話を聴いちまって…」


「し、しまった…」


ユノは愕然とし、ひどく、バツの悪い顔をした。


「あ、ああ、安心してくれ、絵里と獅鳳は会話のこと耳にしちゃいない! 11歳のあいつ等にこんな昼ドラみたいな話聞かせられねぇよ…ガキどもはもう夜遅いからといって先に家に帰した!」


漢児の話をきき、ユノはほっと胸を撫で下ろす。


漢児のいう通りこんなドロドロした秘密を子供たちに知られるわけにはいかない。


「それで、その……俺はお袋が誰に惚れようと別にかまわないさ、でもな、ちょっと今俺も混乱してて、ええと、セオスアポロ…叔父…さん? ええいもう叔父貴でいい! 叔父貴! ちょっと頭を落ち着ける時間が欲しい! どうかこの場は俺の顔に免じ引き上げてもらえないか!? 後日絵里と獅鳳に知られないよう3人でゆっくり話し合いをさせてくれ!!」


漢児は90度直角に頭を下げ叔父に頼み込んだ。


「ち、興がそげたわ! 今日のところは引いてやる!」


そう言うとセオスアポロはくるりと踵を返しその場を去っていった。


去り際に彼は気絶しているヨクラートルに言った。


「このクソダメ人間のクソ道化師が!今日、その命を奪わないことをありがたく思え!」


その顔は憤怒の表情に満ちていた。


そして怒りのあまり言葉がうまく出ないようだった。


しかしなんとか言葉を絞り出した。


それはあまりにも短い言葉だった。


しかしその一言には彼の様々な感情が凝縮されていた。


『次は殺す』


そう言い残し、セオスアポロは夜の闇に消えていった。


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